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短編集『脈絡なき雑多集団の概観は如何に。』  作者: 槇河 しゃち


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虫生える

原因があって結果がある、その幻覚にも意味はあるだろう

ある時から一匹の虫が見えるようになった。

白くて1cmくらいの小さい羽根の生えた虫だった。

体幹は雪だるまのようで、左右二枚の羽根は葉脈のような模様をあしらっていた。


はじめは左の示指先に羽根を畳んで停まっているところを発見した。

雨の降る自室内でのことだったので驚いた。

気持ち悪くて何度も腕を振るも、それは根を張っているかのように動かなかった。

どちらが顔か尻かはわからないが、それはこちらをじっと見つめているように感じた。


私は世の中の人間が嫌うほど虫は嫌いではない。

いるならいるでそれも良いのではないかと考え直すことにした。

しかし、受け入れようと思った矢先にそれは姿を消していた。


それから、こちらを試すように白虫は私の前に現れるようになった。


右肘の中からモグラのように皮膚を破って這い出てきた。

顔を少し出してあたりを見回したが、

私が見ていることに気づくと、モソモソとまた筋肉内に潜って消えた。


なるほど彼は私の体内に生息していたのだ。

寄生虫の一種ということになるのだろうか。

芋虫のように、ウネウネしたものよりはよっぽど良い。


数か月の時が流れた。

私はついに彼の現れるタイミングを理解した。

それは借金まみれの父が家に帰ってくる日だ。


母は父の言いなりだった。

私を守るといつも言ってくれるのにいざ父が姿を現すと、

壊れたおもちゃのように静かになって固まっていた。

そして暴力を受ける私を出目金のように呆然と眺めていた。


今日はついに白虫が飛び回るようになった。

近頃は親近感を覚え始めていたが、その行動は何故が許せなかった。

怒りが頭から足の先まで一気に走り抜けていった。


「なんでなの!」


もじもじと私の身体で生きていたのに。

飛行の自由なんて与えたくはなかった。


「待ってなさい。」


私は祖父から貰った錆びた鋏を机の引き出しから取り出した。

彼に飛び去ってもらっては困る。

居なくなってもらっては困る。


私は鋏でその羽を何度も切断しようと試みたが、

彼は上手に刃と刃の間を8の字を描きながら、すり抜けるように飛んだ。


「どうしてあなたは飛べるの?」


起用に飛び回る彼を仕留めるため、カッターに持ち替えて振り回した。

さすがにいつかは当たるだろうと体力の限りに腕を振るった。


ついにそれは虫の片羽を捉えた。

ゆらゆらと地面に落ちていった。

片方のみで再度飛翔しようとするが、

池のボートのようにただくるくると円を描くように回っていた。


「なんて哀れなんでしょう。」


必死に足掻く虫の姿があまりにも滑稽で思わず笑みを零してしまった。

残念なことに、それは今までの私の姿に似ていた。


「悪かった、だからもうやめてくれ。」


虫から弱弱しい声が聞こえた。

今まで一度も話したことがなかった彼が声を上げた。


「あら、あなた話すことができたのね。今日は飛んだり話したり大変ね。」


虫の体動はより激しくなる。

微細な振動が地面を揺らしているように感じた。


「何を言っている。もうやめるんだ。」


高圧的な物言いの彼に苛立ちを感じた。

まるであの父モドキのような言い草であった。


私も結局母と同じように父の前では人形であった。

しかし、虫が相手なら私は立ち向かうことができる。


「嫌よ。絶対にやめない。」


片方の羽根を毟り取った。

芋虫のようにうねうねと暴れる。

意外にも気持ち悪いとは思わなかった。

かえって彼も生きていたんだと感心したくらいだった。


「がふっ。」


首元に鋏を立てた時に彼の断末魔を聞くことができた。

虫のくせに鮮やかな鮮血を噴水のように噴き出していた。


母は震えながら私をただじっと見つめていた。

血に染まった鋏を持った私を。


「あら、いつのまにいたの、オカアサン。」


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