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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter5 旅路はたゆたう水のように
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第41話 幻魔のロキ 後編

部屋の四隅を、ざあざあと勢いよく水が流れ落ちる。その心地よい音を聞きながら、俺は目の前に立つローブの老婆――ことロキを睨みつけていた。両手には、すでに抜き放たれた二本の剣。

「……驚いたよ。まさかあのトリックを見破るなんてねぇ」

濡れ鼠のままで、ロキは忌々しげに呟く。その手にはいつの間にか、身の丈にわずかに届かないほどの長さを持つ長杖スタッフが握られていた。先ほども幻覚で仲間たちを操っていたことから、彼女は魔法使いに相当するのだろう。それも、練度だけならカノンよりも高位の。

「褒めてあげようじゃないか。あたしの使った幻惑魔法を破ったのは、あんたが始めてだよ」

「そりゃどうも」

唇を尖らせ、いかにも不満ですとアピールしてやる。効果のほどは疑わしいが、気持ちの代弁なので意味がなくても構わない、というものだ。

ちなみに、仲間たちは現在カノンの説明を受けている。彼女も全容を把握してないので説明もいくらか齟齬があるが、今は仲間に理解してもらえればいいので放置中だ。

「……で?あんたはまだ戦うのか」

俺にそう聞かれたロキは、実に心外そうな表情と大仰なしぐさで肯定してみせた。

「あたりまえじゃないかい。まさか、あたしの技があれだけだと思ってたのかい?」

「あぁ、そう思ってたよ。……てっきり他人を操ってしか攻撃できない、ザコモンスターなのかってね」

イヤミたっぷりに吐き捨ててやるものの、ロキは不快な表情になりつつも特に攻撃らしいことはしてこなかった。挑発は効果なし、と。

「そうかい、そうかい。……なら、身の程知らずなお子様に、灸を据えてやるとするかね」

なにやら不敵にほくそ笑んだロキが、ローブのすそを翻しながら頭上へとスタッフを掲げた。魔法を使う気か、と警戒したが、相手の――ロキの行動は、その上を行った。

「三枚下ろしにしてやろう!」

ロキの声と共に、スタッフの直上で青い魔力素子が――水の魔力素子が収束する。そのまま凝固して小さな玉になったかと思った直後、それが破裂。ズバッ!という音と共に一条の光線となり、俺たちの方へと飛来した。

「うおぉっ?!」

その速度たるや、ベテラン冒険者であるゴーシュを以てして反応が遅れるほどであった。彼が飛びのいた場所を、レーザーの如く水流が流れて行った。

幸いにして、岩が削れるというこちらの絶望的観測は外れてくれたらしく、水流が通り過ぎた場所は濡れるだけに留まっている。もっとも、何秒か集中して照射でもされればたやすく穴が空きそうだが。

まともに喰らえばまず撃墜は免れないだろう。それが回避困難な速度で飛んでくるのだ、どれほどの脅威かは想像に難くない。

「ヒッヒ、どうしたんだい?あたしを雑魚と呼ぶんだ、このくらいかわしてみせな!」

得意げに笑いながら、ロキはさらに杖を高く掲げた。それをきっかけに水のレーザーは本数を増やし、四方八方から俺たちを薙ぎ払わんと殺到する。

「グレイラ・ガプサ=ギルハドマス!」

その凶刃が俺たちに到達するその寸前、カノンが土魔法の障壁を展開。属性の相性と二段階の強化ギルハドマスを以て、降り注ぐレーザーの嵐をほぼすべて回避してみせた。

さすがはカノンだと心の中で賞賛しつつ、それによって生じたスキを突くべく俺は走り出す。

だが、俺の見たては甘かったらしい。唇を三日月型に歪めたロキの頭上で――新たに白色の魔力素子が、収束していたのだ。それも、今しがた放たれている水のレーザーとは、まったく独立した状態で。

「ほら!」

ロキの掛け声に合わせ、収束していた光の魔力素子が炸裂。正しく一筋の光線となり、驚愕で反応が遅れた俺の肩口を、わずかばかり切り裂く。そのまま壁へと激突したそれは、今度こそ壁に焦げ跡を作り出した。

速射性と攻撃力に優れた、万能魔法。言うまでもなく、無属性魔法アビリティに違いないだろう。

厄介な敵と当たったものだ。考えて歯噛みしながら、こちらもまた迎撃の構えを取る。

光の砲撃ブライトバスター!」

魔力チャージのタイムラグなく、すぐに発動が可能な魔法である射撃魔法を使い、続けて迫り来る水のレーザーを迎撃した。そのままロキの魔法を模写した薙ぎ払い射撃――見よう見まねなのでロキほどの威力はないが――を行いながら、ロキの懐へと急接近。お返しと言わんばかりに、アッパーの太刀筋をお見舞いした――はずだった。

「……おや、なんだいそれで終わりかい?」

「なっ……?!」

ロキの身体に、いやローブに、切り傷ひとつとしてついていない。それどころか、俺の眼前に出現した透明な、ガラスのような障壁によって、その斬撃すらも無効化されていたのだ。

なにが起こった?!そう考えている間に、再びロキの放った光線魔法が飛来。水のレーザーと光のレーザーが立て続けに俺に激突し、その衝撃に耐えられず吹っ飛ばされてしまった。

硬い石の床を転がりながら停止したのは、仲間たちのいた場所のすぐ近くだった。片方の剣を杖代わりに起き上がりながら、俺はロキを睨みつける。

「ずいぶんとまぁ厄介な魔法だな」

「ああ、物理攻撃を受けてビクともしない障壁魔法なんて、聞いたこともない」

顎をさすりながら分析するゴーシュに、ロキへぶつける恨みを混ぜながら返答した。高い攻撃力と速度を持った遠距離魔法に、近づいてきた人間による物理攻撃を迎撃する堅固な障壁魔法。相手にするには、ゴーシュの言うとおり厄介極まりないというものだ。

それに加えて、神殿の構造の都合上退却も困難なのが痛い。まぁ最も、こんな奴と平原で出くわして、逃げおおせることの方が困難と言うものなのだろうが。

ともかく、打開策を見つけ出さねばどうにもならない。まずは、あの技の特性を見極める!

「みんな、まずはアレの特性を看破するぞ」

小声で仲間たちに指示を伝えると、皆好き勝手に攻撃を開始した。無論、他の仲間を妨げないようにだが。

ゴーシュの衝撃波がロキの障壁に激突、快音を立てて弾かれるのと同時に、カノンの放った土の射撃魔法がレーザーとかち合い、相殺する。そこに生じたスキを突き、アリアの槍が飛翔。その切っ先が二度三度障壁に叩きつけられるが微動だにせず、逆に飛来したレーザーによって退却する。が、それによって新たに生じたスキを見逃さず、サラの魔力矢が障壁へと突き刺さる。魔力コーティングされていればあるいは、と思ったが、それだけで破れるほど障壁はヤワではないらしい。甲高い音を立てて、コーティングされた矢もガラス片のようなものと共に弾かれてしまった。

心底厄介な敵だ。特に、ただの物理攻撃はおろか魔力コーティングを施した攻撃でさえ無効化するあの障壁は、今まで立ちふさがったどんな壁よりも超えることが難しいかもしれない。

どうやって突破するべきかを考えていると、不意にカノンが俺のそばへと駆け寄り、耳打ちしてきた。

「……タクト君、もしかしたらあの障壁、大出力の魔法なら破れるかも知れないよ」

「ん……どういうことだ?」

俺の問いかけに、カノンは真剣味のある表情で、今もゴーシュ、サラ、アリアの攻撃を余裕綽々に防いでいるロキの見つめて言う。

「あの障壁、さっきサラさんの魔力矢で少しだけ削れたの。すぐに元通りにはなったけど、アレは魔力に弱いはず」

確かにカノンの言う通り、先ほど魔力矢が障壁にヒットしたとき、弾かれた矢と共にガラス片のようなものが散らばったのが見えた。アレが削れた破片だというのならば、確かに勝機はある。

「……けど、あの障壁はかなり頑丈だ。なのに、魔法だけで破れるのか?」

「魔法だからこそ、だよ」

俺の投げかけた疑問に、カノンはにこやかな笑みと共に言った。

「たぶんだけど、あの障壁は物理攻撃だけを無効化できるものなんだと思うんだ。だから、物理の威力をプラスしてある魔力コーティングの攻撃よりも、純粋に魔法だけで構成した攻撃を加えることができれば、アレを貫通できるかも知れないよ」

「……そうか。わかった、やろう」

この場で大出力の魔法を使えるのは、現状俺とカノンの二人だけだ。なら、その役目は俺たちが負う。

カノンと並び立ち、共に指先へと魔力を集中。魔力素子が擦れる音と共に、魔法陣が展開される。

「行くぞ」

「うん」

どうやって察知したのかは全くわからないが、仲間たちも俺たちが野郎としていることに感づいたらしい。サラが俺たちの姿を隠しながら攻撃し、ゴーシュとアリアが左右から挟むように攻撃、ロキがどちらかに逸れるのを防いでいる。上空からは放物線を描くサラの矢が降り注ぎ、そちらへと逃げるのも難しい状況だ。

即興にしてはいい連携だ。もしかしたら皆その可能性に思い当たったのかも知れないな、と考えつつ、俺たちは魔法言語を紡ぐ。

「ブルセイ・バトク=ギルパルマス、『猛き光の砲撃ギガパワー・ブライトバスター』!!」

「シャマト・バトク=ギルパルマス、『猛き闇の砲撃ギガパワー・シャドウバスター』!!」

詠唱にあわせて、俺の魔法陣は白く、カノンの魔法陣は黒く染まり、その中に同色の魔法言語が刻まれる。

完成した魔法陣を横目で見やったサラが、サイドステップで射線から退避した。それを見たゴーシュとアリアが、それぞれ横から障壁を押さえつける。二人とも魔力コーティングを行っているあたり、おそらく障壁の特性に感づいていたのだろう。

鬱陶しげに二人を一瞥し、こちらの方に目線を向けたロキの顔が、驚愕に歪んだのを見てほくそ笑みながら、俺たちは魔法を解放した。

「ちぃっ!」と毒づくロキめがけて、白と黒の光線が飛翔する。魔力が切れてしまったのか、彼女によるレーザーの妨害もなく、宙空を駆け抜けた白黒の砲弾は、ロキの障壁へと激突。カノンの予想通り容易く貫通して、ロキの腹を貫いた。

「う、ぐっ」とくぐもった声を漏らして後ずさるロキめがけ、俺は疾駆する。その両手に再び掴んだ、ふた振りの剣を構えながら。


「魔剣奥義――『絶剣・乾坤一擲』!!」

双剣を用い、X字に放たれた巨大な衝撃波を見ながら。

「――あぁ。後は、頼むよ」

ロキは呟き、そして魔力の奔流へと消えて行った。

祖母の御通夜に関するゴタゴタがあり、投稿が遅れてしまいました…

次回はちゃんと水曜に投稿いたしますので、何卒ご容赦下さい。

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