Seasonal apoptosis
自らの重みで屋根から緩徐に散っていく粉雪の行方を見守っていた。
雪国に来たのは自分の意思ではあるが不思議な縁も作用していたように思う。
別に誰かが僕を遠方に送ろうと画策したことを疑っているのではない。
なんとなく神の見えざる手に誘われて僕はここに連れてこられたように感じていた。
積雪地域での生活は初めてではあったが、しっくり来たのは自分でも意外だった。
冬の到来から次第に増す雪の厚みに恐怖を覚えつつも、世界が雪を被り、丸みを帯びていく姿に魅力も感じていた。
まるで世界が抽象化されていくようであった。
無限にも感じるほどに煩雑になった現代社会の過度な刺激を受け続ける自分には環境がシンプル化されていくことに安堵を感じた。
スキーウェアとしても使える防寒加工されたコートを来て散歩に出かけることにした。
もともと人通りは多くはないものの、いつも以上に静寂な空間と化していた。
暗闇の中でも存在感のある街灯のオレンジ色の光は白雪を同じように染めていた。
黒と白と暖色の共演に違和感はなかった。
一台の車がスリップしない程度のゆっくりとした速度で真横を通過していった。
その緊張感がこちらにも伝わって背筋が一瞬冷たくなった。
道の両側には車道の整備のために排除された雪が1m以上の高さで連連に積まれている。
パサッ。
積雪内から微かな音が聞こえたような気がした。
今日は仕事納めの日でもあり、僕は気分が高揚していたのかもしれない。
その聞き流してもいいような音が妙に気になった。
手袋を履いた右手で積まれた雪を掻きわける。
暫く掬ってやると柔らかいものに触れた。
ぬくもりがあるように感じた。
左手に持っていた鞄も地面に立ててt両手で雪を取り除く。
隙間から見える肌色の隆起は、瞼に見える。
夢中になって両腕をシャベルのように行使する。
露わになった肌色は、やはりヒトの顔であった。
鼻の高い女性の顔だ。
息遣いが荒れているのを吐き出す息の揺らぎで認識した。
無意識に肩を上げながら深く早く鼻で呼吸をしていた。
急に不安になって辺りを見渡すが誰もいない。
異様な状況に孤独でいる不安と一見犯行にも思えるこの場面をみられない安心が同時に僕を襲った。
震える右手を彼女の頬に近づける。
数センチのはずが遠く感じた。
触れそうになった瞬間に凍った両方の睫毛がパサッと持ち上がった。
目が数秒間合う。
吸い込まれるようなビー玉のような蒼色の眼をしていた。
そして彼女の口角はゆっくりと上げられた。
雪の下から顔を出した白い肌の彼女は僕に向かってほほ笑んでいるのだ。
優しく僕を包み込むような、不安から解放されたような、そんな温かい表情だった。
凍てつくような寒さの中で僕の体は芯から温まっていく。
「また会えましたね。」
はじめて会うはずの彼女に向かって、僕の口は無意識に言葉を紡いでいた。
そうしてそれが当然であるかのように彼女にキスをした。
やはり彼女の艶めかしい唇は氷のように冷たいのであった。




