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巴の目的、涼河の結末

逃げるように巴の実家を後にした俺は、「涼河、こっち」と巴に誘導されるままに足を進め、気が付けば見知ったところに辿り着いていた。


「…おい、なんでここなんだよ」


そこは、生きている巴に最後に会った場所だった。そして、巴が死んだ地でもあった。そこは、巴が俺の目の前に落ちてきた、あの神社だった。


「ねぇ、涼河。私が本当に、涼河の空想で妄想で幻想だと思ってる?」

「…は?」


俺を先導していた巴が、石段を上りきり、ゆっくり俺に振り返る。俺も、石段を上りきって、身長差で巴を少し見下ろす。巴は静かに微笑んでいて、それが何故か怖かった。


「私が涼河の思い描いた幻だとして、そうしたら涼河が知らないことを私が話すわけはないよね。実際、今まで涼河が知らない話は、私はしなかったでしょ。それはね、今日のためだったんだ」

「おい、何言って…」

「今から、涼河の知らない話をしてあげる。涼河と別れてから、涼河に幽霊として再会するまでの間の話」


そして巴が語り出したのは、確かに俺が知らない話だった。


「涼河にフラれて、私はショックで抜け殻状態になった。何をすればいいのか、どう生きればいいのか分からなくなった。お母さんも、私がようやく結婚すると信じていたから…そりゃそうだよね、結婚前提で付き合ってるって挨拶にまで来たんだもの、親だって当然、私が結婚するものだと思ってた。涼河は知らないけど、私、別れる直前に、赤ちゃん出来てたの。勿論、涼河の子供。別れるときに涼河が蹴ったり殴ったりしたから、そのときの…精神的なショックも含めて、主にお腹を散々蹴られたせいで、流産しちゃったんだけど。そのこともお母さんは知ってたから、物凄くショックを受けてた。で、そのあとね、涼河が私のあとに付き合った女の子がね、多分あれは、涼河にフラれたあとだったんだろうな、うちに、嫌がらせをしてきたんだよね。変な郵便物を送ってきたり、着払いの商品を大量に何回も送りつけてきたり、窓ガラスに石を投げつけたり、玄関に蛍光塗料ぶちまけたり…。多分、涼河が私のところに戻ったんだと思ったんだろうね。ものすごい嫌がらせをされて…お母さん、女の子に鉢合わせして、叱ったんだって。そしたら、発狂した女の子が、お母さんを殴りつけて。打ち所が悪くて、お母さん、死んじゃった。おばあちゃんは、あんたは悪くない、悪いのはあの女と、あんたの元カレだ、って。私は、娘と、お母さんを失ったの。涼河のせいで。生きる意味も無いし、どうすれば涼河に分かってもらえるかなって、苦しんでもらえるかなって考えて。考えた結果、あの雪の日、この神社に来るだろうなって予測を立てて、見事にその予測は当たって、私は計画を実行した。涼河の目の前で死ねば、涼河の中に、私はこびりつくでしょう?幽霊になったのは、嬉しい誤算だったけど…。今日、何の日か覚えてる?涼河の、誕生日。そして、涼河が私に結婚しようって言ってくれた日。だから、今日、家を見に行きたかったの。今日が、最期だから。ねぇ、涼河、私のこと、好きになってたでしょ?涼河を見てれば分かるよ。私も、涼河のこと好きなままだと思った?思ったんだよね?だから、私の我が儘を聞いて、雨なのに、誕生日なのにこんなところまで連れてきてくれたんだもんね?でもね。私は、涼河のことなんて、もう好きじゃない。むしろ、大嫌い。だって、私の母親と、娘と、私自身を殺したんだもの。大っ嫌いよ。


殺シタイホドニネ」


濡れて滑りやすくなった足元。

迫力に後ずさった、その先は。

巴が落ちて死んだ、石段。


つまり。


俺の、この先は。




END

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