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祭りの後

 俺とクリスは鎮魂祭の踊りを終えたステラの元を訪ねることにした。舞台裏には警備の村人が二人いたのでステラの護衛であることを伝えると、確認のために一人が中に入っていき、すぐにサクレさんを連れてきた。


「ああ、ちょうどよかった。今ステラさんがあなた達のことを呼ぶようにと」

「ステラが?」


 そう言われたので、何かあったのかと思って舞台裏に入ってみると、ステラは衣装の上にローブを羽織った状態で長椅子に横になっていた。


「どうかしたのかステラ、大丈夫か?」

「ん……ちょっと、疲れただけ」

「疲れたって……」


 特に激しい踊りでもなければ、そんなに長時間のステージでもなかったような気がする。

 ステラほどの踊り子が今これほどまでに疲労困憊しているのは、少し違和感があった。


「おそらくは鎮魂の際に、多くの魂に触れた影響でしょう」


 疑問に思っている俺に、サクレさんはそう言った。

 何でも踊り子は鎮魂祭で踊るとき、この地に残った魂に生気を少し分け与えることで魂を還しているらしい。


「ステラさんは、過去にも前例がない程に多数の魂を還してくださいましたから、その分消耗が激しいのだと思います」

「なるほどのう……」


 サクレさんの説明に、クリスが納得の声を上げた。

 ステラは踊り子として優れているために多数の魂を還したが、体は普通の人間のものであるため、それだけの魂に生気を分け与えてしまえば衰弱してしまうのも無理はない。

 そしておそらくステラは、自分の状況を正しく理解しているからこそ俺たちを呼んだのだろう。


「ステラ、宿に戻るか?」

「うん……悪いけど、運んでくれる?」

「了解」


 俺は長椅子に横たわったステラを抱きかかえ、サクレさんに向き直って言う。


「すみませんが、ステラとの話は明日に回してもらうということで」

「ええ。こちらこそ何も出来なくて申し訳ありません」


 サクレさんとステラの間には事務的な話がまだ残っているだろうけど、それは急ぐような話でもないだろう。

 それに今のステラに無理はさせられないというのは、サクレさんも同じ考えだったようだ。


 そうして俺たちは宿に向かって、ステラの部屋に到着する。

 ベッドにステラを寝かせて、俺とクリスはベッド脇に椅子を並べて座った。


「ありがとう、二人とも」

「ああ、それで体調は大丈夫か?」

「たぶん、一晩寝れば問題ないと思う」

「ならば今夜はぐっすりと休むがよい。そうじゃ、何か必要なものはあるかの?」

「ううん、大丈夫……」


 そういってステラは微笑む。

 俺たちで何かしてやれたらいいのだけど、クリスの治癒魔法も傷を治すことは出来ても体力を回復させることはできない。むしろ体力を消耗させて傷を治すものなので逆効果になってしまう。

 一方の俺も、仮にステラが悪霊にとりつかれているというなら悪霊を斬るくらいは出来たかもしれないが、現状だと何も出来そうにない。

 そんな風に頭を悩ませているところにステラが口を開いた。


「本当に心配しなくて大丈夫だから。……私は二人がそうして仲良く、また一緒に旅ができるようになっただけで充分よ」

「……おぬしにも心配をかけてしまったようじゃな」

「当然でしょ? 何も言わずにいなくなったクリスも心配だけど、クリスがいなくなったときのシンも、正直見ていられたものじゃなかったし……」

「え、俺そんなに酷かったか?」


 でもまあ、そうか。あのときステラが隣にいてくれて、早く追いかけろと言ったり、ダサくてもいいと肯定してくれたりしなかったら、もしかしたら俺はクリスを追いかけなかった可能性だってあったのかもしれない。


 あの出来事が精神的にくるものがあったのは、俺だって自覚していたことなのだから。正常な判断が下せなくなるというのは、何も不思議な話ではない。


「まあ何にせよ、とりあえずそういう話も全部明日にするとしよう。シン、儂らも部屋に戻らんか?」

「ああ、そうだな。……それじゃあステラ、おやすみ」

「うん、おやすみ……」


 そうして俺とクリスはステラの部屋を後にする。


「して、おぬしはステラのことをどう思っておるのじゃ?」

「どうって、まあ霧を越える以前の危うさは消えたかな。今後はあんな無謀なことをすることもないだろうし、心配はしてないけど」

「そうではない。この一件は元々、おぬしがステラに一目惚れしたことから始まっておるじゃろう?」

「一目惚れって……いやいい、当たらずも遠からずだ」


 確かに元々は俺がステラの所作の美しさに目を奪われたことが発端だった。あれは完全にストーカー案件だから、まだ一目惚れと言われた方が俺の人間性としてはまともに聞こえるだろう。恥ずかしいという一点を除けば。


「この護衛の契約はイニスカルラまでの往復となっておったが……おぬしは、このままステラと別れていいのかのう?」


 このままステラと別れていいのかと、クリスは俺に問いかける。

 もちろんそれにはステラの都合や意思の問題もある。けれどクリスとのときと同じで、まずは俺がどうしたいと考えているかが重要だった。


「……そうだな。ステラとも一緒に旅を続けられたら、楽しそうだよな」

「うむ、儂もそう思っておる。じゃがステラは戦う術を持っておらんし、そのことで遠慮もするじゃろうから、おぬしが少々強引に行かねば首を縦には振らんじゃろう」

「まあそれは何とかしてみるさ」


 俺はあの強情なクリスの首を縦に振らせたんだから、何とでもなるだろう。


「む、今おぬし何か失礼なことを考えたじゃろう」

「いや、だから何で分かるんだ?」


 前から思っていたけど、そんな簡単に心を読まないでほしい、と俺はクリスに思うのだった。

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