ダンジョンへ
基本的な魔法は使えるようになったが、俺はもう少し魔法のことが詳しく知りたかった。
「そういえば、クリスが俺に使った治癒魔法ってのはどうなんだ?」
「治癒魔法か。あれは身体強化系の一種じゃの。属性魔法とは系統が異なるのじゃが……」
そう言っていくつか簡単な術式を教えてくれる。身体能力強化、感知能力強化、そして治癒能力強化。
いくつか試してみたが、その結果は――。
「うーむ、へぼいのう」
「………………」
クリスの言うとおり、確かに俺の治癒魔法はへぼかった。私生活でかすり傷を治すくらいになら使えなくもないという、気休めのような効果しかない。
身体能力強化も、渡り人としての元の身体能力が優秀なせいか、特に効果があるようには感じられない。
感知能力強化に至っては何が変わったのか分からないレベルだった。
「治癒魔法を使いこなせる者は魔法使いの中でも特に希少じゃからのう……まあ何、おぬしが怪我をしたら儂が治してやるから、安心するがよい」
「ああ、ありがとう」
もしかしてクリスなりに慰めてくれたのか?
まあとりあえずは火と風の魔法が使い物になりそうだと分かっただけで充分だ。
あとは実戦で俺がどれだけ戦えるかだが、それはやってみるしかない。
「――さて、それでは準備も出来たことじゃし、早速ダンジョン攻略に行くとするか」
そうして俺たちはダンジョンに向かって出発することにした。昨日歩いた道を通って、入口までは何事もなく辿りつく。
「ここから先はどこから魔物が襲いかかってくるか分からんので、気を引き締めていくのじゃぞ」
「ああ、分かった」
「といっても、アサルトウルフクラスの魔物は早々現れないじゃろうがの」
俺の緊張を感じ取ったのか、軽い口調でクリスは言った。
それでも俺は注意深く周囲を警戒しながらダンジョンを進んでいくことにする。
そうして少し行くと、不意に巨大なネズミのような魔物が襲いかかってきた。俺は咄嗟にクリスを庇う様に体を動かし、跳びかかってくる魔物に向かって剣を両手で力いっぱいに振る。
特に回避らしい行動を取らないまま魔物は俺の剣をまともに食らって、そのまま黒い霧となって消滅した。
「ふむ、見事じゃのう」
「……何というか、あっけなさすぎないか?」
「確かに今のはそれほど強い魔物でもないがの。それでも、ほれ、これで大体一人分の晩飯代にはなるぞ?」
そういってクリスは拾った魔石をこちらに見せてから、それをローブの中の袋にしまう。
その後も同様のレベルの魔物が何度も、時には10体以上の群れとなって襲いかかってきたが、その都度俺は一撃で魔物を切り捨てる。
剣を使ったことはなかったが、確かにこれなら心配は要らない。体も軽いし、何より敵の動きが止まっているかのようによく見える。
「しかし、おぬしの戦闘勘、とでも言うのかの? 今まで様々な冒険者を見てきたが、その中でもピカイチじゃ。常に最善の行動を迷いなく選択しておるように見える」
「うーん、そのあたりは自分ではよく分からないんだよな。こう動いた方が良いと思ったら自然にそう体が動いている感じで」
「ふむ、それもおぬしの渡り人として得た力なのじゃろうな。……しかし、おぬしが強すぎて儂の仕事が無いのう……そうじゃ、次の魔物は儂に任せておけ」
ふとクリスがそんなことを言い出した。拒否する理由は特にない。それに、俺もクリスの戦い方には興味があった。
そうこうしていると、大きなウサギみたいな魔物の群れが現れる。10体ほどだろうか。
一応確認したが、手を出すなと言われたので、俺はクリスの後ろで見ていることにした。