表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter1 些細な始まり
4/79

第2話 お仕事をしようと思います

一話、二話の連続投稿になります。最新話から飛んできた方はご注意ください。

――――あれ、いつの間に寝てたんだ?

そう思って、俺は周辺を見回す。どうやら明晰夢めいせきむだったようで、視界にはどこまでも真っ白い空間が広がっている。

ふと振り返ると、そこにいたのは――――昔からの親友。

「よう、何してるんだ」

「え……あ、いや、特に何も」

とっさに、その問いかけに答えた。俺の答えを聞いた友人は、苦笑する。

「ったく、だらしねぇなー。異世界に召喚されたクセに、何人の家でのんびりしてるんだっつの」

正論な気がしたからか、俺は何一つ言い返せなかった。思春期真っ盛りの俺にとって召喚されてすぐに捨てられたなんてことは、恥ずかしくて言えなかったんだ。

「……面目ない」

それだけ言ってなんとなく頭を下げると、不意に別方向から苦笑に似た失笑が降ってくる。振り向くと、そこにいたのは父さんだった。そういえば今父さんは何をしているんだろうか――という思索に浸る前に。

「しょうがないな。お前は捨てられたんだから」

――――一瞬、父さんが言ったことの意味が分からなかった。だが、そんな失望に似た罵声は、いつの間にか周囲に表れていた知人友人、有象無象から、四方八方から俺を押しつぶさんと降り注ぐ。

「所詮いらない子だろ」

「大した奴でもないからな」

「のたれ死んでたほうがよかったのになぁ」

罵倒、皮肉、怨嗟の響き。やめろ、俺だって好きでこっちに来たんじゃない!



「いいや、お前は望んでこの世界に来た」

「違うッ!俺は連れてこられた、召喚魔法で強制的に連れてこられたんだよ!」

目の前に立ちふさがったかつての親友に向け、俺は吼える。だが、あいつの目はどこまでも冷ややかだった。

「――なら、あの時どうして嬉々とした表情で魔法陣に飛び込んだ?」

「――――――っ!!」

それは、無意識に締め出していた忘れた記憶。思い出したくもない、俺が蹴り落とされて失意の底に落とされた発端でもある、俺の行動。

今思い返せば、なぜそんな迂闊な行動をとったのかと、自分を責め立てたくなるのだ。思い出したくなかったのに、なぜ今頃になって――――!



「お前は召喚された『意味』を知らなければならない。なのに、お前は――――――」

その先を聞き取れずに、俺は暗くなっていた世界に差した光の中に、吸い込まれる。




***




「っ!」

声にならない叫びをあげて――実際にそんなことしたのかはわからないが――、俺は眠りから覚醒した。イヤな夢を見たせいか、上半身を覆っていた簡素なシャツは汗に濡れている。

窓の外を見ると、空には薄青色のベールをまとった月が、静かに浮かんでいた。それを見て、安堵からかふぅとため息をつき、また襲ってきた眠気に抵抗することもなく、俺はあてがわれたベッドに潜り込む。



ミリアさんの家に厄介になって、おおよそ二週間弱の時が流れていた。

その間、俺はミリアさんと彼女の旦那さん――名前をライドウという男性、二人の厚意と推しに押され気味になりつつ、二人の家に厄介となっている。

正直に言えば迷惑をかけているとしか思えなかったのだが、それを二人に言うと長々と説教されそうなので言わない。というか実際に言ったら夜通し説教まがいの説得をされたのでもう勘弁してほしいのが本音だ。

そんなことを思い出していると、苦笑とともにいやな気分は吹き飛んだ。不本意だけど、二人には感謝しなければ――なんてことを考えていると、ちょうど掃除に来たミリアさんが部屋に入ってくる。

「あらタクトくん、おはよう。ずいぶんうなされてたみたいだけど、大丈夫?」

うなされていた声が聞こえていたようだ。すこし頬が熱を持つ間隔を感じながら、大丈夫ですと苦笑する。

「心配ないです。……ありがとうございます、ミリアさん」

ひらと手を振ると、ミリアさんは笑ってくれ、そのまま俺を手招きする。

「朝ごはんできたから、早く食べましょ」

「はい」

朗らかな笑いに、つい口元が緩んだ。二人のおかげで、俺の心の傷は着実に癒えているらしい。



「ようタク坊、ひーだのうーだのよくうなされてたな」

リビングに行くと、先に起きていた大工のように――実際大工らしい――ガタイのいい男性、ライドウさんが快活な笑みを向けてきた。

ずいぶんな音量で悪夢にうなされていたようなので、自分の無防備さがちょっと恥ずかしい。あははと乾いた笑みだけを返して、ライドウさんのイジリ攻撃から逃れるために手早く朝食に手を付ける。

異世界という割には以外にも稲作などが盛ん――といってもアレグリア王国だけの風習らしいが――であり、出てくる朝食は以外にも和食の比重が大きかった。俺も日本人である以上、米にありつけるのは素直にありがたいと感じてしまう。

スクランブルエッグをおかずに白米と麦を合わせた麦ごはんを食べていると、不意にライドウさんが食べる手を止めた。

「……ちょいといいか、タク坊」

「え、はい?」

二週間のあいだ寝食を共にしているが、ライドウさんが神妙な面持ちになることは今まで見たことがなかった。普段は豪快かつ横暴に俺の肩をぶっ叩きながら威勢よく笑っている――本人曰くじゃれているだけらしい――ので珍しいと思いつつ、俺は箸を止めて話を聞く体制に入る。

「こんなこと言っちゃ悪いけどな、タク坊は『非選抜者』としてこっちに呼びこまれたんだろう?」

「あ……まぁ、そうなります、ね」

いきなり投げかけられた言葉に、俺は目を泳がせながら答える。忘れていた――忘れていようとした記憶が、否応なしに脳裏にフラッシュバックする。

物を見るような騎士たちの目、邪魔者に向ける目をした門番、けり落とされて階段を転げた時の痛み、苦しみ、絶望感。

這い上がってきた嫌悪感を作り笑いで隠し、ライドウさんに目線で続きを促す。

「ってなると、今タク坊はどこにも所属してないことになるんだが……実は、ちょっとした提案があるんだ」

「提案?」とおうむ返しに呟く。今までそういったたぐいの話を避けてくれていただけに、その言葉に内心で驚いていた。

――――いやまぁ、さすがに無職のままこうして居候しているわけにもいかないからね。どうせ死ぬならいいところで死にたいとかフザけた考えを頭の片隅で考えつつも、ライドウさんの話を聞く。

「だったら話が早い。最近仕事場で『冒険者ギルド』の人手が足りないらしいって話を聞いてな。タク坊さえいいなら、冒険者ギルドに行って話を聞いてきてやってくれないか?」

どうやら、遠回しに仕事をさせてくれるという提案だったようだ。そんなところにまで気を使ってくれて申し訳ないやらなにやら複雑な感情を抱く反面、みそっかす扱いな俺が必要とされるなら是非行きたいという気持ちもあった。

勇者のための捨て駒扱いされて以降、俺の冷めた頭はどうやら考え方を変えたらしい。たとえそれがどれだけ地味で目立たなく、必要とされていないことであっても、誰かの役に立つためであるならばやり遂げたいと、そう思うようになってきていた。



だから俺は。

「もちろんです。俺の力が必要だって言うなら、誰でもどこでも行ってやります」

力を込めて、不敵に笑んで、そう告げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ