1話
―――目が覚めた。ここはどこだろうか、目を開けるがぼんやりとして何も見えない。周囲には人の声がする。持ち上げられる感覚。そして、女の人の不安げな声。しかし何を言っているかわからない。途端に、なぜか感情が乱れ、声を上げ泣いてしまった。と同時に周囲の人たちのほっとする雰囲気が伝わってきた。そして俺は泣き疲れて眠ってしまった。
どれくらい眠っていただろうか。目が覚めたのは、周りが木で囲まれたログハウスのような場所。他には、本棚や、机がある。その机の上には不思議な色をした花が飾ってある。それを確認したと同時に安堵した。目が見える。そして確認するのは俺の二つの小さな小さな手。数時間前までは毛が生えていて、少々ごつかった手を思い出す。
これは夢だろうか…少し思い出してみよう。昨日は仕事を終え風呂に入り、就寝したはずだ。明晰夢だろうか。いや、夢の中で寝て起きたらまた同じ夢なんてことは聴いたことがない。となると…転生というものだろうか。それならば、いい年して転生を夢見ていた俺は大歓迎だ。会社はブラックだし、家族はいなくなるし。地球には何の思い入れもない。ただひとつ気がかりなのは、HDDくらいか。
ガチャリ。とドアが開いた。部屋に入ってきた人を見る。その人は、緑色のロングヘアーが似合っている少しおっとりとした顔立ちの女性だ。特徴を挙げるとするならば、耳が長いことと、美人であるところだろう。
耳が長いのは種族的なものかもしれない。さしずめエルフといったところか。やばい。テンションがあがる。
「あら、起きたのね。ハンク」
俺のそばにより、優しい声色で、俺の頭をなでながらその女性が発した言葉は、明らかに俺に向けられた言葉だ。俺の名前はハンクか。なかなかかっこいい名前ではないか。俺はそれに答えるようにその女性に向かって手を上げた。
俺は不思議な色の花が気になったので、机の上の花瓶を指差し、声を上げてみた。
「あの花が気になるの?」
女性が手を花の方へ向けると花瓶ごと花がこちらへ向かってきた。花が向かってくる瞬間女性から温かなものを感じた。
―――これは魔法っ!!少し気持ちが高揚してしまったがここは地球ではないと確信をしながら女性の言葉を待った。
「これはね、リリーって言う花なの。この地方でしか取れない珍しい花なのよ」
と、微笑みながら言う女性の顔は自愛に満ちており、まるでわが子を見る母親のような目をしていた。もしかしたらこの女性が母親なのかもしれない。それは子供としての本能からくるものであるのかもしれない。
俺は花を見ながらそんなことを思っていた。
「この花が気に入った?もし、気に入ったのなら良かったわ、私も好きな花なの。あなたのお父さんと出会うきっかけになった花だからね」
微笑ながら言う俺の母親は、昔を懐かしんでいるようだった。
「あら、ごめんね。お父さんは今狩りに出ているから帰ってきたらまた3人でお話しましょ」
そういうと、母親は部屋を出て行ってしまった。
さて、これからのことについて考えよう
いろいろ思索していくうちに、また眠くなったので眠ることとしよう。
それにしても魔法かぁ…使えたらいいなぁ。等と考えているうちに気がつけば眠りに落ちていた。
翌朝、父親だと思われるの男の声で目覚めた。目が覚め、視界に移りこんできたのは
「おおわが可愛い息子ハンク、起きたか!」
と豪快に笑い声を上げ、俺を抱き上げながら俺に話しかける、黒髪で頬に傷があり、背丈は2メートルほどの筋肉質の男だった。背には自分の背丈ほどの大剣を2本と重そうな戟のようなもの背負っており、腰には普通の剣が刺さっている。みるからに強そうな男だった。
「だうあ、だうだうあ」
汗臭かったのでその旨を伝えようとしたのだが、目の前の男には息子がだっこされて喜んでいるようにしか見えないのだろう。男は満面の笑みで、俺にたかいたかい等をしてくる。しかし、唯一の救いが母さんだった。
「汗臭いのだからお風呂に入っちゃいなさい」
あきれながら父さんに苦言を呈してくれるのはとてもありがたい。父さんはしぶしぶ部屋を出て行き俺は急速を得た。
俺はこの両親の元で健やかに成長していくのであった。しかし、あのような悲劇が起こるとはこのときは予想だにしていなかったのである。