近隣の川
「それにしても妙な依頼じゃのう。内容的には半日かからず終わりそうなものじゃが、報酬もポイントもCランク相当……確実に何かあると言っているようなものじゃ」
冒険者ギルドを出たところで、クリスがそんな風に言った。
「報酬を払うノーラもポイントを決定する冒険者ギルドもCランク相当の依頼だという認識で共通している以上はそうなんだろうな……というか悪かったな、勝手に依頼受けてしまって」
「何を言っておる。おぬしが自分で考えてその意思で決めたことなら、基本的に儂はそれに従うだけじゃ」
「私も同じよ。というかあてもなくノーラを探すくらいなら、この依頼をこなして会う方がよっぽど確実で生産的だとも思うし……その上あの子の役にも立てるのだから、言うことはないわね」
二人ともそんな風に言ってくれる。まあ何かあるたびに二人の意見を仰いでいても優柔不断と思われるだけだろうし、ある程度は俺の判断で意思決定できるようにはしたいと思うのだけれど。
それでも今回の依頼はかなり妙なものだし、危険があるかも知れないのだから少なくともクリスに大丈夫そうかくらいは訊いても良かった気がする。
何か渡りに船だとばかりにノリと勢いで依頼を受けてしまった。今回は大丈夫かも知れないけど、そのうち痛い目を見そうなので今のうちに反省しておこう。
そんなこんなで俺たちは早速依頼をこなすために、さっそく指定された場所に向かうことにした。
最初に訪れたのはヴェリステルの北側を流れる川だった。
「結構大きな川だな」
「この川がヴェリステルの水源になっているの。ヴェリステルの地下には水路が張ってあって、そこに引き込んだ水を魔道具で吸い上げて生活に役立てているのよ」
「へえ……それじゃあ、その使った水はどうしているんだ?」
「専用の水路が別にあって、一旦一か所に集めて浄化の魔法をかけてからまた川の下流に戻しているらしいわ」
この世界には下水道や浄化槽の役割を果たすものもちゃんとあるらしい。意外としっかりしている。
俺はてっきり汚水をそのまま垂れ流していて、それによる悪影響をノーラは調べようとしているんじゃないかと思っていたので、予想が外れた。
だとすれば、この水質検査はどういった意図があるのだろうか。
そんなことを考えながら、俺は依頼であらかじめ用意されていた一つ目の容器を手に取り、川の水を指定されたとおりに採取する。
「とりあえず一か所は終わったが……特に変わったことはなさそうだな」
「危険、という感じは全くせんのう」
「まあ、安全に越したことはないんじゃない?」
「ステラの言う通りなんだけどな……ただ俺は確実に、この依頼では危険なことが起きると思うんだ」
だからこそ、ここまで何もないと逆に不安になる。
「儂も同感じゃ。このままつつがなく終わるとは、到底思えんのう」
「とはいえここで考えてどうなることでもないし、次の場所に行くか」
そうして俺たちはノーラの依頼書に記されている二つ目の場所を目指して出発する。
二つ目の場所はヴェリステルの南側。
位置関係的に街を横切った方が早かったので、一旦街に戻り、そのまま素通りした。
ちなみにまだ日は登り切っていないので、順調にいけば昼過ぎには依頼を達成できるだろう。
もちろんこのまま順調にいくなんて思ってはいないのだけども。
「二つ目の場所はこの辺りだな」
「ここもさっきの場所と同じくらい街から離れているわね」
「うむ。ただこの場所の方が、さっきの場所よりマナが多いように感じられるのう」
「え、そうか? ……うーん、俺には違いが分からないけど」
「まあ多いと言っても微々たるものじゃからな。とはいえおぬしももう少し魔法の扱いに慣れれば感じ取れるじゃろうが」
「ちなみにクリスの見立てだと、俺がそうなるまでにはどれくらいかかりそうだ?」
「普通なら最低三年……と言いたいところじゃが、正直儂にはおぬしのことは分からぬ。仮に明日おぬしがそうなったとしても儂は驚かんじゃろうな」
それだけ俺の渡り人としての力は色々常識外れだとクリスは言いたいらしい。
とはいえ体を動かす方はともかく、魔法については最初と比べてもそれほど進歩しているような気はしなかった。クリスとは違って、初歩的な魔法でさえ詠唱なしでは発動出来ないし連発も出来ない。
せっかく魔法が使えるのだから、もっと便利な魔法や戦闘の幅が広がるような魔法も扱えるようになりたいし、今使える魔法ももっと手早く発動できるようになれば使い勝手は今より格段に良くなるだろう。
まあ今はこのままで仕方がないのだけれど、魔法についてはどうすれば成長できるのかという点も含めて、近いうちに一度クリスにちゃんと教えてもらった方がいいのかも知れない。
そんなことを考えながら二つ目の容器も水の採取が完了する。
指定されている三か所目は、川のさらに下流の方だ。
そこに一体何があるのかは分からない。
けれどこの依頼がCランクになっている理由は、きっとこの先にあるに違いなかった。




