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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter8 神と人と始まりの地と
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第64話 決戦-1

 力強く翼をはばたかせながら、大きな龍に変身したルゥが空を駆ける。その上から無限に続く空を見つめる俺には、少し気になることがあった。言うまでもなく、目的の人物たる魔王、ひいてはその居城のことだ。

「なぁ、ルゥ。今から俺たちは魔王の根城に突っ込むわけだけど、その魔王の城は一体どこにあるんだ?」

 実はここまで、魔王を倒すために動いてきていたのはいいが、目指すべき魔王城の位置は全くと言っていいほど仕入れることができていなかったのだ。唯一の情報源だったであろうレヴァンテは、時間稼ぎと称してどこかへと……恐らくは魔王城に向かったため、彼女から聞こうにも聞けないのが現状だ。

 言外に含まれていたらしい不安の色を察したらしいルゥは、わずかな苦笑とともに俺へと語る。

「ご安心ください、マスター。魔王の根城はこの世界最南端に存在する『封呪の島』。かつて先代勇者が魔王との一騎打ちにてかの者を打ち破ったと伝えられることから、そう名付けられたそうです」

 封呪の島か。そういえば結構前、ヴォルケス火山に立ち寄った時にも、炎の大精霊がそんな名前を口走っていた気がする。……島での決闘とかどこの武蔵と小次郎だよ、と内心でツッコミを入れながらも、俺は迫る決戦を静かに待っていた。

仲間たちの楽しそうな話し声が、後ろから聞こえてくる。時折俺を呼ぶこともあったが、何かを感じ取ったらしくあまり俺に話題は振ってこなかった。


 おそらく、俺はこの戦いで命を落とす。何故断言できるかはわからないが、そんな気がするのだ。

 後悔のないように何かを話しておこうと思ったが、結局いい言葉も話題も思いつかなかったため、魔王城に到着するまで、口を開くことはなかった。


***


「見えましたよ。あれが、魔王の根城です」

 ルゥの言葉を受けて、俺は目を開けて海を見る。が、眼下に続くのはどこまでも青い海原だけで、島らしい島なんてものはどこにも見当たらなかった。

「……どこに島が」

 あるんだよ、とまで言おうとした俺の口は、驚きに止まってしまう。おそらく無理もないはずだ。なにせ、顔を上げたその目の前に――「中に浮かぶ巨大な岩塊」があったのだから。

 だいたいの目測なら、縦の大きさはゆうに50mを超えるだろう。てっぺんに屋敷のような建物を抱えて、おおまかに逆二等辺三角形のそれが、大海原の上を音もなく浮かんでいるその光景は、激しい違和感があった。その違和感が、溢れてくる魔王ヤツの殺気によるものなのか、それとも内部でうごめく生ける死者カダーヴェルの嘆きによるものなのかは、判断できない。

「……こいつぁ、不気味すぎるな」

 同じような気配を、ゴーシュも感じ取ったのだろう。うっすらと冷や汗のようなものをかきながら、魔王城を注視する。

「魔力の流れが強い……間違いなくカダーヴェルがいるよ。それに、何か別の生き物も」

 カノンの言葉と、耳をつんざくような咆哮が響き渡ったのは、ほぼ同時だった。顔をしかめつつも、俺は魔王城に目を向ける。

 そこにいたのは無数の奇怪な生物たちだった。鳥の頭とコウモリのような羽を持ち、その手には得物を持った、その姿はいわゆる鳥人。元の世界の知識と照らし合わせるならば、それは「ガーゴイル」という架空の生物そのものだった。

 けたたましい雄叫びをあげながら、ガーゴイルたちが殺到してくる。間違いない、魔王の手下だ!

 それぞれが戦闘体勢に入ろうとするが、その前に俺たちの横を何かが通り過ぎる。それも一つではなく、複数の影が俺たちの前へと躍りでた。

 俺たちの背後から現れた影は、その長い首を僅かにたわめると、一気に伸ばして口を開く。するとそこからは、青白い光を伴う炎が吐き出された。放たれた炎の奔流はガーゴイルたちを飲み込み、瞬きをする間に灰燼へと変えていく。

「かの者もまた、魔神の力によって土くれから生まれた怪物です。ですが、ご心配なく。私の仲間である幻龍が、魔王城到着まで援護してくださいます!」

 俺たちとともに動向を見守っていたルゥが、そう俺に告げた。

 内心、龍が仲間になるなんてなんと心強いことか、と叫んでいたりしたが、ともかくは魔王の撃滅が目的。気を引き締めて、ルゥに進撃の指示をくだす。

 音高く鳴いたルゥが翼を大きく羽ばたかせ、魔王城の下部めがけて空を駆け抜けた。


 最下層にちょこんと存在したテラスのような入り口に、俺たちは降り立つ。正面には、まるで今まで巡ってきた神殿のような石造りの扉が、音もなく鎮座していた。

「……ここからは徒歩か」

 扉をにらみつつ、俺はつぶやく。道中、魔王城の壁面すれすれを通り、ガーゴイルの攻撃をかわしながらここまで来たのだが、攻撃してきたガーゴイルが壁に激突し、そこから放たれた黒い稲妻のようなもので弾き飛ばされていくのを何度か目撃していた。あのぶんだと、おそらく魔王が座しているだろうてっぺんの城にはもっと強固なバリアが働いているだろうと俺は睨んでいる。

「タクト君、のんびり考えてる暇はなさそうよ」

 サラの声にふと顔を上げると、石造りの扉が重苦しい音を立てて開き、中から不気味な眼光を放つカダーヴェルたちが吐き出されてくる最中だった。わらわらとこちらめがけて群がってくるそれを、しかし俺はためらいなくアルカンシエルの剣戟を持って斬り倒す。すると、カダーヴェルたちはその一撃だけでうめき声とともによろめき、紫煙となって霧散した。

 そういえば、アルカンシエルを実戦で使うのは初めてだ。相手がカダーヴェルなので威力のほどはわからないが、切れ味はかなり向上しているらしい。いつもの鈍い感触もほとんど感じず、すらりと切ることができた。さすが、ウィンが俺のためにあつらえてくれただけのことはあるなと心の中で賛辞を送る。

 しかし、カダーヴェルの量はかなりのものだ。これをひたすら斬り倒して突破するのは、かなり骨が折れるだろう。まぁ、どれだけ来ようと突破するだけなのは変わりないのだが。

「タクト、後ろからも来たぜ!」

 ゴーシュの声にふと後ろの空を見ると、幻龍たちの攻撃から逃れたらしいガーゴイルが、俺たちめがけて飛来してきているのが見える。撃墜しようとアルカンシエルを構えたが、ルゥが翼を広げる形で俺を制止する。そのまま燐光とともに、白銀の龍は銀の長髪を持つ女性の姿に変貌した。

「ガーゴイルたちは、私と他の幻龍たちにお任せを。マスターは、進むことだけに専念してください」

 両の手に白い炎を纏わせつつ、ルゥは浅く振り返って妖しく笑む。その笑いは、忠誠のものか親愛のものか。

「あぁ、頼んだぜ。幻龍の力、見せてやってくれ」

「無論です。あのような空気人形ごときに命を奪われるほど、我ら幻龍族は衰えておりませんよ」

 頼もしい言葉を背に受けつつ、群がってくるカダーヴェルたちをカマイタチで一掃する。不敵に笑むルゥをその場に残して、俺はカノンたちを引き連れて階段を駆け上がっていった。


「食らいやがれ、バケモノ共ォ!!」

 ゴーシュのハルバードが、緑の燐光を纏った旋風を巻き起こす。そのまま高速で回転する斧槍が、行く手を塞ぐカダーヴェルを絡め取り引き裂いた。

「集中して、込められる魔力が大きいほど、魔法の威力も上がる……!」

 その後ろから、カノンが火炎の流星を降り注がせる。いつにも増して赤々と燃え盛るそれは、広々とした通路を埋めくすカダーヴェルたちを瞬きの間に焼き尽くし、着弾の爆風で床や壁さえも大きく抉り取った。

「もう私を脅かすようなものはない……全力で行ける!」

 その横で、サラが魔力を込めた矢をつがえる。ぎりりと引き絞られた弓から放たれた無数の魔弾が、カダーヴェルたちを正確無比に貫き、確実に屠っていく様は、まるで魔力矢そのものが意思を持っているかのようだ。

 仲間たちが、それぞれ持てる全てを叩き込み、カダーヴェルの海を進軍していく。俺もそれに負けじとアルカンシエルを振るい、覆いかぶさろうと飛びかかってきたカダーヴェルたちをまとめて灰燼に帰してやった。

 ふと見れば、目の前すぐそこに豪奢な模様のあしらわれた二枚扉が見える。装飾そのものはここに入ってきた時と同じようなものだったが、あちらが鋼鉄の色そのままだったのに対し、眼前の扉は赤黒く染め上げられていた。まるで、中へと侵入してきていたのであろう冒険者たちの血が、そのまま塗料として使われているかのような、そんな禍々しさを感じる。

 とは言え、見回すまでもなくその扉以外に道はない。何が待ち受けているのかと若干の不安を胸に宿しつつ、俺は最後の包囲網を切り開き、扉を力いっぱいに押し込んだ。押し開けた扉の中へと転がり込み、アルカンシエルで仲間たちだけが通過できる炎の壁を展開。炎の先へ突き出した手で仲間を掴んで、そのままぐいと引っ張り込む。カノン、サラ、ゴーシュの順番で入り込めたことを確認し、だめ押しに火炎をのたうち回らせた後、改めて俺は扉を固く閉ざした。

 全員の無事をお互いに確かめあって、俺たちははぁとため息をつく。

「……やっぱり、キリが無いね」

「ええ、本当に。さっきのでも矢がそこそこ無くなったのに、この調子だとちょっと不安ね……」

 しょげた顔を見せるカノンに、サラが不安げな様子で同調する。後衛の二人も消耗しているが、俺としてはずっと前線を支えてくれているゴーシュの体力も気がかりだった。大丈夫なのだろうかと心配になり、ゴーシュがいる俺の後ろを見ると、そこにいるゴーシュは全く別の方向を――薄闇の向こうを見据え、愛用のハルバードを構えていた。

 そういえば、入り込んだときは薄暗さで気づかなかったが、どうやらこの部屋はホールのような大広間になっているらしい。……なんとなく、何が出てくるのかわかるような気がするのは何故だろうか?

 そんなことを考えていると、不意に広間を覆い隠していた薄闇が音もなく引いていく。その奥から姿を現したのは――

「……久しいな、我らが仇敵」

「ヒッヒッヒ、ご機嫌いかがかな?」

「ようやくお出ましか。待ちくたびれたぞ」

 かつて俺たちが神殿を巡っていた際、目の前に立ちはだかっていた者たち……つまるところの、レヴァンテを除いた四天王たちだった。闘志を帯びた瞳を爛々と輝かせる彼らからは、以前とは比べ物にならないほどの殺気をひしひしと感じ取ることができる。

「なぜ、お前たちがここにいる?俺たちに倒されたはずの、お前たちが……!」

 不可解な現象を目の当たりにしつつ、俺はアルカンシエルを構える。だが、三人は殺気と歓喜の入り混じった複雑な声を向けてくるばかり。

「ヒッヒ、それもこれもみーんなアベル様のおかげさね。あたしらは、あのお方に再び生を授かったのさ」

「我らが盟主の力は、今やこの世界全土を覆わんとしている。我らに課せられた役目は、目前に迫る悲願の成就を阻まんとする、不届き者の始末だ」

 ロキとノルンが、嘯くように語る。死者蘇生ができるなど、と一瞬考えたが、現に蘇った者たちが目の前にいるのだ。アベルの……厳密には彼に取り憑く魔神の力は、認めるほかない。

 同時に、なんて無茶苦茶なんだと内心で頭を抱える。確かに、屍の兵士カダーヴェルが生み出せる時点でそういう力を持っているということを類推していてもよかったのだが、そこまで知略は及ばなかった。いや、考えたくなかっただけか。

「我らの盟主は素晴らしい方だ!俺にまた研究のチャンスを下さったんだ、こんなに嬉しいことはない!」

 高らかに笑うオーディンを横目に、俺は一人思考を巡らせる。

 連中の実力は、これまでの旅で戦ってきたことから身にしみて理解しているつもりだ。そんな奴らが3人同時に襲い掛かってくるとなれば、流石に俺たちでも突破できるかは怪しい。

 できないことはないだろう。だが、仮に全員を倒すこととなれば、かなりのタイムロスになるのは明白だ。最悪、魔王が何かしらの行動を起こそうとしているならば、それの阻止が間に合わなくなる可能性だってある。

 アルカンシエルで蹴散らすことも考えるが、それはあくまでもその場しのぎに過ぎない。ならば、どうやってこの場を切り抜けるか……。

「タクトくん」

無意識にあごに手を当て、より深く思考に入ろうとしていた俺の耳に、不意に毅然とした口調の声が響いた。声の主は、カノン。

「……私たちが、あの三人を相手取って時間を稼ぐ。だからその間に、タクトくんは」

 そう俺に向けて話す同い年の少女の顔は、勇ましい決意に彩られた、どこか清清しい表情だった。

「なぁに、一度ぶっ潰してやってるんだ、今回だっていける!」

「ええ。私たちだって伊達に旅をして、経験を積んできたわけじゃないわ。きっと、勝てるはずよ」

 カノンの言葉に、ゴーシュとサラも同調して各々の得物を構える。3人の表情は皆、希望を見つけたような晴れ晴れしたものだった。

 任せるべきか、ともに戦うべきかの、二択。ほんの少しだけ迷ったが、俺はすぐに決断した。

「――アルカンシエル!」

 俺の声にあわせて、アルカンシエルの刀身が深い緑に染まる。そのまま振りぬき、敵対する三人の四天王めがけて吹き荒れる暴風となって彼らに襲い掛かった。行動を封じるための攻撃でもあるが、不用意に足止めをすればアルカンシエルに切り裂かれるぞ、という警告のようなものでもあった。魔術のエキスパートたるロキがいるのだ、相手もそのあたりのことを理解してくれるはず。

「……皆」

 足を踏み出し進もうとして、俺は立ち止まった。不意に立ち止まった俺を、三人は静かに見つめている。

「ありがとう。…………絶対に、あいつを倒してくる」


「――――だから、3人も死なないでくれよ」

それだけ言い残して、俺は脚に力をこめて広間の向こう側へと疾駆する。四天王たちの脇をすり抜けて反対側への扉へ到達し、広間から出ようとしたときに。

「任せとけ!!」という頼もしい声が、広間の反対側から響いてきた。


***


 広間を抜けた先は、一本道だった。奇妙なことに、この先からはカダーヴェルの気配がしない。

 いや、逆に好都合だ。狙ったものか忘れていたのかはわからないが、邪魔だてしてくる奴がいないのは助かる。そう考えて、俺は改めて長く緩やかな螺旋階段を駆け上がり始めた。



 ようやく扉が見えてきたそのときには、すでに城の下にくっついていた岩塊の中から魔王城の内部へと移動していたらしい。横を見れば、壁には豪華な意匠があしらわれた窓が並んでいた。

 そして目の前にそびえる扉もまた、大きな意匠がちりばめられている。もっともその内容は、大きな龍が雷鳴に打ち砕かれ、亡者らしき者にその体躯を貪られているという、不気味なものだったが。

 逡巡さえせずに、俺は扉を吹き飛ばさんとする勢いで内部へと突入した。中には、大広間のときとよく似た闇が広がっている。

「――来たか、忌まわしき神龍の使いよ」

 そしてその一番奥から、渋みのある男の声が響いてきた。同時に、闇が一気に晴れていく。


「流石はあの忌むべき神龍が選んだ者、と褒めるべきか。……この魔王アベルが成さんとする計画を狂わせる者よ」

そして一番奥の玉座らしきものから立ち上がり、こちらを見下ろすのは、紫がかった黒の鎧を着込み、その両腰に肉厚の長剣を下げた人型。


魔王と呼ばれる男、アベルだった。

タクト「おい、なんだこのゼノブレイドのパッケージは」

作者「ゼノブレイドクロスのためにプレイしたら半月どっぷりハマった。反省も後悔もしてない」

タ「執筆をサボるなこのヘボ作者!」

作「サーセンフヒh…っちょ、アルカンシエル向けないで、振るなよ、絶対振るnア"ーッ!!」


3週間もサボってて申し訳ありませんでした。

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