異世界の朝食
翌朝、目が覚めると何だかいい匂いがしている。
部屋を出てみると、台所でクリスが朝食を作っていた。
「悪い、手伝うよ」
「ふむ、では皿をそっちのテーブルに運んでくれるかの?」
手伝おうと思ったがすでにほとんど作り終わっていたようで、俺は言われたとおりに出来あがった料理を運ぶくらいしかすることがない。そうしてすぐに準備が整い、朝食の時間が始まった。
並んだ料理を見てみるが、特に変わったところはない普通の食べ物が並んでいる。どうやらこの世界も食生活は大きく違わないらしい。
芋を煮たスープにサラダ、パンのようなものに薄く切った燻製肉を焼いて載せている。冷蔵庫のような魔道具もあるみたいだが、さすがに卵の類は保存が効かないのか食卓に並んではいない。
食器は木で出来たスプーンとフォークが用意されていた。
俺は手を合わせて言う。
「いただきます」
「ん? ……ああ、おぬしの世界でも食事の前に祈りを捧げるのか」
「そんなきっちりしたものでもないけどな。それより、俺の世界でもって言ったか?」
「うむ。この世界でも、ユーニス教を強く信奉している者はそうして祈りを捧げておるな」
どうやらこの世界にも宗教はあるらしい。といっても俺はそこまで宗教に関して知識があるわけでもない。何か訊いておくべきことはあるのかもしれないが、今は特に思いつかなかった。
質問を諦めた俺は、早速フォークを手に持ってサラダを食べてみる。
野菜の歯ごたえがしゃきしゃきとしていて、普通に美味い。ドレッシングのようなものはかかっていないが、野菜自体の苦みや甘みがバランスよくマッチしていて、それぞれの味を生かしていた。
続けてスープを飲んでみたが、これも美味しくて体が温まっていくのを感じる。こしょうのようなものが入っていて、ピリッとした辛みが良いアクセントになっていた。
「美味いな、これ」
「そうか? ならよかった」
「クリスは料理が得意なのか?」
「ん? 一応、そこそこにはな。こういう生活をしていたら自然と身に付いた我流じゃから、あまり応用は効かんが」
「いや、充分すぎると思うけどな」
俺は最後に燻製肉の載ったパンに手を伸ばして、食べる。
食感はインド料理のナンに近いかも知れない。もちもちとしていて、独特の甘みがある。そこに燻製肉の塩味と旨味が合わさっていい具合に食欲をそそってくる。
単純な味付けの料理だからこそクリスの腕がよく分かった。
食材自体は元の世界のものとは微妙に違うけど、同じ人間が食べるものだけあってよく似た味や食感のものが多い。
これならもしかしたら元の世界の料理を再現する、なんてことも出来るかもしれない。
……といっても、俺は昔から料理なんてほとんど出来ないからあまり関係ない話か。
「ごちそうさまでした」
食べ終わった俺は手を合わせてそう言った。
洗い物くらいは俺がやろうと思ったのだが、見てみるとこの家の台所には水道がない。考えてみれば異世界の、それもこんな森奥の小屋に水道が通っている方がおかしい。
「なあクリス、水はどこかから汲んでくるのか?」
「ん、ああ、水が必要なら儂が魔法で出すぞ」
結局、俺が洗い物をする横でクリスが水を出してくれるという、「これクリス一人でやった方が早いんじゃね?」という奇妙な状態で俺は洗い物をするのだった。