巻き巻き止んだ病んだ
ストレス、十人十色
頭の中が砂嵐のようにうねり始めたのはいつからだろうか。
何をしていても無数の螺旋が思考を阻害するように駆け巡る。
払う術を誰も教えてくれはしない。
隣に座る男がマスクをしていてもわかるくらいに大きな欠伸をした。
この人の中にも砂漠はあるのだろうか。
風は吹いているのだろうか。オアシスはあるのだろうか。
あるとするならば、どうしてこんなに平気な顔をしているのだろうか。
結局、僕はまたこの乱れを調節できずに両手で頭を抱え込む。
鼻に皴ができるくらいに両眼を強く瞑る。
口の中で微かな血の匂いを感じ取った。
無意識に唇を噛んでしまっていた。
高校生の笑い声が鼓膜を無暗に震わせる。
そうして、耳の中にある蝸牛を土足の音刺激が走り抜ける。
感覚が過敏になっているようだ。
自分の呼吸音すら煩わしく感じる。
電車内の電気が消えたような気がした。
閉眼していても明暗の変化は意外とわかるものだ。
俯いた頭をゆっくり上げる。
・・・。
誰もいなくなっていた。
嘘のように静まり返った車内でガタンゴトンの走行音しか聞こえない。
不安が一瞬で恐怖に変わった。
立ち上がって後方車両に歩みを進める。
何両分か走り抜けたが、吊革と緑の席しか見当たらない。
やはり誰もいない。
「あああ。」
自然と呻きのような言葉が漏れていた。
状況に理解が追い付かない。
僕は動けなくなってしまった。
「僕はこんな事を望んではいない。信じてくれ。」
しかし、頭の嵐は止み、筋肉の緊張は確かに緩和されている。
ほっとしているのだ。
身体は無意識にもこの静けさを享受していた。
「は、はは。」
感情の入り混じった灰色の音が喉から漏れた。
電車は走行を続けているものの、何故か周りの景色は変わらない。
世界からこの空間だけ切り抜かれたようだ。
なんとなく僕は一人の車内で逆立ちをした。
初めてなのに、二歩も進むことが出来た。




