ランクアップ
冒険者ギルド同士では魔法によって依頼の情報が共有されているのだという。
つまりイニスカルラで受けられる依頼はヴェリステルでも見ることが出来るし、一応は受けることも可能だったりする。といっても依頼をこなす場所は基本的に依頼が発行された街の近くなので、他の街の依頼を冒険者が受けることはまずない。
まあその話は今の俺たちにはあまり関係ないのだが。
俺たちが今回冒険者ギルドに来たのは、ヴェリステルまでの道中に討伐した盗賊団が、恒常依頼で討伐対象として指定されていたからだ。恒常依頼はそもそも受ける必要がないもので基本的に早い者勝ち。そして達成した証を提示すればどの冒険者ギルドでも報告が可能だった。
ただまああまり報酬の金額が高いわけではないので、危険度の高いものだとあまり積極的に恒常依頼をこなそうとする冒険者はいないらしい。
そのかわりに冒険者ギルドのランクポイントは多めに設定されていたりもするが。
ちなみに冒険者のランクはポイントの累計で決まる。
例えば通算の獲得ポイントが100ポイントでEランク、1000ポイントでDランク、10000ポイントでCランクといった具合だ。
一番低いFランクの依頼の中でも最も難易度の低い依頼を受け続けたとして、大体三か月で100ポイントに到達する。しかしその後も同じ依頼を受け続けた場合はDランクになるのに二年半かかる計算で、そこまではまだ現実的かも知れないが、Cランクの10000ポイントとなると二十五年かかる。
Cランクになれば冒険者として一目置かれるようになるというのもこれが理由らしく、そのランクまで上げようとすれば、必然的に難易度が高くポイントの多い危険な依頼をいくつもこなすことになるからだという。
今回の盗賊団討伐はDランク相当の依頼で、設定されていたポイントは9000ポイント。これをパーティー内の冒険者の人数で分配することになる。
俺たちの場合だとステラは冒険者ではなく、冒険者は俺とクリスの二人なので、4500ポイントずつ分け合う形だった。
標準的な六人パーティーでも1500ポイントずつなら、ポイント的には充分に美味しいと言えるラインだ。
この冒険者ランクのシステムは単純で分かりやすい。ただそれだけに気になる点もいくつかあった。
「なあクリス。この制度って冒険者じゃない戦闘要員を金で雇ったり、高ランクの冒険者と組んだりすれば実力がなくてもランクを楽に上げられるんじゃないか?」
「パーティー内の冒険者にランクの差がある場合、累計ポイントの比率などに応じて依頼のポイントを割り振るので後者はそこまで楽にはならんじゃろうな。まあ戦わずにランクを上げることも可能じゃから、楽できる可能性は否定できぬがのう」
クリスは続ける。
「前者は理屈の上では可能じゃが、現実的ではないのう。そもそも低ランクの冒険者は大抵金に困っておって、金のために依頼を受けておる。ランクを上げるために金を払う余裕がないのじゃ」
「それは確かにそうだな」
「それにランク自体が上がっても、自身の実力が伴わなければ受けられる依頼自体は何も変わらぬ。そうやって上げたランク相応に割のいい危険な依頼はどうせこなせないのじゃから、ランクを上げること自体にはそこまで魅力はないじゃろうな」
なるほどな。
不正自体はおそらく可能だが、それをすることにそこまで大きなメリットがないので、誰もやらないということらしい。
あくまでもランクは依頼をこなした際の副産物と考えて、自分の実力を知り、依頼の難易度を測るための指標として使うのが正しいのだろう。
「お待たせいたしました。こちら、赤刃のコンラッドの持ち物に間違いありませんので、恒常依頼達成の証として受理いたします」
戻ってきた冒険者ギルドの受付の女性がそう言った。
依頼達成の証拠として提出した持ち手も刃も赤い短刀の鑑定が終わり、無事認定されたらしい。
そうして得られた報酬は銀貨が十枚と、大銅貨が五枚。確かにこれは命をかけて盗賊団を討伐する報酬としてはかなり少ない方だろう。もし六人パーティーで分けたとしたら大した額は残らない。
まあ俺たちは金に困っていないので、別にどうでもよかった。
それより冒険者ランクがFからDに飛び級でランクアップしたことの方が嬉しかった。
「そういえばクリスって、俺と出会うまでは冒険者じゃなかったんだな」
「一応昔に登録をして何度か依頼を受けたことはあるのじゃが、一人ということもあってあまり向いている依頼がなくてのう。それで数年依頼を受けずにいたら、気づいたときには行方不明扱いで除名されておったのじゃ」
冒険者は死亡や行方不明が多いこともあり、長期間ギルドに顔を出さないでいると自動的に除名されてしまうのだと、そういえば最初登録するときの規約に書かれていたことを思い出す。
まあ除名されてもランクポイントが無くなるだけで、再登録は問題なく出来るのであまり問題にはならない。
というか普通に冒険者として活動していれば、街にいる限りほぼ毎日ギルドには顔を出すので、除名されることはまずありえないのだけど。
まあそんなこんなで、結構あっさりと冒険者ギルドでの用事は終わった。
「さて、それじゃあ次はステラの幼馴染のノーラに会いに行くとするか」
「しかし、どこにおるのか分からんのじゃろう?」
「そればかりは私にも分からないわね。本当に忙しい子で、いくつものギルドを掛け持ちしているから、一か所に留まっていることはまずないのよ」
ノーラのメインの活動は学術ギルドでの研究だが、学術ギルドはジャンルごとに細分化されており、ノーラは七つの学術ギルドを掛け持ちしているのだという。
また学術ギルド以外にも非常に多くの活動を行っており、それゆえにノーラが今どこで何をしているのかを予測するのは非常に難しいようだ。
さすがに百年に一人の才女と称えられる頭脳の持ち主だけあって、あちこちから引っ張りだこになっていた。
「じゃあ仕方ない、観光がてら適当に街をぶらぶらしてみるか。もしかしたらさっきみたいに偶然会えるかも知れないし」
「……楽観的じゃのう」
「……ヴェリステルはイニスカルラ以上に広いんだけどね」
俺の提案に二人は若干呆れたような雰囲気を感じさせながらも、他にいい案も思いつかなかったらしく、結局適当に街をぶらぶらしながらノーラを探すことになった。




