第57話 超巨大魔装
半月も音沙汰なくて申し訳ありませんでしたあぁぁぁ!!
もうちょっと気張るべきでした…。
「で、でけぇ……」
誰がその言葉を発したのかは、わからない。だが、これだけは確実に言える。
――こいつは、ただデカいだけじゃない、と。
その証拠と言うほどではないが、某機動戦士みたいな頭部にあった一つ目巨人のようなモノアイが、不気味な音を立てて光を灯した。その頭部が覗く大穴に歩きながら、オーディンが低く嗤う。
「ククッ、この技巧のオーディンを舐めるなよ。……オレが本気を出したなら、この国一つ滅ぼすくらい造作もない」
音高く巨人に向けて歩きながら、オーディンは芝居がかった大仰な動作で勝ちほこる。その様は、まさしく勝利を確信した人間のそれだった。
「オーディン、貴様ァッ!!」
それをよしとしないレヴァンテが、大剣から炎を吹き上げて飛びかかる。俺たちもまたオーディンを逃すまいと切り込むが――
「おっと、邪魔はさせないぜ」
どこからか取り出された無数の球体が、無造作に床に転がった。同時に光を伴って爆ぜ、対策をしていなかった俺たちの目を焼く。俗にいう、閃光手榴弾の類だろうか。
俺たちが目くらましにひるんでいるその間に、オーディンは巨人に乗り移ったらしい。目に風景が映ったときにはもう、オーディンの姿はどこにもなかった。
「ヤロウ、何する気だ?」とゴーシュが毒づく。その言葉を聞き取ったらしく、オーディンの声が周囲に響き渡った。
「クハハハハ、決まっているだろうに!――我らが盟主たるアベル様の邪魔をする者は、皆殺しにするまでよ!」
同時に、バチバチと何かがスパークする音。マズイと感じた俺がイーリスブレイドを振るい、土製の大壁を生み出したと同時に――雷が爆ぜた。落雷のごとく轟いた大音響に、俺――ひいては周囲の人間たちの聴覚を一時的に遮断された。顔をしかめつつもなんとか防ぎきり、土壁を消滅させる。
そして目に入ったのは、天井もろとも貫かれた大穴と、その先に覗く全長20mはあろうかという、機械の巨人だった。胸部の面が多いでっぱりの上には、なんらかのハッチ――おそらくコクピットのものだろう――を開き、その真上に立つオーディンが見える。
「どうだ、わが究極の魔装『インドラ』の電磁砲は!これさえあれば、どんなに強大な国だろうと一夜で滅せるのだよ!……まぁ、インドラの目玉はまだまだある」
言うが先か、インドラと銘打たれたロボット型の魔装の腕が持ち上げられ、ゆっくりと大穴めがけて突き出された。やがて崩壊していない足場までたどり着くと、直後にインドラの手首から何かがせり上がってくる。それを見て、知っている者は、皆一様に驚愕した。
「――チッ、『カダーヴェル』のファクトリーか!このアホーディンめ、魔神に魂を売りやがったな!?」
代表して声を荒げたのは、レヴァンテだった。だが、こうしてそれを――レヴァンテ曰く「カダーヴェルのファクトリー」である、毒々しい紫色に染まったクリスタルを見た俺たちは、続くレヴァンテの言っていることにはイマイチついていけなかった。事情があるのだろうと納得しておき、ともかくは耳を傾ける。
「魔神に……?違うな。これは我が君アベルの意思!かつて世界を守るために汚名を被ったアベル様の、最後の選択なのだ!!」
「フザけたことぬかすんじゃないよ、このアホーディン!!それがアベルの意思?寝言は寝てから言いな!」
「寝言を言っているのは貴様だろう、レヴァンテ!何がお前をそこまで変えた?アベル様に忠誠を誓い、身命を賭してアベル様をお助けすると言った、あのお前はどこに行ったのだ!」
「確かに言ったよ!……だけどね、アタシが忠誠を誓うのはあいつじゃないんだよ!!」
その後もレヴァンテとオーディンの応酬は続いたが、やがてしびれを切らしたかのようにオーディンの怒声が響き渡る。
「もういい!……アベル様の意思はつまりオレの意思。かのお方にたてつくと言うならば――叩き潰す!!」
その言葉を皮切りに、展開されていたファクトリーが強く輝き始めた。そしてその光の只中から、骸を模した兵士――カダーヴェルが続々と進み出てくる。狙いは、もちろん俺たち。
「離れすぎないように散らばれ!何かあった時、すぐに近くの奴と協力できるようにしろ!」
ゴーシュの言葉に皆が頷き、一斉に戦闘が開始された。
レヴァンテの剣から炎が吹き上がり、カノンの放った魔法とともに爆散。周囲を火の海に変えたその上から、生き残ったカダーヴェルめがけてザクロの剣が一閃。新たに吐き出されてきたカダーヴェルの攻撃をステップでかわし、死角を作り出したところでサラの魔力矢が無数のレーザーと化し、3桁を超えるであろう数の骸たちを貫いた。
そこへ追い討ちをかける形でゴーシュのハルバードが投擲され、風の魔力素子が敵陣を蹂躙。そこを見逃さずに、ザクロと俺で衝撃波の嵐を形成し、近づくカダーヴェルを片っ端から薙ぎ倒す。湧き出るカダーヴェルめがけて放たれたサラの矢が、着弾と同時に爆発したかと思うと、その只中へ向けて丸腰のゴーシュが突っ込んだ。徒手空拳から放つ衝撃波攻撃によって敵陣に穴を開き、ゴーシュはハルバードを拾って離脱。代わりにこの穴に、燃え盛る火炎をまとったレヴァンテが降り立った。
「吼えろ、『レーヴァテイン』!!」
レーヴァテインという名を冠された烈火の剣が、光を増して小さな太陽となる。そこから無数の炎が吹き上がり、周囲のカダーヴェルを焼き払う様は、まさしく太陽が吹き上げたプロミネンスの如く。
「斬技――『空斬』!」
ザクロの振るったウィンドイーターが、溜め込まれた魔力素子を放出して周囲へと燐光を放つ。そこめがけて刀が振るわれると、燐光を通った衝撃波が無数に拡散。さながら絨毯爆撃の如く、展開していたカダーヴェルを吹き飛ばしていく。
「タクト!」
「ああ!」
ゴーシュに追随しながらイーリスブレイドをしまい、腰の剣を抜き放つ。ハルバードが振るわれるタイミングに合わせて、ゴーシュの肩に足をかけて高く跳躍。同時に両の剣を振り抜き、大きくクロスした衝撃波を放ちながら、カダーヴェルの只中めがけて突っ込んでいく。
炸裂した衝撃波によってできた穴に着地し、二本の剣をカダーヴェルめがけて投げつけ、何体かを巻き込んで撃破。直後にイーリスブレイドを取り出し、風の宝珠をセットして、横一文字に大きく振り抜いた。
その動作に連動して動いたのは、先ほど投げつけた二振りの剣。俺の意のままに動く風によって、二本の剣に意思が宿る。やがて剣たちはひとりでに動き出し――もちろん、風でコントロールしているからこそ動くのだが――、風切り音を立てながら謁見の間の中を暴れ回るその様は、さながらソードビットのようだ。最も、試したことがなかったのでこれが初めての使用、しかも慣れてないので、現状使えるのは2〜3本が限界なのだが。
ともかく、ソードビットを操ってカダーヴェルたちを斬り伏せていくが、相変わらずというかなんというか、奴らの無尽蔵っぷりは健在らしい。斬っても斬っても斬っても斬っても減らないばかりか、ジリジリと押されはじめている。さすがに疲れ知らずの敵を相手取るのはキツい――なんて考えていると、不意に後方から二つの影が飛び出した。
「タクト!」
「アタシらに任せな!」
ザクロとレヴァンテの剣士コンビが、それぞれの得物を構えてカダーヴェルに突撃する。赤と黒、対照的な髪色の男女が、これまた対照的な得物と共に交錯して突っ込んでいくその様は、少し面白い光景だと1人得心してしまったのは、また別の話。
「喰い尽くせ、『ブレイズカーニバル』!!」
先に仕掛けたのはレヴァンテだった。剣を地面と水平に構えて、自らの脚を使い独楽のように回転。剣先から赤黒い焔を迸らせ、周辺にいたカダーヴェルたちを喰らう。相手が相手なので、まるで地獄への案内人だ。
「秘奥斬技――『風撃百刃』ッ!!」
次いで動いたザクロのウィンドイーターが、風を薙いで音高く鳴いた――と同時に、目視できるだけでもゆうに3桁は超えるであろう、恐ろしい数の衝撃波が一斉に生み出された。レヴァンテのカバーしきれない場所めがけて放たれた衝撃波の洪水は、飲み込まれたカダーヴェルたちを瞬く間に無数の肉片へと変貌させる。
二人とも剣士のクセして殲滅力が恐ろしすぎるぞ、なんてことを考えつつ、俺は二人のおかげで開いた道をイーリスブレイドと共に突き進む。先んじてセットされたのは、先ほどから明滅を繰り返していた光の宝珠だ。
闇のの軍勢に立ち向かうには、やはり光の力が一番というのは、どこの世界でも常識なのか。そんな他愛ないことを考えつつ、俺はカダーヴェルの生産装置めがけて白刃を振り下ろし、水晶体を叩き壊した。
音高く爆散するファクトリーを見ていたらしいオーディンが、インドラの内部からこちらに向かって語りかけてくる。
「ほう、さすがは神龍の騎士と仲間たちと言っておこうか。――だが」
不敵に笑う声色と共に、今度は謁見の間の壁がまとめて粉砕された。その奥から、今度は実に5本の腕が伸びてくる。
「こいつはどうかな?」
その言葉と共に、伸びてきたアシュラの如き5本腕から、カダーヴェルのファクトリーがせり出てきた。それぞれから続々とカダーヴェルが生み出され、俺たちめがけて殺到してくる。
「クソっ、全部ぶっ壊さなきゃ話にならねぇ!」
毒づきつつ、引き続きソードビットを展開してカダーヴェルを薙ぎはらう。仲間たちも行動を開始する中、不意にオーディンの笑い声が部屋に響いた。
「クハハハ、そんな悠長なことをしていて良いのかな?……すでにオレの刺客は風鳴きの森に向かっている。いくら大精霊だろうと、幾千ものカダーヴェルたちを退けることは容易ではなかろうに」
それを聞いて、俺は内心毒づいた。奴の言葉を信じるならば、風鳴きの森にある風の神殿が――風の大精霊ウィンが襲撃を受けていることになる。真実ならば、カダーヴェルのファクトリーを一つ一つ破壊して回るのは得策ではない。
舌打ちしつつもソードビットを駆り、カダーヴェルを切り裂いている俺のそばに、ふいにゴーシュが寄ってきた。
「タクト、このままじゃ埒が開かん。お前があいつに直接乗り込んで、中のオーディンを叩き切ってこい!」
その提案に、だがと反論するその前に、カノンとサラが俺たちを守るように攻撃を展開、こちらに駆け寄ってくる。
「ここまで来たのに会えなくなるなんて、そんなのないよ!だから、タクト君!」
「魔王を倒すには、あなたが力をつけなくちゃいけない。そのためには、ここで躓くわけには行かないでしょう?」
二人の言葉を受けて、そうだと今更目的を思い出す。ここにきたのはこいつを倒すためではなく、大精霊ウィンに会って最後の力を手に入れることなのだ。
「――わかった、行ってくる!」と決意した直後、目の前に展開していたカダーヴェルたちが一斉に吹き飛んだ。原因はいうまでもなく、赤と黒の剣士コンビ。
「乗り付けるまでは援護しよう。ファクトリーは任せておけ!」
「邪魔する奴は叩き切ってやるよ。アホーディンを頼んだぜ!」
二人の後押しを受けて、俺は突っ込まれている六本腕のうち、ファクトリーを破壊されている一本めざして走り出した。イーリスブレイドで操っていた双剣をキャッチして、音高く振り抜いて構える。
「うおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
邪魔するカダーヴェルたちを切り捨て、腕の上に跳躍。若干不安定な足場ではあるが、登れない訳ではない――眼下に見える光景は別として。
だが走り始めた矢先、別の腕から飛び移ってきたカダーヴェルが攻撃を仕掛けてきた。さすがにすんなり通してもらえはしないか――と内心で苦笑し、両の手に握りしめた剣を、本能がままに振るいまくる。
「ぜあぁぁっ!!」
動く骸たちの頭を切り落とし、腕をちぎり、胴を薙ぎ、足を砕き、胸を突く。やたら飛び移ってくるなと思っていると、ふいに足場がガクンと揺れた。接近を察知して、アームが動かされているらしい。
ちっと舌打ちしつつ、間近に迫っていた別のアームに飛び移る。若干滑りつつも着地に成功し、再び走り出した。
「こしゃくな!」という言葉が聞こえたかと思うと、巨人の頭部が音を立てて開き、内部から何本もの筒が伸びてくる。魔弾砲の類かと察知した直後、ドラララララ!と音を立てて魔弾がばらまかれた。多くは外れてあらぬ方向に飛んでいくが、何発かは俺めがけて飛んでくる。やむなく剣で切り落とす――魔弾の弾速は割と遅いため、見切れさえすれば斬り払うことも可能である――その傍ら、魔弾の砲身にライフリングって必要なのかなぁと取り留めもないことを考えるその間に、ようやくアームの付け根にたどり着いた。
「……フン、登りきったか。だが、いくら神龍とその眷属が鍛えた剣だろうと、この厚き装甲を破ることなど不可能よ!」というオーディンの言葉に、「どうかな!」と反論する。
今までの戦いでも、イーリスブレイドは幾度となく力を発揮し、危機を乗り越えてきた。ならば――だからこそ、今回だってできるはずだ!
「だよな、イーリスブレイド。俺とお前に――」
一息を置いて、俺はオーディンに、インドラに、虚空に、そしてイーリスブレイドに向けて、吼えた。
「不可能は、ねぇッ!!!」
喉を割らんばかりの咆哮に呼応したのか、イーリスブレイドは展開していた刃を消し去り、代わりに本体を左右に大きく開いた。剣の鍔のように開ききったその中から、爆音を伴って光が噴き出した。赤、黄、青、緑、白、黒の6色が螺旋を描き、空高くへと伸びていく。
例えるならば、「イーリスブレイド・オーバーロード」とでも言うべきか。過負荷のその名が示す通り、イーリスブレイド本体、ひいては俺の周囲に、バチバチと青白いスパークが迸っている。仮に破壊できても、この先これまで通りにイーリスブレイドを使えるかは怪しい。
だが、こいつはそうまでしないと倒せない、強大な存在だ。だからこそ、この一撃に全てを賭ける!!
「うおおぉぉぉぉぉぉ…………ぶった切れろよおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
インドラの正面へと跳び上がり、大上段からの光の一閃。真っ向からインドラへ向けて振り下ろされた光の奔流は、天地と共にインドラを真っ二つに切り裂いた。
ズダン!と大音響を引き連れて着地した俺は、イーリスブレイドから走る大量のスパークにダウンしながらも、吹き飛ばされたオーディンを見やる。
「……っぐ、ククハハハハ……オレが死んでも、風鳴きの森に向かった奴らは、消えはしない……。せいぜい、絶望するがいいさ。ククク、フハハハハハハ!!」
それだけ言い残すと、オーディンはインドラの起こした爆発の連鎖に消えていった。
そうだ、あいつを倒しても、カダーヴェルのファクトリーが消えるわけではない。急がねば!
森のある方角に向け、単身で走り出そうとしたその前に、俺の目の前に山吹色の翔竜が降り立った。見間違えるわけがない、俺が数日間の間を共に過ごしていたエールだ。
何事かと空を見上げると、そこにいたのは防衛隊をあらかた蹴散らしたらしい真とその翔竜。
「タクト、風鳴きの森に行くんならそいつを使え!足で行くんじゃ、多分間に合わん!」
「ありがとう、真さん……エールを借ります!」声を張り上げて礼を述べ、俺はエールに飛び乗る。上昇の合図を送って穴の開いた謁見の間まで上がると、そこにいたのは仲間たちとユークリッド王子だった。
「ありがとう、タクト君!こちらからも兵を送りたいが、叶いそうもない。すまないが、君たちだけでなんとかしてほしい!なにか、できることはないか?」
王子にそう問われ少し考えた後、俺は要求――というかお願いを口にした。
「風の神殿に進む許可を。あと、翔竜をもう一体お借りしたいです!」
「承知した……シン!」
「あいよ!」
王子が合図をすると、どこからともなくゴーシュたちの乗っていた翔竜が飛んできた。襲撃の時同様の組み合わせで乗り込み、出撃の合図を送る。
「タクト、こっちが片付いたらアタシも後でいく!重要なことを話すんだ、くたばるんじゃないぞ!」
というレヴァンテの言葉を背に受けながら、俺たちは天へと羽ばたいた。
あまり急いで書くと質が落ちるのと、最終話が近くなって文章量も多くなること、加えて残業祭りが始まったため、ここからは少しペースを落として執筆していこうと思います。
ここまで来た以上絶対に完結させる所存ですゆえ、応援していただければ幸いにございますー。
そこ、エタるフラグとか言わない。




