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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter2 旅路の仲間たち
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第5話 旅路が平和なはずもなく

※グロ注意!

アレグリア王国を出発して、早二日。

特に異変らしい異変もなく、俺たちはいたって平和な、それでいて少し退屈な時間を過ごしていた。

冒険者になって以降日課になっている剣の手入れを行いつつ、俺はふぅと溜息をもらす。

――平和なのはいいことだけど、あんまり平和だと刺激がなくてつらい。

剣を鞘に納めて手持無沙汰になった手を、意味もなく太陽に向けて伸ばした。本日も快晴なり。

「……暇そうだな」

「うぉっ……なんだ、ザクロさんか」

二日間の間で、俺とザクロさんは微妙な距離を残しながらも、他愛ない話をできる程度には関係を築けていた。ともに行動する仲間である以上、暇つぶしの手段に乏しいこの世界では会話ができるほどありがたいことはない。

「……警戒は俺が行う。お前は奥で休んでいて構わないぞ」

「ん、そうか?ならお言葉に甘えちゃおうかな……っと」

うれしい提案を聞き、それを素直に受諾して俺は馬車の奥に潜り込む。ザクロさんは俺が新米であると聞いたのか、接し方から少しとげが取れているような気がした。嬉しいけど子ども扱いされて複雑だ。いや実際子供だけど。



「ゼックさん、レブルクってとこにはどのくらいで着くんですか?」

馬車の奥に引っ込んでもやることがなかったので、のぞき窓から顔を出してゼックさんに問いかける。

「ん……そうだなぁ、タクトはあの山が見えるか?」

「あー、はい、晴れてるんでよく見えます。……あれを越えるんですか?」

「そうだ。もっとも、頂上まで行ったらレブルクの時計塔が見えるけどな」

ゼックから聞く話によると、レブルクは現在目の前に見える「レビー山脈」のふもとに興された町が発展し、山麓さんろくに広がる大都市になったという経緯を持つそうだ。豊富な鉱物と自然から発生するたくさんの魔力が集うことから、商業者の間では魔術の街とも呼ばれているんだとか。

個人的には魔術にも興味があるが、魔術というものは適性があっても一筋縄で習得できるものではないらしい。魔法剣士とかかっこいいのに、再現できないのは誠に遺憾である……とか胸中でつぶやいていると、後方からざしっ、という砂を踏む音が聞こえた。耳に入れた俺がすばやく馬車の入り口まで移動すると、警戒を行っていたはずのザクロの姿がない。

どこにいったのかとあわてていると、次いで急に馬車が止まった。ゼックも何かに気付いたようだ。

森林地帯に差し掛かった場所で停車した馬車から素早く飛び降り、ゼックのもとに向かうと、そこにザクロはいた。

「……構えろ新米。魔物の気配がする」

「あ、あぁ」

ザクロに促されるまま、俺は両腰に吊った剣の柄に手をかけて、あたり一帯の気配をうかがう。

少し集中するだけで、その気配はよく感じ取れた。生々しい殺意と飢餓感に満ちた視線が、全方位から俺を射抜くのだ。

――少なくとも、盗賊や野盗の類ではないはずだ。同じ人間なら、これほどまでに強い殺気は感じないはず。そう考えて思考を落ち着けるうち、横で目だけを動かしていたザクロが「来るぞ!」と叫ぶ。同時に、ひときわ強く俺を射抜く視線が一つ。

とっさに抜剣した、その判断は間違っていなかったようだ。太い木の一本から突如降りかかった物体が、防御のためにクロスした二本の剣にぶち当たる。

「ぐ、うっ!」

両腕にひしひしと伝わる衝撃に顔をしかめつつ、少しだけあがった腕力で降りかかった物体を力任せに押し戻す。そこで、ようやく降りかかってきたものの正体がわかった。

「――――森オオカミ、それも赤目種か」

アレグル森林でも数回戦った経験がある、森オオカミが俺に襲い掛かってきていた。しかし向こうのオオカミと大きく違う点は、その瞳が金色ではなく、血濡れの赤色になっていることか。

オオカミは主に、生息地と瞳の色でその気性が決まるという。瞳の色は危険度が低い順に青、緑、黄、赤。つまり現在敵対している森オオカミは、最も凶暴な「赤目森オオカミ」ということだ。これが山地ならもっと凶暴だっただろうとは、のちにザックから聞いた話。

そうこうしているうち、別方向の茂みから飛び出してきたオオカミが俺に襲い掛かってくる。慌てず左手の剣を振りぬくが、気づいたらしいオオカミが着地してバックステップをとったおかげで不発に終わった。

だが、敵の攻撃はやまない。先ほど木の上から襲い掛かってきたオオカミが再度俺に突撃をかけてきたことに、俺は気づかなかった。

「おわっ!?」

ガブリといかれる前に回避できたのは幸いだったが、それにほっとしている暇はない。すぐ後に後方から飛んできたオオカミのタックルが、俺を前のめりに吹き飛ばした。幸いにも吹っ飛ばされた体制のおかげで前転をするだけに終わったが、「――っそ、俺が一番弱いのを分かってるのかよ!」と屈辱に吼える。

現状、見た目からいえば俺が一番弱そうだ。ザックは旅慣れしているようだし、ザクロに至っては無言の圧力が不可視の障壁になったように狼たちを寄せ付けていない。となると真っ先に槍玉に挙げられるのは俺であり、オオカミたちの高い知能が俺をじわじわと追いつめる――その前に。

「少し下がれ」という小さな、それでいて確かなつぶやきが、確実に俺の鼓膜を震わせた。

ヤバい、殺気的な感覚でかなりヤバい。本能が告げるまま反射的に飛び退くと同時に、何かの力が収束するような感覚を感じた。

「斬技――『一刀岩砕イットウガンサイ』」

直後、ザクロが抜き放った武器――――細身の刀から迸った衝撃波が、確かにこの目に焼き付いた。

その衝撃波は俺を襲っていたオオカミ――突然飛びのいた俺を見失っていた――へと一直線に突き進み、その胴体を薙ぐ――と同時に、その体を真っ二つに切り裂いた。

「なぁっ?!」

その威力に驚愕したのは、オオカミと俺だった。まさか、衝撃波だけがあれほどの威力を持つとは思わなかったのだ。

しかし、ザクロの攻撃は止まることを知らない。刀が振り抜かれるたび、繰り出された薄青色の燐光をまとった衝撃波が展開していたオオカミを切り裂き、からめとり、蹂躙して、引きちぎる。

血も涙もない奴だな、と思ったが、冒険者から考えればそれは自衛として普通の行動なのだろう。その手段が残酷かどうかは置いておいて。

そんな、正しく無双といえる光景を目の当たりにして、俺の血がうずいた。――衝撃波かっけぇ!!

「うおりゃああっ!!」

心のどこかを盛大に刺激された俺の脚が、体が、勝手に動き始めた。孤立していたオオカミへと一直線に走り込み、一気に懐までもぐりこむ。気づくのが遅れたオオカミの腹に向けて左手の剣を突き刺し、右の剣の腹でオオカミを固定。刺さっていた左の剣を力任せに振りぬくと、オオカミの横腹が裂けて赤色の血が噴き出す。今更どうした。どうせ背後では血だまりができてるんだから避ける必要はない。無いんだよ!

そのままの勢いでオオカミを放り捨てると、地面にたたきつけられると同時に避けた横腹から腸がはみ出る――――前言撤回、ごめんなさいまだ慣れそうにありません。

なるべく視界に入らないよう手早く振り向くと――とんでもない光景が広がっていた。

「……終わったぞ」とつぶやくザクロの周囲は、真っ赤に染まっている。そこかしこに余波を受けたり直撃を食らったりでぐちゃぐちゃになった「オオカミだった物体」が転がり、てらてらと光る腸が血に濡れて輝きを濁らせる。

衝撃波のおかげか叩きつけられたおかげか、肉のかけらがそこかしこに飛び散り、肉特有の生臭さが周囲に充満していた。

「うげ……」



――ああ神様、俺はなぜこんな地獄のような光景を見ねばならんのですか。

俺は生きるために殺生してるんです。こんな死にそうな光景見たくないんですよ!

主人公タクトの全身像を描いてみました。想像できないという方はぜひこちら(http://d.hatena.ne.jp/delta8428/20140110/1389314565)へどうぞー。

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