ラルナと壁とブリキの警備兵
ラルナは壁をぶち壊したい
「よっ、よーしようやく壁に着いたぞ、早速調べてみよっと。でもそろそろ門限だしなあ、見つかったらめんどくさいなあ」
太陽が西に傾きかけ、そろそろ夕日に変わりそうな頃合い、目の前にそびえる巨大な壁を目の前にして一人の少女が額を拭う。
少女の名前はラルナ、十五歳で好奇心旺盛な性格であり、そのため今日は街の外れにある壁の前にやって来ている。
彼女が何故この巨大な壁に目をつけた理由、それはアルナの暮らしている街の外の世界を見てみたいと思ったからである。
ラルナは生まれて以来ぐるりと周りを囲まれた壁のなかの町でそれなりに幸せに暮らしていたのだが、ある日祖母の書庫から見つけた一冊の本に世界には見果てぬ海や火を吹く山、凶暴な生物が我が物顔で支配する迷宮があると書かれていた。
祖母に聞いても話を濁されるだけでそれが真実で有るのかは分からなかったが、それなら試しに壁を越えて見ることは出来ないかと考え、学校終わりにこうしてこっそり壁を調べに来たのだ。
とりあえずラルナはぺたぺた両手で壁を触ったり軽く押したり叩いたりするも、当然の如く何の反応も帰ってこない。
「うーん、それじゃあ魔法も使って良いかな?まだ壁崩しは練習中だけど試すだけ良いでしょ」
鞄から荒々しい炎の模様の杖を取り出したラルナは呪文をぶつぶつ呟くも、背中に声が投げ掛けられる。
「カベノフキンノタイショウヲサーチ、ケンサクケッカ、ラルナトイッチ、ミセイネンノタメケイコクヲハッス、ソロソロモンゲンデアリマス、クラクナルトアブナイノデオウチニカエリマショウ」
片言な調子でそう告げたのは、ラルナにはよく見慣れた存在であるブリキで出来た警備兵であった。今にしてラルナはこのブリキの警備兵が何故こんな所も巡回し、誰によって作られたのかなど不思議の塊のような存在で有るように思ったが、ひとまずは今一番自分が興味を抱く壁について聞いてみた。
「すみません警備兵さん、そろそろ帰りまーす!それとその前に質問してもいい?最近気になってるんだけど、この壁って誰が何のために作ったの?」
通じるかどうかも怪しいが若干の媚びを売りつつブリキの警備兵に尋ねる。ピピピと甲高いおとをたてた後ブリキの警備兵も親切に答えを出す。
「コノカベハ、ワガアルジノキズキシモノデアリマス、トテモガンジョウデ、アルジイガイハクズスコトモデキナイハズデアリマス、コノカベニヨリヒトビトハ、アラソウコトナク、キョウイニオビエルコトナク、ヒビヲスコヤカニスゴセルノデス」
「へぇ、じゃあこの壁の外側に行ってみたいって思っても外には行けないの?壁をよじ登ったりしてさ。それとあなた達の主って誰なの?」
「ソウイウコトハ、キミタチノ、オジイサンオバアサンタチガ、キミノオトウサンオカアサンタチクライノトシニ、イッサイスベテヲキンジテイマス。ソレトワタシノアルジノナヲカタルノモ、マタドウヨウニ、キンジラレテイテ、オシエルコトハデキマセン」
「ふーん、そうなんだ、じゃあお婆ちゃん達に話を詳しく聞いたら分かるのかもねー」
「ソウカモデスネ、デハオクッテイキマス、カエリマショウカ」
結局調査を始めてから間もなく、ラルナは街の自宅まで警護つきで帰ることになったのだった。
夕日が反対の壁の向こうに沈んでいく。