蒼窓の羨望
水中浮遊は異世界遊泳
どう足掻いても躰は無意識に重力を受け入れる。
重力があるのは当然であり、それが作用していることすら忘れてしまう。
これはきっと精神に対する自己防衛的な優しさだ。
仮に常に重力が重たいと感じていたら、ストレスは膨れ上がるだろう。
僕は今、海の底に背中を付けて、ゆったりヒナタボッコをしている。
違和感を感じる方もいるだろうが、太陽の光は水中でも屈折しながらカーテンのように靡いている。
しかも、肌に直接日光を浴びているわけでもないので美容にも良いような気もする。
巨大な地球と僕との間の引力は浮力によって緩和される。
普段どれ程の万有引力が我々の間に働いているのかを解消を通じて実感する。
僕は大の字に躰を広げ、肺胞の空気を出し惜しむことなく大袈裟に溜息を吐く。
生まれて初めて万華鏡を覗き込んだ記憶が蘇る。
「海の碧と青と蒼が調和して差し込む光と交錯し合い、誰にも縛られることなく踊るのだ。」
そうして、敷き詰められた水の隙間を微細なビー玉のような気泡が海面へとゆらりゆらりと寄り道しながら上昇して行く。
人の魂が起源を目指して吸い込まれるように。
「ボボバガグダポポホピプポポ(ここは僕だけの空間だ)。」
静寂と暖かな浮遊感が、限りなく広大な僕の脳内を精神的に洗浄していく。
我が友であるルンバには申し訳ないが、この空間は掃除の達人である彼にも到底作れない新鮮味と心地良さを持ち合わせている。
圧倒的な抱擁力。
本来の住人である魚達はちらっとこちらを見るものの、干渉しないでいてくれる。
人の親切には甘える派の僕は、この素晴らしき待遇を甘受する。
・・・。
おっと、忘れていた。
空気を吸わなくては。