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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter5 旅路はたゆたう水のように
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第38話 精霊の湖

「……こりゃまた、ずいぶんと大きな湖だなぁ」

カダーヴェルたちとの戦いから数日後。俺たちは襲いくる魔物達を退けつつ、ようやく目的地であるタクシア公国へと到着した。ただ、簡単に必要なものを買い揃え、本来の目的地であるマリウス湖へとUターンしたせいで、タクシアの観光なんかをする余裕はなかったが。

そして到着したマリウス湖は、俺の予想をかるく上回る大きさを持っていた。

大きい。それが、まず浮かんだ感想だ。目測だけでも、端から端まで軽く300mはあろうかというぐらいである。対岸のさらに向こうにも広がっているのであろう、この湖を取り囲む「マリシアの森」は、うっすらぼやけて見えなくなっているほどだ。

流石にこの大きさには俺の仲間たちはもちろんのこと、事前に情報収集をしていたはずのアリアでさえも驚いている。

「……こんなに大きい湖ができるなんて、これも大精霊のおかげなのかしら」

苦笑気味に、アリアがそう呟いていた。

ここで俺のいた世界にはもっと大きな湖があるぞ、なんて言ったらムード台無しになるだろうな。そんなどうでもいいことを考えつつ、俺はルゥの背中から荷物を下ろし始める。

今回の水の神殿探索は、アリアの持っていた情報でも詳細な位置がわからず、さらにマリウス湖の周囲はマリシアの森に囲まれて探索を妨げている。その情報を入手した俺は、長期戦になることを見越して、数日間の間マリウス湖の周辺で野営を行うことにしたのだ。

幸いにも同じ考えの冒険者のほか、観光に来た人間たちが湖のほとりに沢山テントを貼っていたので、好奇の目で見られるような心配はなかった。安心しつつ、俺はテントを組み立て始める。


***


数十分後、テントを建て終わった俺は、近くの木陰に腰を下ろして休憩していた。元居た世界で考えたら季節的には秋だが、南の大陸というだけあって日差しはまだまだ暑い。昼ごろにこんな作業をしたのも重なったのかもしれない、などととりとめもない思考に耽っていると、いつの間にかゴーシュが隣に立って居た。ただその格好はいつもの軽鎧姿ではなく、短パンに似た薄手の布地――つまるところ、水着姿だった。

「タクト、お前は泳がないのか?」

ゴーシュにそう聞かれ、俺はかくんと首を縦に振る。

「……泳ぐのが嫌い、ってわけじゃないけど、必要ない状況で泳ごうとは思えなくてさ。それに、全員泳いだらここを警備する奴がいなくなるだろ?」

という俺の言い訳に、ゴーシュがなるほどと頷く。それにタクシアで水着を買ってないので、どっちにせよ俺は陸で待機だ。

――そんなことを考えていると、不意にテントの入り口が開け放たれた。次いで、各々水着姿に着替えた女性陣が出てくる。

カノンは白にレモンイエローでアクセントを加えたパレオ付きのビキニ、サラは緑と黄緑を組み合わせたワンピース状の水着、アリアはサーフパンツに似た水着を、それぞれ着用していた。全員、中々に似合ってる。

特にカノンは、ビキニ状の水着がよく似合っていた。分厚い胸部装甲を惜しげも無く強調しているので、否が応でも目そちらを向いてしまう。

「えーと、俺はここで警備してるから、皆好きにくつろいでいてくれ」

慌てて目を逸らしつつ口走った言葉に、全員が肯定の合図を送って来た。そのまま女性陣がゴーシュを拘束して湖へと歩いて行く。ゴーシュが余裕のない笑みで冷や汗をかいているが、俺には関係ないことだ。そう考えて、昼寝の体制に入る。

「た……タクト助けてくれーっ!」

引きつった声と共に聞こえた水しぶきの音を聞きながら、俺は目を閉じた。


***


水浴びは特に問題らしい問題を起きず――強いて言えばゴーシュが相当虐められたらしく、俺が目を覚ました時には何故か正座でサラに説教されていた――、一日目は探索せずに終了となった。まぁ、元々初日はゆっくりしようという考えだったので問題はないのだが。

時間はすぎてその日の夜。食事を終えた俺たちはめいめいに談笑を楽しんでいたが、今では起きているのは俺一人だけだ。むろん夜番のためなのだが、正直必要だったのかは疑わしい。

なにしろ平和なのだ。遠くの方ではまだ人が起きているらしく、かがり火の明かりとはしゃぎ回る人影が確認できる。ほかのテントを見ても、警備に当たっているのはごく少数だ。

確かに、昼寝をしていたときも敵の気配らしいものは発見できなかったし、姿を表した魔物と言えば人懐っこい青目オオカミくらい。警備は不要だと俺も思うのだが、昼寝のときに予想以上に長いこと寝ていたようで、全く寝付けそうにないのだ。なので、暇つぶしを兼ねて夜番をしている。

周囲の気温がちょうどいい具合なので、普段から暖のために焚いているたき火は存在感しない。月光もあるので、視界の確保には問題ないから節約にもなっている。なにより、月明かりを受けてぼんやりと光る湖が綺麗なので、明かりを焚いて余計なことをしたくない、というのもあるのだが。

そうして光る湖を眺めていて、どのくらい経っただろう。あくびがでてそろそろ眠ろうかと思ったその時、不意に俺の眼前で妙な現象が発声した。

ざぱっ、という音を立てて、水の一部が空中に持ち上がったのだ。重力など存在しないかのように、持ち上がった水がうねうねとくねる。敵かと思ったが、それにしては特有の突き刺さるような殺気を感じることができない。腰を浮かしかけた状態という奇妙な格好で静止しながら、いまだうねる水を注視する。

空中で踊っていた水はぐいん、と一際大きくしなったあと、高速で削られる彫刻のごとく形を変え、直ぐに人の姿へと変わった。見た目は15、6歳ほどの、ワンピースを纏った少女だが、その背丈は俺よりも幾分か低い。

水が動いて湖でできた人の姿に変わる、という珍妙極まりない光景を目撃し、呆気にとられた表情のまま固まる俺の方を向いた水人間が、何を思ったのかにっこりと笑う。

『お兄さん、みーつけた!』

同時に、頭の中に声が響き渡った。硬直から解放された俺は、同時に声の主であろう水人間に向けて警戒の目線を送る。が、とうの本人はそれを気にも止めず、続けてこちらに呼びかけてきた。

『ねぇねぇお兄さん、面白いものがあるんだけど、見に来ない?』

その声色(?)に引っかかるものはなかったが、それが逆に不気味だった。最大限警戒しながら、俺はゆっくりと言葉を紡ぐ。

「……話せるってことは、知性があると見て間違いないな。名前を名乗れ」

トゲのある言葉だったが、水人間は特に気にもとめていないらしい。笑顔を疑問のそれに変えて、俺に話しかけてくる。

『お兄さん、「ウンディーネ」って知らないの?私はウンディーネだよ』

ウンディーネ。確か、元の世界では水の精霊として語られていたっけ。ゲームでもよく出てくるから、名前は知っている――精霊?

「……ウンディーネって、精霊のことか?」

『そうだよー。私たちウンディーネは、水の大精霊様の眷属なんだ。覚えててね!』

そう言ってまた屈託の無い笑顔を浮かべる水人間、ことウンディーネを見て、思わず俺は肩を落とした。情報収集は大事だということが、イヤでも実感させられる。

「……で、なんだよ面白いものって」

とりあえず敵ではないので警戒をとき、ウンディーネの話に出た面白いものについて聞いて見ることにした。

『うんとね、お兄さんはたくさんの宝珠を持ってる感じがするんだ。だから、もしかしたら大精霊様に用があるんじゃないかなって』

「……つまり、水の神殿に案内してくれるっていうのか?」

ウンディーネの話を要約すれば、そういうことになる。実際にウンディーネの方もにこにこ笑いながら頷いていたので、そういうことなのだろう。

探す手間が省けたな。そう考えながら、俺はウンディーネと「頼む」の言葉、そして握手を交わした。

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