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セレンディピティ

「ねえシン、大丈夫? さっきからずっと、上の空だけど」

「ん、ああ、悪い。……ちょっとな」


 翌朝、俺は約束通りステラと共に祭りを見て回っていた。

 クリスにも声をかけたが、昨晩のこともあってか、同行は断られてしまった。


 夜のステラの踊りは見に行くと言っていたので、そこまで心配はしていないつもりだったが、やはり気になってしまって、今こうしてステラに指摘されている。


「ちょっとって、そんな深刻そうな顔でよく言うわよ。……クリスと何かあった?」

「お、鋭いな」

「ちょ、それ馬鹿にしてるでしょ!? というかあなたがそんな風になる理由なんて、それ以外に考えられないから。ほら、どうしたのか、お姉さんに言ってみなさい?」

「いやお姉さんって、ステラって十七歳だったら俺と同じだろ?」

「細かいことはいいの。さあさっさと話す!」


 なんだかステラの押しが強い。

 いやまあ俺が知らないだけで、もしかしたらこれが本来のステラなのかもしれなかった。


 ちなみに一応クリスからは朝の時点で、何か聞かれたらステラには全て話して構わないと言われている。

 ただこの後ステージで踊らなければならないステラに、余計な心配をかけてしまわないかだけが俺は気がかりだった。


 といっても話せと言っているのはステラだし、このまま黙っていても逆に気になって踊りに悪影響が出てしまうと言われるだけなら、これは考えるだけ無駄か。


「これは昨日の夜、俺とステラがベッドの上で体を重ねていたときの話なんだが」

「ストップ。柔軟体操してただけだからね、変な言い方しないで。というか真面目な話ならそういうテンションで話して」


 出来る限り深刻にならないように気遣ったら怒られた。

 仕方ないので真面目に、要点だけをかいつまんで話すことにする。


 クリスが魔族との混血であること。

 今までは魔族のマナを封印することで人間社会に馴染んでいたが、昨日の夜に起きたことがきっかけでその封印が解けてしまったこと。

 今のクリスは禍々しい魔族のマナを発していて、周囲の人間に強い不安や嫌悪感を与えてしまう状態であること。

 そしてこのまま旅を続ければ行く先々の人々から拒絶されることは明白で、クリスはそれに俺を巻き込みたくないと思っていること。


「――そんなわけでクリスは今、このままでは俺との冒険を続けられないと考えているらしい」

「……それで冒険を続けたいシンはクリスと喧嘩しちゃった、と」

「端的に言えばそうだな」


 ただ俺もクリスも、一緒に旅をしたいという根本の部分は共通している。

 意見が対立したのは、行く先々の人々から拒絶されるという部分に、俺が含まれてしまうことを良しとするか否かだ。


 俺はクリスと共に旅をすると決めたときから一蓮托生だと考えていた。クリスに命を預け、同時にクリスの命を預かるつもりだった。だからクリスが何かに苦しむことがあるなら、俺はそれを一緒に背負う覚悟でこの旅を開始した。


 俺はクリスの対等な仲間として隣に立っているつもりだった。けれどクリスはまだ心のどこかで、俺のことを守らなければならないと考えているらしい。


 まあ出会い方が最悪だったから、多少は仕方ない部分もあるのだろう。

 いきなり死にかけるような奴を、心配するなという方が無理な話だ。


 だからクリスの考えていることは理解できる。理解できる、けれど――。

 ――理屈と感情が、必ずしも一致するとは限らなかった。


 結局のところ俺はただ、クリスから対等の存在だと思ってもらえない自分に苛立っていただけなんだろう。


 ……まあ何にせよ、今考えるべき問題の本質はそこじゃない。

 どうすればクリスとの冒険を続けることが出来るのか、考えるべきはその手段だった。


「――ようするにシンは、どうすればクリスが旅を続けてくれるかを考えていたってことね……でも、そういうことなら、ちょうど良かったかも」

「……? 良かったって、何がだ?」


 予想外の言葉がステラの口から発せられた。

 意味を問いかける俺に、ステラは意味深な表情で言う。


「普段だったら無理だけど……今このタイミングのラドーム村でなら、クリスの問題を解消できるものが手に入るのよ」

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