第63話 因縁と運命と宿命と
「……わかった、行くよ」
騎士たちの言葉に、俺は肯定の意を送った。直後、ふうぅと騎士連中のそこかしこから安堵のため息が聞こえてくる。あー、やっぱり無理してたんだな。特に俺に問いかけてきたやつなんか、今にも俺に向けて頭を下げそうなほど申し訳なさそうな顔をのぞかせている。
「タクトくん、いいの?」
「まぁ、正直気は進まないけどな。でも、俺には行く理由があるんだよ」
もともとこの旅が、王家を見返すために始めたものだというのを、俺は先日思い出したのだ。ならば、これは千載一遇のチャンスと見ていいかもしれない。……私欲を満たすために王に会いに行く勇者なんてのもそうそういないだろうなぁ、なんてことを頭の片隅で考えながら、俺は騎士を一瞥する。
「さあ、騎士さん。王様がお待ちかねだろうし、連れて行ってくれ」
俺の言葉に見事な敬礼を返し、そそくさと俺の先導に入った。その兜の中から覗く顔は、この世界にきた直後、俺を蹴飛ばした彼に間違いない。覚えるほど恨んだ覚えはないが、いい出会いだと思って覚えておくことにした。
***
数分歩き続けると、すぐにアレグリアの城門が見えてきた。かつて俺が蹴落とされた階段を踏み上がり、あの時以来目に入れることがなかった城門を、俺は改めて観察する。
防衛ということを考えていないのだろう。門を塞ぐ扉にはひたすら豪奢な飾りだけが施され、機能美というものの一切を感じさせない。横で警備する衛兵こそ優秀そうだが、これでは防衛の要というより権力誇示の要である。ようするに、非常に悪趣味だ。
つくづくこんなところに取り込まれないでよかった、と胸中でぼやきながら、門をくぐって城の中へと踏み入る。
内装もまた、贅の極みと言わんばかりの悪趣味さだった。高価そうなツボや絵画、来賓のことを考慮してなさそうな質のいいカーペットなど、所々に権力を誇示したいだけの調度品もちらほらある。
口には出さないが、仲間たちも同じことを思っているらしい。ゴーシュなどは露骨に眉をひそめ、カーペットを気持ち雑に踏んでいた。
しばらく同じような光景を見続けて胸糞悪くなってきたところで、ようやく謁見の間へとたどり着いた。
「ドラウス王!ご命令の通り、神龍の騎士一行をお連れいたしました!」
騎士の一人が声高に叫ぶと、程なく謁見の間に繋がる二枚扉がゆったりと開く。その奥に見える玉座に、アレグリアを統治する王……こと、ドラウス・ディ・アレグリアが座っていた。憎たらしいまでの自信に満ち溢れた顔をこちらに向け、入室を促してくる。
騎士たちが離れたのを見て、俺たち四人は帆を進め、そのまま一直線に玉座の前へと歩いた。静止した直後、王から声がかかる。
「……アレグリア14代王、ドラウス・ディ・アレグリアだ。貴君らの参上、心待ちにさせて貰ったぞ」
わざわざ来てやったのに感謝もしないその態度には、なかなかどうしてイラっとした。が、そんな俺の胸の内などいざ知らず、ドラウスは勝手にペラペラと言葉を紡ぐ。
「貴君らの活躍は我が耳にも届いている。その力を我らのために振るえること、光栄に思うが良い」
こめかみに青筋を立てた程度で済んだ俺を誰か褒めてほしい。したっぱの騎士さえ態度を改めてくれているというのに、この無能王ときたら自分の立場をわかってないらしい。
俺の態度で言わんとすることがわかったのか、横に控えていたクレアが小さく頭を下げていた。どうやら、神龍の騎士という肩書きの重さを理解していないのは、目の前でふんぞり返る無能王だけらしい。アレか、「跪かせないだけありがたいと思え」とか考えてるのか。
「……確認しよう。貴公はその剣と力を、我が国のために振るうと誓うかね?」
無能王が無能な言葉を無能な声に乗せて無能にほざく……というのは言い過ぎか?まぁどっちにしろ、神龍の騎士がもっと喧嘩っ早い性格だったら、まず真っ先にコイツが切られているだろう無能ぶりだ。一体何を食べたらこれだけ頭が腐るのだろうか?
ともあれ、確認してきたことはありがたい。コレで、言いたいことをぶちまけられる。
「……お断りします」
数泊の沈黙を置いて、俺はそう言った。騎士連中が小さくざわめく中、無能王はただ一人意味を介さず、ただ疑惑と怒りに満ちた瞳をぶつけてくる。
「……ほう、何故か?」
怒ってますアピールとともに、無能王が問いかけてきた。うーむ、此の期に及んで立場を理解できないというのもなかなかないのだが……まぁ、言いたいことは全部言わせてもらおう。
「……俺が神龍の騎士として戦うのは、あんた達の為なんかじゃない」
脳裏に浮かぶのは、この世界で目にしてきた、ありのままの顔を持った美しい自然達。
「誰かのためでもない。頼まれたからでもない」
閉じたまぶたの裏に映るのは、苦楽を共にした仲間や、旅先で出会った人々の笑顔。
「宿命だからでもない。この世界のためでもない」
耳に残るのは、いつだって優しかった仲間たちや、俺に希望を託してくれた六精霊たちの声。
俺がくじけずに進み続け、こうしてここに入られるのは、俺を支え、導いてくれた人たちのおかげだ。だからこそ、俺は守りたい。
「俺は……この世界が大好きな、俺のために戦うんです」
たとえ宿命でも、望まれていなくても関係ない。この戦いは、いわば俺のわがままだ。
救いたいと願った、この世界が好きだと言った俺が俺のために戦い、ついでに世界を救う。そんな神龍の騎士がいても、俺は良いと思ったのだ。
ふと仲間たちを見やると、皆いちように俺へ向けて、強く微笑んでいた。思えばあの時、神龍のほこらで仲間たちにも、これが俺のわがままだということは説明している。それを承知してくれたからこそ、カノンたちもここにいてくれたのだ。
「……あんたの指図を受ける気はさらさらない。神龍の騎士を手篭めにできるなんて、考えるなよ」
憤怒に顔を歪ませる無能王にそう吐き捨てて、俺は仲間たちと共に踵を返す。謁見の間から出る扉に向けて歩き始めたところで、無能王の声が響き渡った。
「……兵士よ、奴をひっ捕らえよ!腕の一本程度構わん……これは、我がアレグリアに対する重大な反逆である!!」
此の期に及んで立場を理解しないのか、無能王。これでは命令とはいえ、神龍の騎士に刃向かう騎士たちが不憫である。
「神龍の騎士よ、御免!」
いうが先か、騎士たちが一斉に俺たちめがけてなだれ込んできた。そのまま接近を許し、腕を掴まれる……その直前に、俺はアルカンシエルの力を解放。謁見の間に暴風を巻き起こし、群がる騎士たちを纏めて吹き飛ばした。むろん、怪我しない程度に出力は抑えてある。
「……まだ自分の立場を理解してないのか、無能王。世界を救うための力を、たかが王様風情が使役できると思うなよ」
振り返り、そう吐き捨てる。憤怒のあまり梅干しのように皺だらけになった無能王の横をすり抜けて、クレアがこちらに歩いてきた。その顔は、俺が見てきた人々と同じように、優しい笑みを浮かべている。
「行ってください、タクト様。あなたがあなたのために戦えるよう、微力ながら私も応援させていただきます」
「あぁ。ありがとう、クレア。……ルゥ!」
差し出されたその手に握手を返し、俺は今度こそ謁見の間を去るため、元愛馬である幻龍の名を呼ぶ。数秒すると、すぐに謁見の間の壁が吹き飛び、そこから大きな体躯を持った龍が顔を覗かせた。
「お待たせしました、タクト様」
それだけ言うと、ルゥはすぐさま背をこちらに向け、騎乗を促してくる。風の神殿の時と同じように、俺、ゴーシュ、カノンとサラの順に乗り移り、離陸に備える。
「タクト様!」
ふと、背後からクレアの声。振り向くと、何か決意をするかのように、彼女が小さく頷いた。
「……ご無事を祈りますっ!」
「ああ!」
激励に力強く返答して、俺は仲間たちとともにアレグリアの空へと駆け上がる。驚く人々や街並みをはるか高く飛び越えながら、俺はアレグリアを離れていった。
投稿してから気づいたけど今日は門前払いの1周年でした…覚えとけよ俺ッ!
改めまして、こうして1年以上も門前払いの執筆を続けられたのは、ひとえに皆様のおかげにございます。
より一層の感謝とともに、残り話数が一桁を切るこの稚拙な小説をどうかよろしくお願いします!




