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面白い方の味方

 翌朝、ステラは万全でこそないもののある程度回復しており、朝からサクレさんの元へと話に向かうことになった。

 俺たちは外で待っていたから話の内容は聞いていないが、おそらくは報酬の受け渡しなど今回のステラの仕事に関する事務的なことが多くを占めていたのではないかと思う。


 そうしてサクレさんとの話を終えたステラと合流した俺たちは、今後のことを話し合う。


「さて、これで今回の仕事は全部終わりね」

「お疲れ様、ステラ。それで、この後はどうする? 予定通り今日中にイニスカルラに戻ってもいいが、ステラの体調はまだ万全じゃないだろ?」

「大事をとって一日滞在を伸ばす、というのも手じゃな」

「んー……シンたちは、それで大丈夫なの?」

「ステラだって知ってるだろ、俺たちの旅は明確な目的のない気ままなものだって。別に急ぐ理由はどこにもないよ」


 まあ一応イニスカルラの魔法ギルドでドラゴンの魔石の買い取りの結果を聞くという用事はあるけれど、それだって明日以降ならいつでもいい話だ。


「……それなら、お言葉に甘えちゃおうかな」


 ステラによると、宿の方はサクレさんがすでに料金もあちら持ちで一日延長してもいいように話を通してくれているらしい。それだけサクレさんもステラが心配だったのだろう。


 そうして宿に戻ると、ステラはすぐにベッドに倒れこむ。


「あー、もうだめ。体がだるくて動かない」

「気持ちは分かるが、ローブを脱いで楽な恰好に着替えた方が良かろう。すまぬがシン、少し外に出ておってくれるかの?」

「ああ」


 クリスがステラの着替えを手伝うようなので、俺は部屋の外で待つことにする。

 廊下で待っていると、部屋の中からはきゃっきゃと楽しそうな声が聞こえてくる。世話焼きなクリスと遠慮がちなステラということで、良い意味で相性が悪い結果なのだろう。たぶん。


 その後クリスからもう入ってもいいと言われたので部屋に入ってみると、ベッドの上で亜麻の布にくるまったステラが「もうお嫁にいけない」などと言いながらシクシクと泣いていた。まあ冗談だろうけど、それにしたってクリスは一体何をしたんだろうか。


「何かステラが見たことない感じになってるけど大丈夫か?」

「うむ、問題ないのじゃ」

「そうか。なら安心だな」

「ちょっと! 被害者の意見も聞きなさいよ!」

「ほらほら、ステラは大人しく寝てないとダメだろ?」

「そうじゃそうじゃ、ステラは早く体調を戻さんとな」

「くっ、この二人最初からグルだったのね……」

「人聞きの悪いことを言うなって。俺は面白い方の味方だ」

「……覚えてなさいよ」


 そういってステラはきつく俺を睨んでくる。

 美人のステラにそうして睨まれると、何だか背筋がぞくぞくとする。いけない性癖に目覚めそうだ。

 ということを口に出したら二人にドン引きされた。いや冗談だからな?


 そんな感じであまり騒がしくしていてもステラが休めないので、俺とクリスは適当なところで退散する。

 しかし、問題が一つ――。


「……暇じゃのう」

「だよな」


 とりあえず村の中を散策してみるが、祭りが終わってしまったラドーム村は本当に何もない田舎だった。行商人たちも今朝入った南の街道の霧が晴れたという情報で、すでにこの村を後にしている。


 来たときは意外と栄えているとも思ったが、こうして普段の状態に戻った村を見てみると、人出があるかどうかというのはやはり大きな要素だったらしい。


 そんなこんなで今は家畜を眺めてぼんやりとしている。見た目は牛とも少し違うが、生態などは牛そのもののようで、乳は飲むだけでなくチーズやバターなどにも使われているとか何とか。

 北の山岳越えの拠点として人通りも多く、比較的栄えている村とはいえ、生活の基本はやはり農耕と畜産なのだという。ちなみにこの話は全部そこで家畜の世話をしているおじさんに聞いた話だ。


「まあでも、たまにはこういうのもいいんだろうな」


 俺は何となくそう呟く。


「何じゃ、冒険には飽きたのか?」

「いや、そういう訳じゃないけど……魔物相手に剣を振るばかりが冒険ってわけでもないだろ?」

「……うむ。確かにおぬしの言う通りじゃな」


 こうしてのんびりと、この世界を見て知っていくことだって、立派な冒険だろう。俺がこの世界で生きていこうとするなら、そうして知ったことは決して無駄にはならない。


 けれど、たまにふと、思ってしまうのだ。


 ――俺は一体、何のためにこの世界に渡ってきてしまったのだろう、と。

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