第54話 竜騎兵隊、飛翔
「よし。改めて作戦を説明するぞ」
二日後の真夜中。暗闇に包まれた森の中からガーディス帝国の城壁を見つめながら、指揮官であるユークリッドは口を開いた。
「今回の目的は王城へと入り込み、我が父フォルモンド、ひいては彼奴の乱心した理由を突き止め、それを駆逐することだ。私と工作班は城下を進み、王族用の脱出経路から王城へと侵入する。竜騎兵隊は陽動の後、出現するであろう本国の竜騎兵隊と戦闘を行ってもらい、可能ならばそのまま王城へと突入。こちらの直援に回ってほしい。……何か質問はあるか?」
ユークリッドの言葉に、手を上げる者はいなかった。ここにいる全員が彼の目的を理解し、賛同している。故に、疑問を持つ者はいないのだ。
金の鱗の翔竜エールにまたがる俺も、また彼の目的を理解し、彼を助けるために――厳密に言えば、帝国に管理されている風の神殿に入るためにだが――ここにいる。ならば、全力を尽くすまでだ。
「ではこれより、帝国奪還作戦を開始する!竜騎兵隊、出撃せよ!」
「竜騎兵、全員まとめてテイクオフ!王子様のご期待を裏切んなよ!!」
ユークリッドの号令に続き、シンの力強い声が辺りにこだまする。それにあわせて、俺とエールも羽ばたき、飛翔した。
「わわっ」
「っと……大丈夫か、カノン?」
今回、訓練のときとは違い、エールの背中には同乗者が存在した。魔法のエキスパートであり、俺たち旅のメンバーの火力の要でもある、カノン・プリムである。竜に乗って襲撃を行う際、遠距離攻撃用員がいないと苦戦するだろうというシンからの提案で、同乗させることになったのだ。
遠距離ならサラでもいいのでは、と聞いてみたが、彼によると魔法への対策を立てている竜騎兵は少なく、不意打ちとしても火力としても適任だという。
カノンに遠距離攻撃を任せる俺の仕事は、エールの操縦と近づいてきた敵を槍で追い払うこと。でしゃばり過ぎないように自分へと言い聞かせながら、俺とカノン、ゴーシュとサラ、レヴァンテ、ザクロ、シン、その他の兵士たちで構成された、総勢12体の竜騎兵たちはガーディス帝国へと飛んだ。
***
「そら、おでましだぜ!たっぷり痛めつけてやんな!」
目の前から、ガーディス帝国の旗を掲げた竜騎兵が飛来する。それを見たカノンが、一足先に魔法の詠唱を開始した。
「ファセロ・バトク=テトワルクー、『広き炎の砲撃』!」
掲げた短杖の先で、紅蓮の魔力素子が収束。ぐっと凝縮されたのち、散弾の如く前方の敵めがけて発射された。
シンの予見どおり、竜騎兵は魔法に対して策を弄していなかったらしい。大半は避けられたが、幾人かは魔法が直撃し、墜落していった。
相手の陣形が乱れたことにより、残る味方の竜騎兵たちも一斉に攻撃を開始した。ゴーシュと同乗するサラがテントから借り受けたクロスボウを射り、ザクロが衝撃波を持って迫る竜騎兵を切り倒す。レヴァンテの炎が竜の息吹のごとくうねって敵を焼き、兵士たちの的確な一撃で敵の数は着実に減っていった。
「はあぁぁっ!」
俺もまた、近接攻撃で一人を叩き落とす。同時にカノンが炎魔法を放ち――ガーディスの翔竜は風属性を纏っているため、相性的には炎魔法がよく効くらしい――、兵士の数はどんどん減っていった。こういう時、カノンの全属性持ちは本当に万能だとしみじみ感じる。
「シッ!」
「おらよ!」
「食らいやがれ!」
ザクロの衝撃波が、シンの槍が、レヴァンテの火炎が、サラの矢が、それぞれの獲物を狩り、敵の数をさらに減らしていく。その最中、シンが単独でこちらに向かってきた。
「タクト、王子が侵入に成功した。兵士たちがついているが、もしももあるからな……ゴーシュさんたちと一緒に、援護に行ってやってくれ」
「わかりました。……こっちのほうは大丈夫なんですか?」
俺の疑問に、シンは軽い笑いを返す。
「そのうちアイザックたちが来る手はずになってる。それに、こっちの竜騎兵は精鋭揃いだからな。負けることはねぇさ」
にかっと笑ったシンに、俺もまた笑いかける。互いに会釈をしたのち、俺はゴーシュたちを連れ添い、王城の離陸場目掛けて飛んだ。
さすがに竜騎兵の襲撃は予見されていたらしく、離陸場にはたくさんの兵士が詰めかけていた。そのどれもが、俺たちを討ち取らんと目を鋭く輝かせている。
「どうするの、タクト君?」
静かに構える俺に、背に匿っているカノンが問いかけてきた。その声色に、焦りや驚きは見られない。
「まぁ、見てな」と、俺も少し格好つけて言う。ここまで敵が密集していることはそうそうないので、たまには面白いだろう。そう考えて、俺は右手に握っていたイーリスブレイドから光の刃を生み出した。
「――えやあぁぁぁッ!!」
少しの構えから、神足の突き。俺の意図を察したらしいイーリスブレイドが、先程生成した刃を幾重もの糸に分解し、竜巻のごとき螺旋を描き出した。その先端は、当然目の前に群がる兵士たちに向けられているわけで――
「「「うわあぁぁぁーーー!?!?」」」
某無双ゲームのモブの如く吹っ飛ばされた兵士たちを尻目に、遅れて合流したゴーシュとサラを連れて、俺たちは一路謁見の間へと進み始めた。
「王子!」
「む……タクト君か!」
数分ほど謁見の間を探しつつ、兵士たちをイーリスブレイドでなぎ倒していると、先んじて王城に侵入していたユークリッド王子と合流することができた。こちらの経緯を話して同行すると、特に苦もなく謁見の間へと到着した。どうやら先ほど通り過ぎてしまっていたらしい。
さっそく突入しようと思ったのだが、扉は硬く閉ざされていたので、イーリスブレイドを使って吹き飛ばしてやった。対魔法障壁はあったが、イーリスブレイドの力の前にはさすがに無力である。
そうして侵入した謁見の間、その玉座には――
「……ふふふ。待っていたぞ、神龍の騎士よ」
王のような風防を持った人間が、しずかに腰を降ろしていた。




