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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter6 光と闇の双神殿
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第43話 極東の島国へ

後期OP:田村直美「Raedy Go!」

http://youtu.be/u_J8tGx89C8

アリアと別れてから一晩を明かした俺たちは、現在タクシアの酒場にて食事をとっていた。食事だけならその辺の料理屋でとってもよかったのだが、今俺たちがいる酒場は冒険者ギルドも兼ねているため、情報収集もついでに行うことができるので便利だという、俺の判断である。

情報収集を行う理由は、次の目的地を決定するためだ。前回、水の神殿まで赴く際、情報を集めておらずに立ち往生しかけたことを反省しての行動でもある。

「……んで、タクト。どこに何があるかはわかったのか?」

食事の注文をして待っている途中、不意にゴーシュが問いかけて来た。彼が食べている肉入りサラダのようなものにちらと視線を落としながら、俺は質問に答える。

「まぁな。親切な人が、残りの神殿の位置を全部教えてくれたよ」

イケメンスマイルで答えてくれた冒険者の顔を思い出しながら、俺はふところから携帯地図を取り出して、三人にも見える位置に置き、説明を始めた。

「まず嬉しいのは、残る二つである光の神殿と闇の神殿が、かなり近い位置にあることだ」

そういいながら、俺は人差し指と中指で、タクシアから北東に存在している大小様々な島々の二点を突いた。島々の上には、大きめの字体で「オリエンス」と描かれている。

「このオリエンスにあるのが、目指す残り二つの神殿だ。二つとも、街の中にあるって情報だ」

次いで、出していた中指を引っ込めて、今度は人差し指のみで一点を指差す。島々の中でも西のほうにあった比較的大きな島には、小さく「キョーミヤ」と書いてあった。

「二つのうち、さらに近いのがこのキョーミヤにある闇の神殿だ。まずはここを目標にして、そのあと光の神殿に向かおうと思ってる」

オリエンスの中では、地図で見る限り島と島の間にかけられた石橋をつかって往来を行っているらしい。ならば、遠ければ遠いほど駄賃の多くなる船移動よりも、多少時間はかかるが歩きの方が得だと思いついたのだ。さらに周辺は島々の関係で入り組んでいるらしいので、下手をすると地上のほうが早くなる確率もある。

なにより、この旅の目的は神殿を巡ることだ。道中にあるのなら、立ち寄るに越したことはない。

「……そうだな。それが妥当だろう。あんま長いこと船に揺られるのもかんべんだしな」

年長者であるゴーシュのお墨付きをもらい、進路は決定した。

とりあえずの終わりを見せた会議を見届けて、全員が食事に戻る。俺もセルフサービスから持ってきていた黒パンをかじりながら、ふと周囲を見渡す。

酒場といえば、この世界では昼夜問わず賑わっているのが普通らしい。仕事を終えて乾杯している冒険者たちもいれば、日の高い昼間から飲んだくれて爆睡している親父もいる。お茶菓子と一緒に談笑を楽しむ主婦がいたり、はては闇取引でもしてるような怪しい連中まで、実に多種多様だ。だが、俺の目はその集団のうち、一点に留まる。

それは一見するとなんということはない、冒険者の集団だった。が、その輪の中にいる人間の顔は、皆一様に疲労の色を浮かべている。中には目に血のにじんだ包帯を巻いていたり、存在していたのであろう片手を赤くなった包帯で包んでいるような、痛々しい様相の者たちもちらほらといるらしい。

見た目からして決して高いランクの者たちというわけではなさそうだが、それでもその規模は20人をくだらないだろう。

そんな人たちが何故――という疑問は、そばだてていた耳がキャッチした会話によって、間も無く氷解した。

「……なんだったんだ、あいつらは」

「斬ったら煙になって消えるとか……なんだよあの人型の魔物」

「あんなのいないはず……どうして?」

斬ったら煙になる、人型の魔物。その響きは、俺に確かな衝撃をもたらした。俺たちもまた、そいつらに二度も遭遇しているのだから。

――カダーヴェル。

俺たち以外の人間が襲われたなどという話は、ついぞ聞いたことがなかった。いや、もしかしたら小耳に挟まなかっただけで、本当はたくさんの人々が襲われていたのかもしれないが、考えても後の祭りだ。重要なのは、奴らに襲われて、死傷者がでていること。

カダーヴェルの出現と、新たに君臨したという魔王。おそらくこの二つには、何らかの関連性がある。なら、これ以上の被害を防ぐには、魔王を倒すのが最善だろう。

まだまだ時間はかかるかもしれない。だが、やると決めたらやるのだ。

この世界を――この気まぐれで、美しい世界を守るために。


***


「朗報だ。ロキがやられたそうだぜ」

突然、暗がりの中から燃えるような赤い長髪をなびかせ、女が進み出てきた。その背には、真紅の宝石をはめ込んだ大剣が吊られている。

赤髪の女が瞳を向けるその先には、忌々しげな表情をした、新緑色の髪を蓄えた男がいた。黒い甲冑に包まれた腕を組み、赤髪の女を睨みつけている。

「凶報の間違いではないのか」

「ああ、吉報だぜ。……アタシにとっちゃ、な」

したり顔で黒甲冑の男を見つめる赤髪の女に、男はふんと盛大に鼻を鳴らす。

「せいぜいあがけ。……誰にも我の復活を止めることはできんさ。たとえそれが『神龍の騎士』だろうとな」

「そうかい。ならアタシは、せいぜい悔いのないように生きるとしますかな」

その言葉を放った赤髪の女の姿は、すでになかった。女が立っていた場所を睨みながら、しかし黒甲冑の男は不敵に笑む。

「……そうさ、誰にも止められない。この忌々しき神龍の統べるこの世界は、我の手で滅ぶさだめなのだからな」

暗がりのなか、不気味に笑う低い声だけが反共していた。

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