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短編集『脈絡なき雑多集団の概観は如何に。』  作者: 槇河 しゃち


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青春の形成期

常に何かに追われている。


思い返せば学生の頃は、不思議な力に満ち溢れていた。


ある日、部活を終えた僕らは、山の麓まで道いっぱいに広がって自転車を走らせた。

交通の迷惑であることは分かっていた。

しかし、当時の僕らにはそれが不思議と楽しかった。


今の僕よりも視力は遥かに良かったのに、狭い世界にしか目は行き届いていなかった。


閉店したタバコ屋の自動販売機でチューハイを数本購入する。

人通りの少ない小道に設置されていたので好都合だった。


誰が買うのかは毎回じゃんけんで決める。

かく言う僕も何度か購入したことはある。

絶妙な緊張と興奮が入り混じった感情を得られる事が出来た。

じゃんけんの敗北は敗北ではなかった。


もう太陽は沈みかけているが、構わず僕らは大はしゃぎしながら登山していく。

きっと怖いものなどないのだと僕らは自分自身に信じ込ませようとしていた。


ブレーメンの音楽隊のように行進した。

きっと山の動物達も迷惑に感じていただろう。


次第に茂った木々も見えなくなり、開放感のある頂上に辿り着いた。

白いレンガで作られた展望スペースはロープウェイで登ってくることも出来る。

時間やお金の問題で僕らがロープウェイを使うことはなかった。

500円より30分の登山の方が僕らにとっては安かった。


ベンチに腰を下ろす。

辺りはすっかり真っ暗になっていた。

いつものように数分間、蛍光色を撒いたような街を皆で黙って一望した。


「30万ドルの夜景だな。」


と誰かが我慢出来なくなって呟いた。

沈黙に耐えられない人間は大人になってもいるものだ。


「くすっ。」


言い得て妙だったので、シニカルな笑いが込み上げてきた。


それからお酒を大人の真似をして、美味いと言いながら健康な臓器に流し込む。

ツマミの菓子は汚れた部活着と一緒に詰め込んである。

取り出した菓子袋を割いて風呂敷のように広げる。


世界で一番幸せな宴会だった。


1時間ほど経過した。

帰路は闇に覆われた不確かな山道を戻らねばならない。

慎重にゆっくり歩くべき場面であった。


「よし、帰りは競争だ。」


しかし、そう言って誰か一人がおもむろに走り始めた。

置いて行かれまいと他のメンバーも走り出す。


僕らの体力は無尽蔵だった。

出所不明のエネルギーが惜しむことなく泉のように湧いてくる。

将来はこれを電気に変える発電を考えればいいと思う。


僕は比較的走るのが速かったので、徐々に差が広がっていった。

夢中で走っていると自分が集団の前にいるのか後ろにいるのかわからなくなってきた。


仲間達は今何処を走っているのだろう。

頬に嫌な汗が流れる。


「ぐわおおおおおお。」


後方から熊のような叫び声が聞こえた。

仲間の一人が脅かす為にやっているのだと頭ではわかっていたが、

声が近づいてくるごとに不安が募る。


素直に怖かった。

しかし、負けたくはなかった。


「なめるな、ばかやろう!」


急き立てられる恐怖に怯えながらも、必死に抗い走った。

気付けば登山道まで戻ってきていて、全員揃うまでに多くの時間は必要ではなかった。


夜中の登山は危険だ。

無事に全員が下山出来ていた事は行幸だったのかもしれない。

それを何度も繰り返していたのだから愚かとしか言いようがない。

しかし、あの日々で感じていた得体のしれない緊張や恐怖は、

僕らの青春以外の何物でもなかったのだと思う。

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