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短編集『脈絡なき雑多集団の概観は如何に。』  作者: 槇河 しゃち


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organs

臓器に記憶はあるのか。

思い出せないことは思いださなくてよい。


ベッドから見上げた天井は真っ白だった。

まだスケッチブックの方が、画用紙の凹凸から優しさを感じられるかもしれない。


窓から風が吹き込んで、透けたレース状のカーテンが靡いている。

人生最高の瞬間に立ち会っているウエディングドレスのような爽やかさがあった。


外には一本の大きな木が生えており、窓からその陰影を確認することができる。

木の影は部屋の中央まで真っすぐに伸びている。

床に映った影を暫く見ていると、その一部が膨らんで蠢いて、やがて人型になった。


《やあ、元気かい。お嬢さん。》


影はそういって気障に会釈した。

そこには重量を持たない影ならではの身軽さがあった。


「私はどうしてこんなところにいるのだろう。」


初めて会った影に親近感を抱いていた。

確認したが私の影ではない。


《思い出さなくていいよ。》


影は優しく語る。


私は上体をゆっくり起こした。

肩までしか届かなかった髪が腰まで伸びている。

どれ程の間、私は眠っていたのだろう。

ベッド傍には医療用の作業台が置かれている。

血塗られた包帯と、よくわからない道具が並べられていた。


・・・。


慌てて自分の四肢を確認する。

体幹から四肢に向かって輪郭を手で追う。

途切れている個所はなかった。


「良かった。」


腕も脚もちゃんと付いているようだ。

そして、有難いことに意思通りに動かせる。

首に触れた頸動脈も確かに脈打っていた。

目も耳も、心臓も機能している。


《安心していい。今の君は健康そのものだ。》


彼は私の内心を見透かすように笑った。


私はゆっくりと足を下ろし、置いてあったスリッパに足を通す。

手を洗いながら自分の顔を見つめる。

変わらないのに何故か違和感を感じる。


《かわいい顔をしているね。誇りに思うよ。》


影の方に歩みを進める。

踏みつけないように慎重に歩いた。

私には彼を確認する義務があるように思う。

手を伸ばして人型の影に手を触れようとした。


«だめだよ。»


突然強風が吹き込み、カーテンが飛び上がった。

外にはやはり大きな木が立っていた。

そして、カーテンが降りてくる頃には影は消えてしまっていた。


「あなたは誰?」


《もう少し休んだ方がいい。》


ほんの少し動いただけなのに息苦しさを感じる。

生まれたての子鹿のようにフラフラしながら、私は再び布団に潜り込んだ。


数日後、私は再度意識を取り戻した。

病院の一室で母が泣いて喜んでいる。

先生も私を見て微笑んでいる。


「君はね、一人の少年によって助けられたんだよ。」


その瞬間、腹部がズキっと傷んだ。

心臓の鼓動がやけにうるさく聞こえた。


服を捲ると、10cmくらいの手術痕が残されていた。

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