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短編集『脈絡なき雑多集団の概観は如何に。』  作者: 槇河 しゃち


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僕の苦手なもの

共感してくれる人はいるでしょうか。

入浴剤の中で、濁り湯はあまり好きではない。


浴槽の全貌が捉えられなくなると恐怖を感じてしまうのだ。

別に浴槽の底が見えなくてもいいから、せめて水中に危険があるかどうかだけでも確認したい。

分かっていても、ピラニアみたいな凶悪な魚や長くぬるぬるした海蛇が水中を泳いでいる姿を想像してしまう。

その妄想が感覚をより鋭敏にするのか、風呂の栓に肌が触れるだけでも全身が竦んでしまう。

さすがに何もない浴槽のお湯に入浴剤を投入した場合、要は元々いないと確証が得られているようであれば、矮小な僕でもそこまで執拗に恐怖を感じたりはしない。

ただ前に入浴した人が濁り湯を作り上げてしまった場合は不安が鮮明に僕を支配する。

脳内では大丈夫だ、いるはずがないとわかっていても、何故か気持ち悪さは残ってしまう。


これは僕が闇夜を苦手にしている理由に通じているのかもしれない。


街灯もない河川敷に彼女と蛍を見に行ったことがある。

虫があまり好きではないので恐る恐るではあったが、彼女の喜ぶ顔が見たくて出かけることにした。

車を降りた彼女は一目散に闇夜に走り出した。

一瞬で僕の視界から彼女は消えた。

夏の湿った夜風が耳もとで掠るような音を立てて抜けていく。

湿った雑草の上を視界不良なまま歩みを進めるのは困難であった。

感覚が過敏になり何層にもなった空間を、一枚一枚肌に感じたような気がした。

彼女は集中していたのか声を全く出さないでいた。

中身の見えない箱に彼女は閉じ込められてしまったのだ。

シュレディンガーの猫のように存在と非存在が共存しているとまでは言わないが、

必ずいるという実存の確信を持つことができない。

大丈夫だ、大丈夫だと自分に言い聞かせながら彼女のもとに向かった。

黄色い淡い光が灯っては消えてを繰り返している。

その場で、じっと立ち止まった。

暗順応した僕の目が彼女と川と田圃を次第に認識するようになった。

彼女はしゃがんで蛍を眺めていた。

僕は後ろから彼女をそっと抱きしめた。

いつも以上に彼女を感じることができた。

彼女腕は艶やかで、背中は温かく、爽やかな汗の匂いもした。


この未明に対する恐怖は、動物的危機能力の残存として捉えるのか、

視覚に重きを置く現社会への適応の証とするか。

いずれにせよ、残念ながら僕のビビりはまだまだ続きそうである。

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