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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter7 集う6つのエレメント
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第59話 真実

「行くよッ!!」

小さなつぶやきにも似た雄叫びと共に、レヴァンテは俺めがけて一直線に突っ込んできた。その速さは、今の俺から見てもあの時――ヴォルケス火山の頂上で相対した時とは、全く別物と断言できる。それほどに、彼女は速い!

だが、こちらとて長い旅で自分を磨いてきたのだ。今更超スピードだけで遅れはとらない!

瞬間、三つの剣戟が俺たちの間を交錯した。わずかに見えた剣の軌道に合わせ、そこへこちらの刃を振り下ろして弾いたのである。

が、さすがに三連撃ともなるときつかった。返す刀を弾ききれずに少し手元がグラついたが、おかげで最後の一撃をいなすことができたのは、幸運といって差し支えないだろう。

「まだまだ!」

が、レヴァンテは大剣の重量を感じさせないほどの素早い斬撃を繰り出して、こちらを翻弄する。太刀筋を読んで対処する――ことはできなくもないが、そんな面倒なことをして無様に隙をさらすよりは、回避に徹して相手が隙を見せたところをついていくほうが確実だ。

そんな俺の予測は正解だったらしい。何度目とも知れないレヴァンテの剣戟が、突然やんだのだ。見れば、ふぅとわずかながら息を切らせている。

チャンス――とは、思えなかった。レヴァンテもこちらの意図に気づき、わざと隙をさらしたのだろう。その証拠に、肩をわずかに上下させている割には、顔に汗の一つも流れていないのだ。

「ふっ!」

まぁ、チャンスをくれるに越したことはない。その隙を突いて、俺は合計5発の衝撃波を撃ちだし、その後ろから突撃する。当然衝撃波はすべて破壊されるが、俺の本命の一撃はまだ放たれていない――――という慢心が、結果として凶を招いてしまったらしい。

「まだまだ甘ちゃんだな!!」

瞬間、熱風とともに衝撃波が飛来した。あわてて剣をクロスさせて防ぐが、その隙にレヴァンテは天高くへと飛び上がっている。あれは――ヴォルケス火山で見せた大上段切りだ!

「でえぇぇぇぇい!!」

「負けるかぁぁッ!!」

双方、裂ぱくの気合を放ちながらの激突。威力そのものは以前と変わらず、全身に伝わる衝撃も途方もないものだ。

――だけど、前よりは楽に受けられる。

不思議と以前よりも軽く感じたその攻撃を、クロスさせて受け止めていた剣を交差させるように振ってはじく。そのままバックステップで距離をとるレヴァンテの顔は、どことなくうれしそうなものだった。

「……はっ、さすがに前より強くなってるね。伊達に旅してたわけじゃないってことか」

「まぁ、な。……正直、あんたにだけは勝てる気がしないって常々思ってたんだけど」

「そりゃ皮肉かい?……どっちにしろ、とりあえず魔王と渡り合えるくらいには強くなってるとは思うよ」

超えるべき目標と感じていたレヴァンテ本人からの賞賛を受けて、俺は少し照れくさくなる。だが直後、周囲をとんでもない熱気が襲った。

「けどま、それじゃあいつは倒せない。倒したいんなら、このアタシ――アベル四天王が大将、『剛剣のレヴァンテ』改め『煉獄のレヴァンテ』から一本とってからだぜ」

どうやら、熱気を放っているのは彼女が携えている剣らしい。レヴァンテの頭髪と同じ紅蓮色の炎を纏い、空間さえも焼き焦がすそのさまは、まさしく煉獄だ。

肌さえも焦がさんとするかのようなすさまじい熱気に当てられ、ぐらりと視界が揺らぐ。耐え難いほどの高温は、どうやら判断力を鈍らせるのと、相手への威圧効果両方を持っているらしい。現に、俺は今熱気のせいで肩ひざをつき、額から絶え間なく汗を流している。

あえて表現するならば、全身に隙間なくカイロを張られているような、そんな感じだろうか?根こそぎ水分を奪われるおかげで、思考がどうにもまとまらない。

だが、これだけはわかる。俺は、彼女を倒さねば、前に進むことはできない――!

「……っぐ、ぁああ!」

うめきつつも、俺は剣を振り上げてレヴァンテめがけて突進する。策を労せるほど余裕がないので、とにもかくにも今は正面突破しかないのだ。いまさら下がったところでどうにもならない。ならば、あたって砕けろ!!

「へぇ、進んでくるか!」

空気を切り裂き、大剣が飛来する音。右から横殴りに飛来した剣を、身をかがめて回避する。続けて降ってきた大剣は、逆手に持ち替えた剣で受け流してかわす。が、地面すれすれで跳ね上がってきた大剣をよけることはままならず、そのまま俺の体は宙へとたたき上げられた。

「ぁ、ごほッ」

まともに悲鳴を上げられない。熱気で体力も気力も奪われて、すでにふらふらの状態だった俺に、次の一撃をかわせる自信はない。

「……ほら、早く串刺しになりな」

というレヴァンテの挑発を受けつつも、俺は全身を弛緩させたまま、重力のなすがままに大剣の切っ先へとその身を落としていった。






「――――――なんてな!」

しかし串刺しになる前に、俺は空中でぐるりとうつぶせになり、その動きに合わせてレヴァンテめがけ、衝撃波を叩き込んだ。とっさの攻撃に仰天したのか、レヴァンテは一瞬だけ目を見開くとすぐに大剣を戻して跳躍、衝撃波を回避して少し遠くへと着地する。

「っと、とぉ……っとと!?」

着地した瞬間ぐらりと身体が傾いたが、なんとか気合で踏みとどまった。対するレヴァンテは、瞳をさらに好戦的な色に輝かせている。

「……ふふ、あはははッ!『レーヴァテイン』が放つ熱気の中で不意打ちをかましてくるなんて奴、久しぶりに見たよ!さすが、あのカルマの子孫ってことか」

何気なく放ったレヴァンテの一言に、俺は少し驚いた。

「……俺の祖先を知ってるのか?」

「ああ、知ってるよ。アタシはもともと、その代の人間だったからね」

そういえば、ヴォルケス火山で対峙したときも「さすがカルマの子孫だ」みたいなことを言っていたな。だけど、どうしてそれを知ってるんだろうか?

俺の胸中を察したのか、レヴァンテがふと熱気を収めた。息苦しさから解放されてふらりと崩れかけるが、まだ決闘は終わってないことを思い出して踏み止まる。

「カルマはね、アタシの仲間で、ライバルだったのさ。盗賊団の首領をしていたアタシを有無を言わせず殴り飛ばして、無理やり仲間に加えたっけなぁ」

なんと豪快な人だろうか。躊躇いなく女性を殴り飛ばすなんて早々できないぞ……いや、そんな非常識だから勇者できたんだろうけど。

「で、そのカルマから巡り巡って、カインやアベルとも出会ったんだよ。タクト、あんたも勇者のお話くらいは知ってるだろ?」

「ああ、アルネイトの大図書館で読んだよ。……けど、そこからどうして俺のことを知ってることになるんだ?」

彼女と祖先カルマの馴れ初めはわかったが、今話の主題になっているのはどうして俺がカルマの子孫だと知っているのか、ということだ。カルマは異世界に渡って子を残し、その過程で俺という人間が生まれたのに、何故レヴァンテは俺のことを知っていたのだろう?

「なに、簡単だよ。アンタが持ってる大精霊たちの力が宿った大剣さ」

大精霊の大剣、といえば、イーリスブレイドだ。とっさに取り出して、「これが?」と聞く。

「そうさ。アタシの知る限り、今まででそれを使いこなせた人間は二人だけ。――つまり、アンタとカルマなのさ」

なるほど、だから彼女は、俺がカルマの子孫じゃないのかと直感したわけだ。カルマ以外に使えなかったはずの剣を使える俺は、彼の子孫なのではないかと。

「……アイツは強かったよ。たぶん今ここにいるんなら、アベルくらい一発殴って正気に戻してやれるんだろうけどなー」

というレヴァンテの言葉に思わず「正気?」と聞き返してしまった。言った本人も、しまったと額に手を当てている。

「あー……あぁ、まぁもういいか。あいつとお前が渡り合えるだけの実力は証明されたし、もう話しちまうか」

一人得心したような表情で、レヴァンテは抱えていた大剣を背に吊りなおす。幸か不幸か、決闘はお流れになったらしい。

それを察したらしい仲間たちとフウが近くに歩み寄ってくるのと同時に、レヴァンテの口が開いた。

「……あんまり長々説明するのは好きじゃないから、さくっと説明するぞ。――あんたが倒した奴ら含める『アベル四天王』。そいつらの上にいるのが魔王アベルだ……ってことは、もう知ってるよな?」

「あぁ、知ってる。……でも、どうしてアベルは魔王なんかに?」

アベルといえば、カインやカルマと並ぶこの世界カイ・ドレクスの英雄だ。それほどの人物ともあろうものが、どうして魔王なんかに――という疑問をぶつけると、レヴァンテは肩をすくめて続きを話してくれた。

「簡単に言うと、友達のためだ。……友達のため『だった』って言ったほうが、今のところは正しいかな?」

そこで一呼吸おいたレヴァンテは、続く言葉を一息に言い切る。

「――アベルは今、魔神にのっとられてるんだ」

その言葉は、正しく俺たちに衝撃を与えた。魔神――とはなんだ?のっとられたとは、どういう意味だ?と、いろいろな疑問が頭の中を駆け巡る。そんな俺の混乱っぷりを見かねたのか、肩をすくめながらレヴァンテは答えてくれた。

「ま、一口にのっとられてるなんて言ってもわからんか。……あー、どこから話したもんかな」

わしわしと赤い髪を掻くレヴァンテだったがすぐにまとまったらしく、一つ頷くと咳払いをはさんで口を開いた。

「今の狂った魔王になる前のアベルはな、そりゃ仲間おもいな奴だったんだ。カルマやカインのことはもちろん、あたし達みたいにアベルを慕ってた奴らも、わけ隔てなく受け入れる。そういう奴だった」

「それが、魔神にのっとられておかしくなっちまった、ってことか?」

「そういうことさ。……まぁ、あいつのことだ。本当なら気づいた時点で自害してたんだろうけどね。できない理由があったんだよ」

できない理由、か。先ほどの言葉と組み合わせてみると、少しは予想がいく。

「魔神に仲間を人質にされた……とか?」

「残念、大外れさ。…………あいつが魔王目指してたのはな、他ならぬカインのためだったんだよ」

「カインの、ため?」という俺とゴーシュの呟きが、同時に森へと溶けていった。わからない、どうして魔王を目指すのはカインのためになるんだ?

「複雑な事情、って奴さ」

そう言って肩をすくめるレヴァンテ。その口からは、これまでの経緯が簡潔に語られた。



そもそもの始まりは、魔王を討伐してからしばらくした後。カインがおかしくなり、家も家族も放り出してどこかへ行ってしまったのが、すべての始まりだったらしい。

仲間になっていたアベル、カルマ。アベルを個人的に――盲目的に、と言ってもいいのかもしれない――慕っていたノルン、ロキ、オーディン。そしてカルマの悪友でも会ったレヴァンテたちは、消えてしまったカインを心配して各方面へと探しに出かけた。

そして再集結し、各々の捜索結果を話し合っていた途中、突如としてカインが現れる。しかも、とてつもない負のオーラをまとってだ。

異変があったことを察知した仲間たちはカインに立ち向かったが、勇者の圧倒的な力と謎のオーラによって手も足も出ず敗北。絶対服従を誓わされたアベルとカルマに従い、ほかの四人も投降したのだという。


しばらくはしぶしぶ命令に従いつつ、アベルとカルマは虎視眈々と反撃の機会を――あるいは反旗を翻すチャンスを待っていた。そんなさなか、アベルまでもがおかしくなり始めたのをきっかけに、カルマはただ一人チャンスを残すために動き出したのだという。

カルマはその場で消え――つまり現実むこうの世界へと渡ったのだろう――、残ったのはアベルを慕っていた3人と、カルマから事前に説明を受けていたレヴァンテ。そして、反旗を翻そうとしていたのを察知した魔神によって乗っ取られた、アベルだけだったらしい。


レヴァンテの見立てによれば、アベルの中には魂の状態になったカイン、そして魔神が取り付いているらしい。それに気づかないまま、アベルを妄信していたらしい三人は魔神の命令に従い行動を開始してしまう。

ただ一人だけ真実を知っていたレヴァンテは、長い時間アベルに従った振りをしつつ、こうしてカルマの残したチャンスを――つまり、俺のことを待っていたのだそうだ。



「……そうか。じいさんはもう、いないんだな」

説明が終わり、最初に口を開いたのは、カインを祖父に持つゴーシュだった。沈痛な表情で空を見上げ、小さくつぶやく。ただ、痛々しい表情の割りに、声色はずいぶんとすっきりしていた。

「……レヴァンテ、その話は信じていいんだよな?」

そして逆に、いまいち信用できない俺はレヴァンテに問い詰める。迫られた本人は、済ました顔で頷いただけだった。

「まぁ、無理に信用しろとは言わない。けど、こうして大精霊たちが動いているほどだ。よっぽど大きな事態になってるってのは、わかると思うぜ」

確かにレヴァンテの言うとおり、すでにことの終息に向かって大精霊たちが動いているのだ。これでこの話を信じなければ、俺はとんだピエロとして笑われるだろう。

もっとも、探し求めていた魔神の情報がようやく手に入ったのだ。ある程度は信用しようという心がまえだった――のだが、さすがに伝説の勇者たちがかかわってるなんて言われると半信半疑にならずにはいられなかったのだ。

「……あぁ、わかってる。どの道これ以上ない有力な手がかりなんだ、信用させてもらうよ」

「ああ。そうしてくれると、アタシの退屈な半世紀も報われるってものさ」

殊勝な笑みを浮かべるレヴァンテは、担いでいた大剣を背に吊りなおすと、くるりときびすを返した。

「それじゃ、アタシはちょっと時間稼ぎにでもいってくるよ」

そう言って歩き出し、俺が静止をかける暇もなく森の中へと消えていく直前、背中越しに彼女から言葉がつむがれた。

「――互いに生きていたら、また会おうぜ」

あの時言われた内容と、寸分たがわないねぎらいの言葉。それを投げかけられて硬直してるその隙に、レヴァンテは森の中へと消えてしまっていた。



「……タクト・カドミヤ。彼女の意思を無駄にしないためにも、すぐに儀式を行いましょう。あなたに、魔王と魔神に対抗するための、力を」

沈黙を破ったのは、フウだった。風になびく衣装を翻して、彼女は神殿の奥へと進んでいく。あわててついていった俺たちを待ち構えていたのは、訪れるのは通算六度目となる、神殿最奥部の儀式の間だった。

そして大精霊が鎮座しているはずの場所に向けて、フウがヒールを鳴らしながら歩み寄る。何をする気だろうか――と考える暇もなく、突如神殿を包んだ光に視界を塗りつぶされた俺は、とっさに目を腕で覆い隠す。

やがて視界の隙間から見えていた光が収まったのを確認し、腕を下ろした俺を見つめていたのは――

「こうしてこの姿で会うのも、久しぶりですね。……覚えていますか、タクト?」

忘れるはずもない。この旅の発端をつくり、俺にイーリスブレイドと風の宝珠、ひいては旅の目的を与えてくれた存在――――幻の中で会っただけだった風の大精霊、ことウィンが、変わらぬ澄んだ瞳で俺のことを見つめていた。

改めてみると、その体躯のしなやかさに少し見ほれる。さすがは大精霊だなー、なんて的外れなことを考えつつも、俺はウィンの言葉に返答していた。

「あぁ……久しぶりだな、ウィン。はっきり覚えてるよ、あの幻の中でのことは」

「そうですか。……あんなにも小さい存在だったあなたがこうも成長するとは、私も少しばかり感慨深くなります」

二人で、当時のことを振り返る。あのころの俺は、下手をすればその辺の中堅冒険者にも負けかねないほどの実力しかない、よわっちいいち冒険者だった。それが今では、この世界を救わんと立ち上がった神龍の騎士となっている。つくづく、人生というものはどう転ぶか予想がつかないなと思い知らされる。

「……さて、感傷に浸るのはこのくらいにしておきましょう。――――神龍の騎士たるタクト・カドミヤに、わが力の一端を授けん。禊を受けしものよ、前に」

ウィンの言葉に従い、俺は一歩前に進み出て跪く。すぐに俺を暖かい光が包み込み、風の大精霊の力がこの身に宿されていくのがわかった。

やがて光が途切れると同時に、俺は目を開けて立ち上がる。そうして俺の脳裏によみがえったのは、これまでの旅路だった。

思えば、こうしてここにいてこの世界のために戦えているのは、ひとえにあのクソ王家のせいだと思うとすさまじい皮肉だ。いっそあの王家だけ――良心だったクレアは除いて――滅んでしまえばいいのに、なんて神の使いにはあるまじきことを考えていた。

……っと、そういえばそんなこと考えている場合じゃない。もう一つ、頼みたいことがあったんだ。

「ウィン、ついでで悪いんだけど、イーリスブレイドを修復できるか?ガーディスでの戦いで、壊れちまったみたいなんだ」

問いかけると同時に、イーリスブレイドを顕現する。破損の影響かあちこちひび割れている刃なき大剣は、まるでここまでの戦いの激しさを言葉なく物語っているかのようだった。

俺の手に収まるイーリスブレイドを一瞥したウィンは、ふむと一つうなると俺に言う。

「……そうですね。修理も良いですが、いっそのこと改良しましょうか」

そう言うとウィンはイーリスブレイドを鼻先まで持ち上げて、すぐに魔力の燐光へと変換していった。一方の意味がわからない俺は、ウィンに問いかける。

「改良……って、どういうことだ?イーリスブレイドは、それで完成形じゃないのか?」

「そうですね。そもそもイーリスブレイドは、力を蓄え、時期がくれば、使い手にあわせてその姿を変えるのです。このイーリスブレイドも例外ではないのですが……いかんせん、予想外が多すぎたということでしょうか」

丁寧なウィンの説明で納得したが、しかし俺はいつか言われた言葉が引っかかっていた。

「でも、ウィンは前に言ったよな。イーリスブレイドは、大剣の形じゃないと力を引き出せない、って」

「ええ、確かに言いました。ですがそれはあくまでも、あのときのあなたの力量と力の膨大さを鑑みた形になるのです。先ほど説明したとおり、イーリスブレイドは所有者の特性に合わせて姿を変貌させます。それが力を蓄えた時期――というのは、とどのつまりあなたが、イーリスブレイドの力を完全に使いこなせるようになったということの証左なのです」

説明を終えると同時に、いつかのようにウィンの鼻先で燐光が爆発した。そしてその中から現れたのは――虹色の輝きに包まれた、刀身そのものが水晶で構成されている、ふた振りの剣だった。

「さあ、受け取ってください。これがあなたのために進化した、イーリスブレイドの新の姿――神装『アルカンシエル』です」

音もなく宙を滑ってきた二本の剣は、するりと俺の両手に納まった。その重さも、長さも、握り心地も、すべてが俺の感性にぴったりとかみ合っている。まるで、剣と手が一体になっているかのような、不思議な錯覚を覚えた。

「アルカンシエル……すごいな、これは。俺の手によく馴染む」

「パーツ一つ一つを、あなたのクセに合うように変化させています。これからは、よりその力を発揮することができるでしょう」

新しくなったイーリスブレイド、ことアルカンシエルを握り、まじまじと見つめる俺に、ウィンはそう教えてくれる。確かに、以前のイーリスブレイドとは全体的に形状も違うし――そもそも武器のカテゴリからして違うので、当たり前といえば当たり前だが――、重量もちょうどいい。これなら、全力で振り回しても空回りしたり振り回されることはないはずだ。

軽く振り心地を確かめる俺に、今度は真剣な面持ちと声色でウィンが話を切り出してくる。

「……さて、魔王と魔神はすでに準備を終えていると考えられます。いつ動き出しても対抗できるように、最後の仕上げを行いましょう」

「最後の、仕上げ」と、おうむ返しに俺がつぶやく。一つ頷いたウィンは、意を決したかのように口を開いた。

「――我ら6精霊の主にして、この世界を統治する神たる存在。神龍プラティユーシャへと会いに行ってください」

この世界を統治、か。ずいぶんとまあ、とんでもない存在に出会うことになるんだな。もっとも、後ろの三人があまり驚きの表情を見せていないあたり、この世界で神とは割と身近な存在なのかもしれない。

「プラティ、ユーシャ……どこにいるんだ?」

それよりも、そもそも俺はそのプラティユーシャの居場所を知らない。そのために何気なしに聞いたのだが――

「アレグリア王国にほど近いアーテミス山脈。その山頂に建てられた神龍のほこらに、かのお方は座しています」

帰ってきた答えは、予想の範疇を超えていた。「――アレグリア、か」と、憎々しく吐き捨てるような言い方を変えずに呟いた俺に、ウィンも感じるところがあったのだろう。さりげないフォローを入れてくれた。

「ええ。あなたの因縁の地でもある、あの国です。……可能なら案内をしたいのですが、私もまたガーディスの復興を支援せねばなりません」

「いいよ、そこまで気にしてくれなくても。……大丈夫、俺たちはここまでやってこれたんだ。この先も、きっと大丈夫なはずさ」

申し訳なさそうに謝るウィンに、俺はかぶりを振る。確かに彼女たちのお陰で切り抜けられた場面もあるが、それでも俺たちだけで進んできたことのほうがはるかに多い。だから、きっと大丈夫なんだ。

俺の心の呟きを感じてくれたのか、ウィンはそれ以上何も言わず、「そうですね、そうあることを望むばかりです」とだけ返し、ふっと微笑んでくれた。

「……じゃ、俺たちは行くよ。ウィンも、見守っててくれ」

それだけ告げて、俺たちは神殿を後にするべくきびすを返した。目指すははるか遠く、俺のたびが始まった因縁の地である、王都アレグリアだ。

「――――待ってください、タクト。どうやら、足を動かす必要は無くなったみたいですよ」

とかいう風にかっこつけた矢先、ウィンから制止の声がかかった。どういうことかと問いかけるために振り向くと同時に、聞き返す前にウィンが答えてくれる。

「今、神龍様からお達しがありました。すでにこちらに、かのお方の眷属たる『幻龍げんりゅう』を手配してくださっているそうです」

幻龍……聞いたことがない名前だ。そもそも龍系をこの世界ではあまり見ないのもあるが、幻なんてつくんだからそりゃ珍しいんだろうな……なんてことを考えていると、不意にすぐ近く――神殿の入り口付近から、かすかな羽ばたきが聞こえてきた。

「いらっしゃったようです。私は少し力を蓄えねばならないので、お見送りはできません。どうか、がんばってください」

「ああ、任せとけ!」

力強く頷きを返し、俺は改めて神殿の外へと踏み出す。




「神龍の騎士、タクト・カドミヤ様ですね。われらが主たる神龍プラティユーシャの命により、あなた様をお迎えにあがりました」

そこに屹立していたのは、神殿と同規模の大きさをもってなおしなやかな体躯と、陽光を反射して銀色に輝くうろこを持った、大きな龍だった。こいつが、幻龍か。

「……ん、えっ。あれ、今普通に人語しゃべったよな?」

「はい。私たち神龍の眷属たちは、人に神託を授ける役目も持っております。それゆえ、こうして人々の言葉を介することが可能なのです」

はぁぁ、こりゃ驚いたわ。確かにフィクションでは龍って人語を介するけど、大体念話で済ませてたのが多かったからなぁ。まさか口を器用に動かして普通にしゃべるとは思わなかった。

カノンたちにその辺の事を聞こうかと悩んだが、あいにく三人とも始めて見る幻龍に圧倒されてフリーズしていた。まぁ、普段神託の役目にしか出てこない幻龍が目の前で普通にくっちゃべってちゃ、カルチャーショックを感じるのも無理はないか。

「さぁ、タクト様。事はすでに急がねばならない段階へと発展しつつあります。主の下へお連れします故、私の背に乗ってくださいませ」

そう言うと、幻龍は首をかがめて丸まった。そこから乗れってか。

一番最初に俺、その次にゴーシュ、残った二人を上の二人で引っ張りあげて、幻龍の背中へと登る。以外にもふわふわしている鱗にちょっと感動していると、幻龍が羽ばたきを始めた。

「あ、幻龍!そこにいるルゥ……竜みたいな馬も連れて行ってくれ!俺たちの仲間なんだ」

「かしこまりました。足で掴ませていただきましょう」

ふわりと浮き上がった幻龍の足が動き、ルゥの小さな体躯をそっと拾い上げる。この際だ、ちょっと怖いだろうけど我慢してもらおう。


「では、参ります」

幻龍の言葉と同時に、俺たちは風を切って空を飛ぶ。目指すははるか先に見える大山脈、アーテミス山脈が頂上の――神龍のほこらだ。

第7章、これにて終了です。

グダグダを挟みつつ続けてきて、気がつけばそろそろ一年。そしてこの物語も、ようやく終わりが見えてきました。

ここまで追いかけてきてくださったことを感謝するとともに、もう少しばかりのお付き合いをしていただければ幸いにございます。

ラストスパート、気合い入れて参ります!

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