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魔法の使い方

 そうして食事を終えると、俺たちはダンジョン攻略に向けて準備を始めた。


「そうじゃ、これをおぬしにやろう」


 そういってクリスは俺に剣を差し出す。


「これは?」

「何の変哲もないただのロングソードじゃ。冒険者が最初に選ぶことの多い、最も基本的な武器じゃな」

「……俺は剣なんて持ったこともないんだけど」

「じゃろうな。とはいえそんなことは関係なく、おぬしなら簡単に扱えるはずじゃ」


 そういってクリスは俺に剣を手渡した。

 ああ、確かに何だか軽く感じる。これも渡り人の力なのか?


 何にせよ素手よりはマシに違いない。ありがたく受け取っておこう。


「そういえばクリス、昨日の話だけど」

「昨日……? ……どれじゃ?」

「魔法だよ。俺にも魔法が使えるはずだって言ってただろ?」

「おお、そうじゃった。なら早速試してみるか」


 そう言って外に出ると、俺は早速クリスに基本的なことを教わることにした。


「魔法は周囲や体内にあるマナを自身の中で思い描いた術式によって変換することで様々な作用を起こすものと言われておる。色々細かい理屈もあるようじゃが儂も詳しくは知らんのでな、さっそく実践で学んでもらうとしよう。手を出してくれるか?」

「ん、こうか?」


 言われるまま俺は右の手のひらをクリスに向けると、クリスも同様に左手をこちらに向けて近づけてきた。

 そうすると俺とクリスの手の間に、ゆらゆらと弱い光を発する火の玉のようなものが見える。


「これがマナじゃ。これを使って色々とやるのが魔法というわけじゃな」

「なるほど。……それで、俺は次にどうすればいい?」

「とりあえず儂が集めたそのマナを握って体内に取り込んでみてくれるかの?」

「マナを握る……おお」


 言われた通りにやってみると、体中に温かい力のようなものが浸透していく。


「それがマナの感覚じゃ。一度その感覚を掴めば、今後はシン一人で苦労なくマナを扱うことが出来るじゃろう。……普通はその感覚を掴むのに、才能のある者でも何年とかかるものなのじゃがな」

「確かに、この周辺のマナの存在も分かるようになったな。……ずいぶんとマナが多いように感じるけど、これがこの世界では普通なのか?」

「いや、このあたりは近くにダンジョンが出来てしまうほどのマナが溢れておるから特別じゃな。言い換えれば魔法の訓練には最適ということじゃが。さて、あとはそのマナで魔法を使うだけなのじゃが……」


 そうして俺はいくつか基本的な術式を教わった。水を出したり風を起こしたりと、本当に基本的な魔法だが俺にも魔法が使えるというのは確かだった。


「ふむ、どうやらシンは火属性に才能があるようじゃの」

「そうなのか?」

「うむ。風も優秀なのじゃが、それと比べても火を出すときは異様にマナの消費が少ない。変換効率が相当に優れておるのじゃろうな。これなら大魔法も苦労せず使えるようになるはずじゃ」


 詳しくは分からないが、俺は火属性の魔法が得意で、次が風ということになるようだ。

 その一方で水や土などの属性はあまり期待出来ないらしい。


「まあ火や風とは対となる属性じゃからな、不得手でも仕方あるまい」

「なあクリス。それって成長したりすることは可能なのか?」

「ん? 水や土についてか……不可能ではないが、あまりオススメはせんのう。日々訓練を重ねて、数年後に人並み程度になれるかどうかという感じじゃな。まあそれも儂の見立てでしかないから、おぬし次第ではこの世界屈指の水の使い手になれるかも知れんがの?」


 そう言ってクリスは笑った。


 魔法に関してはとりあえず弱点を補うよりも、得意系統を伸ばした方が効率は良いようだ。


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