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魔法ギルド

「ここが魔法ギルドじゃ」


 魔法ギルド、と言われても中がどうなっているのか全く想像がつかない。さすがに怪しい窯でよく分からないものを煮込んでいたりはしないだろうけど。


 どんな光景が広がっているのか、若干わくわくしながら俺は中に入る。

 中に広がっていたのは、元の世界で言う図書館のような、普通の公共施設といった感じの光景だった。


「あらぁ、クリスじゃないのぉ! やだぁもぅ、何年ぶりよぉ! あまりにも顔を出さないものだから、てっきり死んだのかと思ってたわ」


 そんな風に考えていた俺を出迎えたのは、ハスキーな声をした大柄な人物だった。あの人がどうやら受付らしい。

 前言撤回。全くもって普通の公共施設なんかじゃなかった。


 ……というか異世界にもオカマっているんだな。そりゃそうだよな、人間だもの。


「うん? あら、そっちの子は?」

「こやつはシン。今は一緒に旅をする仲間じゃ」

「へぇ…………」


 そう言ってオカマさんが俺の方を値踏みするように見てくる。

 不躾な視線のようにも思えるが、不思議と不快感はない。オカマの人徳だろうか。


「なかなか良い男じゃない。それに、何だか普通じゃない感じがするわぁ……見た目に寄らずワイルドって感じで、ステキね」

「ああ、ありがとう……? ……じゃなくて、クリス、この人は?」

「うむ。魔法ギルドの受付をしておるアウルという者じゃ。……まあ分かるとは思うが、オカマじゃ」

「そういうこと。心は乙女だから、優しくしてねぇ」

「ああ、善処するよ」

「……ふむ。アウルと初対面の人間はドン引きするのが常じゃったが、やはりおぬしは動じんのう」


 まあ、元の世界にも少なからずいたしな。実物を見るのはたぶん初めてだけど。

 というかそんな人間を受付に置くのはどうなんだろう。


「それで、クリス。今日はどうしたのかしらぁ?」

「ああ、シンと一緒に魔物を少し狩ったので、魔石の換金を頼もうと思っての」

「あら! 私たち、ずっと待っていたのよぉ? アナタの持ちこむ魔石は、質が良いって研究員の間で評判なんだからぁ」

「それでレートを知りたいのじゃが」

「今はこんな感じねぇ」


 そう言ってアウルは一枚の紙をクリスに見せる。

 少し覗いてみると、文字や数字は読めたが、魔石や通貨に関する単位は良く分からなかった。


「ふむ。税率も換金レートも普通、って感じじゃな。よし、これで構わんので全部換金してくれるかの?」


 クリスはローブの中から魔石を入れた袋を取り出し、そのまま受付台の上に置く。

 すると、それを見たアウルは初めて驚いたような表情を見せた。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! これは、一体何なのよ?」

「ああ、それはドラゴンの魔石じゃな。滅多に手に入るものではないじゃろうし、魔法ギルドとしても喉から手が出るほど欲しいじゃろう?」

「それはそうだけど、他のはともかく、さすがにこれは私の一存では換金出来ないわよ。上に話を通して人を集めて会議を開くことになるから、一週間……いえ、四日だけ時間を頂戴」

「四日か……シン、どうする?」

「ん、任せるよ」

「そうか。ならアウルよ、それで頼む」

「ええ、分かったわ。……はいこれ、他の魔石の換金票。間違いがないか確認した上で向こうの窓口へどうぞ……全く、一気に仕事が増えちゃったじゃない」

「良いではないか、どうせ暇じゃったんじゃろ?」

「まあそうなんだけどねぇ……ドラゴンの話、また今度にでも聞かせてもらうわよ?」

「気が向いたらの」


 そう言ってクリスは受付から離れ、別の窓口へと向かっていく。

 俺はそれについていきながら、思ったことをそのまま口に出した。


「クリスって知り合いいたんだな」

「……おぬし、儂を何じゃと思っておったのじゃ?」


 振り返ったクリスがジト目でこちらを睨んでくるので、とりあえず笑って誤魔化した。


 それにしても、あれだけの数の魔石の入った袋を、クリスは一体どこにしまっていたのだろう。

 クリスはローブの中から袋を取りだしたが、そんなスペースがローブの中にあるようにも思えない。


「なあクリス、そのローブの中ってどうなってるんだ?」

「…………シンのエッチ」

「いや、そういう意味じゃなくて」


 というかニヤニヤしながら言うな。


「まあ冗談は置いておくとして、実は空間魔法で持ち運びしておる」

「凄いな魔法、何でもアリじゃねぇか」

「じゃが、空間魔法は人間にはまだ扱えないとされておるのじゃ」

「ん? それはどうしてだ?」

「単純に空間魔法は術式が複雑で、マナの扱いに長けた種族でなければ自由に扱えないというだけじゃ」


 詳しく聞いてみると、例えば空間転移をしようと思ったら、一般的な人間の術者の場合だと巨大な魔法陣を用意した上で、十人規模の術者を揃えてようやく人間一人を転移させられる、といった具合らしい。


 つまりごく一部の特別な才能を持った人間でない場合、複数人で協力して大規模な儀式を行わなければならないということだ。

 クリスの使っているのは空間転移よりも簡単な術式という話だが、それでも普通の人間だと何人かで儀式を行うレベルのものだと言う。


「術式の効率化の研究も進められてはおるようじゃが、人間が一人で使えるようになるにはまだ時間はかかりそうじゃのう」

「……なるほどな」


 その点、魔族との混血であるクリスであれば空間系の魔法も一人で扱えるということなのだろう。


「とはいえ、儂でも空間魔法で持ち運べるのは大きなリュックサック一個分くらいじゃから、あまり当てにはならん」

「……充分便利だと思うけど」

「もちろん、それは否定せぬ。……そういえば、最近アイテム袋という魔道具が開発されたとかいう話があったかのう」

「アイテム袋?」

「儂も実物は見たことないのじゃが、見た目の十倍以上の物が入れられる袋らしい」


 それは凄く便利な道具だ。可能ならぜひとも手に入れたい。


 クリスの話だと、この世界では近年急速に魔道具というものが開発されているらしい。

 聞く限りは魔石を原動力として動く機械のようなものという認識で良さそうだ。


 そんな話を終えるとちょうど目的の窓口に着いたようで、クリスはそこに換金票を差し出した。

 するとすぐに大量の貨幣がこちらに渡される。

 大きさの異なるそれぞれ二種類ずつの銀貨、銅貨、あとあれは錫貨だろうか。

 とりあえず計6種類の硬貨があることが分かった。


「ほれ、おぬしの分じゃ」


 どうやら窓口の人がきっちり二等分してくれたらしい。

 貨幣の詰まった袋の片方をクリスが渡してくれた。


「これだけあれば、向こう二か月は困らんじゃろう」

「……悪いんだが、貨幣の価値について教えてくれないか?」

「ふむ。とりあえず一番価値の低い硬貨がこの錫貨じゃ。あとは十倍ずつ繰り上がって、大錫貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨という具合になっていって、今ここにはないがこの上に金貨、大金貨と続く。これはこのマルカリア大陸全土で共通の通貨なので、大陸西部の魔族や亜人種の住む地域でも通用するのじゃ」


 つまり錫貨を一とした場合、大金貨は一千万になるわけか。

 一千万なんて日本円の感覚だと普通に生活する分にはまず見かけない単位だ。


「ついでに物価についても知りたいんだけど」

「おぬしのことじゃからそう来るとは思っておったが、うーむ……口で説明するのは少々面倒じゃの。この後は商店街に行くつもりじゃし宿も取らねばならんから、実際におぬしの目で見て感覚を掴んでもらったほうが早いじゃろうな」


 確かにこの世界の金銭感覚を身につけるなら、自分で買い物をした方が早いのかも知れない。


 クリスの言葉に同意した俺は、クリスと共に商店街を目指すことにした。


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