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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter5 旅路はたゆたう水のように
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第33話 槍使いアリア

アリアのパーティ入りから一夜明けて、俺たちはタクシアへと向かうための準備をしていた。準備といっても何のことはない、いつも通りの消耗品補充なのだが、アリアにとっては自分で買い物をすることも結構新鮮だったようだ。行くとこ行くとこでいろんなものに興味を持つので、なんだか子供を買い物に連れて行ったような気分になった――とはゴーシュの弁。

特に問題もなく買い物を終えて、現在は全員の武器を整備するために大きな武具屋に寄っていた。その間、ふと興味がわいた俺はアリアに問いかける。

「そういえばさ、アリアが使ってるその槍って、どこで手に入れたんだ?」

自らが買い物に行くことがあまりないという彼女の言葉から類推するに、少なくとも自分で買ったとは思えない。なので、個人的にはその出自が気になったのだ。作り自体はシンプルだが、その実用性を追求したフォルムはそこらの武器屋ではなかなか見れない品だとわかる。それに、その槍の穂先にはめ込まれた水晶のような部品が気になるというところもあった。

そんな俺の思考を読んでくれたのか、アリアはああと漏らしてから口を開く。

「これはね、槍の武術を習ってた頃に知り合いの貴族がくれたものなのよ。旅に役に立つかなって思って、ついでで持ち出してきたのよ」

貴族から渡されるなんて相当価値があるんじゃないだろうかという俺の考えは、続くアリアの言葉で確信に変わる。

「で、この槍は『魔装まそう』ってアイテムなの。確か名前が『マルチレンジ・スピア』っていったかしら」

魔装――また知らない単語が出てきた。情報収集してない俺が悪いのか。というか魔装というのは何だろうか……という疑問を持った俺は、今度はゴーシュに問いかける。こういうものを聞くときは、ゴーシュの知識が役に立つものだ。

「ゴーシュ、魔装ってのは?」

「ん、あぁそういえばタクトは見たことないんだったな。……えーと、どう説明すればいいか」

うーんとうなるゴーシュに先んじて、意外な人物からその詳細が語られる。

「魔装っていうのは、『魔晶石ましょうせき』っていう結晶を使って作成された魔法の武器だよ。魔方陣を埋め込んだ魔晶石のおかげで、特殊な力を持つことができるんだって。……魔晶石の定義に当てはめないなら、タクトくんのイーリスブレイドも魔装なのかもね」

そう説明してくれたのはカノンだった。魔法の力を使った武器ということなら、彼女がくわしいこともうなずける。というか俺も知らないうちに使ってたんだな、魔装。

その後聞いたカノンの説明によると、広義の意味では「魔力を宿した道具」のことを、より厳密に定義すると「魔晶石をどこかに埋め込んだ道具」のことを指すらしい。この場合、俺の持つイーリスブレイドは莫大な魔力を使用した武器であるため、広義の意味で魔装に当てはまるという。アリアのマルチレンジ・スピアはそのまま魔晶石――見せてもらうと、槍の穂先に紫色の水晶がはめ込まれていた。それが魔晶石という代物らしい――を使用した武器なので、本来の意味で魔装と分類されるそうだ。

ちなみに魔装は作成費がバカにならないらしく、たとえAランクの冒険者でも所有する人間は半数に行くかどうか……というのはゴーシュから聞いた話。

そう考えると、アリアのように冒険者としてはまだ日が浅い人間、それも14歳の少女が魔装なんてものを持つのは規格外にもほどがあるということだ。つくづくアリアの父親の親バカっぷりがわかる。


***


正午を少し過ぎたあたりでなった鐘――刻指針トキサシノハリでいえば1時を知らせる音だった――を背中に受けながら、俺たちはアルネイトを出発した。一路目指すは、国境を形成する運河のほとりに位置する町「ゲーテルンド」である。そこから運河を渡るための小舟を出してもらい、タクシア領へと上陸。そこから一気にタクシア本国をめざし、補給を行った後に折り返す形でマリウス湖へと向かう予定だ。

正直万事がうまくいくとは思っていない。これまでの旅路で何もなかったのといえば、セルビスからハーメルンに行く船旅だけなのだ。他は山賊の襲撃、魔障霧による妨害、謎の敵カダーヴェルの襲来と、たいていロクなことにあってない。というか思い返すとホント苦労した気がする。これからもするんだろうけど。

誰にも気取られない程度にため息をつきつつ、俺は眼前に広がる景色を見やった。たくさんの人や馬車が通ってできたけもの道の街道が、一直線に遠くの山脈へと延びている。目指す町ゲーテルンドは、この街道を通って山道を抜けた先だ。

ゴーシュの話によれば、このアルネイトからゲーテルンドまでは大体3日で到着できる距離だそうだ。そこから運河を超えた先の「タクシア大草原」を超えるのが大変らしく、そこでぶっ倒れてしまう冒険者も多いとかなんとか。

できるならゲーテルンドで馬車を借りれないかなぁなんて考えつつ歩いていると、不意に甲高い鳴き声が響いた。培った反射神経で素早く両腰の剣を抜刀し、周囲へとアイコンタクトを送る。仲間たちも先ほどの声を聴いたようで、全員が武器を取り出して構え始める――その中、アリアだけは肩掛けベルトで吊った槍を引き抜くのに苦労していた。新人時代に剣のグリップをつかみ損ねてイノシシの突撃を食らったのを思い出して、思わず感慨深い気持ちになる。もっとも、こんなことで感傷に浸っていると後々大変になりそうな気がするが。

そうこうするうちにアリアも戦闘態勢を整えて、五人で円陣を組む。どこから敵が襲ってきても対処するためには、全員でいろんな方向を固めるのが一番だ。

やがて数度の鳴き声が響き渡ったのち、その相手はアリアの方角から来ることとなる。

「来たわよ、ソイルワームね」

ソイル――英語で土の意味だ。なぜ英語なのかはあえて突っ込まないほうがいいと思う――の名が示す通り、そいつは地面を突き破って進み出てきた。見た感じ、口の開いたドデカいミミズといった趣である。俺は大丈夫だが、虫嫌いな人が見たら卒倒しそうな大きさだ。成人男性が3人分くらいとかデカすぎる。しかもびっちびっちとのたうち回っているのでなおさら気持ち悪い。せめてヘビっぽく動いてほしかったよ。

「う……ごめん、アレは無理」と言いつつ、サラがそそくさと目をそらした。うんそりゃまあ、女性陣にはつらいだろうなあの光景――と思ったのだが、カノンとアリアはことさらそうでもないらしい。むしろ倒す気満々で各々の武器を構えている。ゴーシュも同じようなもので、彼は一人で反対側を向いている。何事かと振り向くと、そこにはソイルワームがもう一匹、這い出てくる光景があった。これは戦力を分断せざるを得ないかな。

「カノンはゴーシュと、アリアは俺と行動だ。二人は性質がわからないと思うから、できるだけ慎重に行動してくれ!」

「おうよ!」

「わかった!」

とっさに指示を出して、俺たちは二手に分かれた。この組み合わせにしたのは、単純に「近距離攻撃役と遠距離攻撃役でわけた」だけだ。俺たちのほうは俺の衝撃波、向こうは言わずもがなカノンの魔法があるので、もし近づけなくても対処はできるだろう。もっとも、まだそれほど街から離れてないのでそこまで強いというほどではないはずなのだが、万が一ということもある。ちなみに動けないサラはルゥとともに待機だ。戦えないメンバーに無理に戦えというのは酷なものである。

俺たちが二手に分かれたのを確認したらしいソイルワームは、きゅるきゅるるるるる!という妙な鳴き声とともにその巨体をうねらせて突進してきた。というか暴れた反動でこっちに転がってきた。

が、さすがにその巨体が暴れると小さな人間はその範囲から逃れなければただでは済まされない。アリアの手を引きながら離脱すると、すぐ目の前をゴゥ!という風切り音と共にソイルワームのしっぽ(?)が通り過ぎる。とんでもねぇよ。

とはいうが、ソイルワームは何のために地上に這い上がってきたのかと突っ込みたくなるぐらいに暴れていた。もしかしてあれ、土から出たら何もできなくなるパターン?

「――魔剣『強斬撃キョウザンゲキ』っ!」

ようするにただの衝撃波を飛ばし、ソイルワームをひるませる――つもりだったのだが、バチン!!という快音が響いたかと思うと、地面を若干揺らしながらソイルワームが倒れこんだ。弱っ。

この分だともしかして、と思いながら反対側を向いてみたら、案の定もう一匹のソイルワームが火だるまになっている光景を目撃してしまう。これ戦うまでもないんじゃないか?

とはいえ、こんなのでもアリアにとっては貴重な戦闘の経験だ。はいずりながら起き上ってきたソイルワームを警戒しながら――いくら弱いとはいえ何を持っているかわからない以上、警戒は必要最低限でもしておくのが一番だ――、俺はアリアに話しかける。

「この際だ、アリア。まだ実践には慣れてないだろうから、戦ってみろ」

起き上がったソイルワームは、一度痙攣けいれんしたかと思うとまたものたうち回りだした。アリアに攻撃してもらう分にはいいが、ああも動き回られると最悪アリアが怪我してしまうかもしれない。彼女が了承したのを確認して、作戦内容を告げようとしたその時、アリアが力強く一歩を踏み出した。そのままこちらに向けた顔には、太陽のように力強い笑みがたたえられている。

「アレじゃ、近づいて倒すのは無理そうね。……だったら、魔装の出番だわ」

そういうとアリアは、その手に持っていた槍を脇の下に構え、自らの身を発射台にするかのごとくぎりりと引き絞った。それと同時に、マルチレンジ・スピアの穂先にはめ込まれていた紫色の魔晶石が、きぃん、というかすかな、そして透明な音を立てながらほのかに発光を始める。

「いっけぇーっ!!」

瞬間、アリアが叫ぶと同時に突き出された槍が――「伸びた」。

比喩的表現などでは決してない。本当に、俺が見ている目の前で、柄の部分が音もなく伸びたのだ。それもちょっと伸びた、程度の話ではない。まっすぐに突き出された槍は、そのまま一直線にソイルワームへと伸びていく。空気を切り裂く音を引き連れて、槍の先端はソイルワームの胴体に勢いよく突き刺さった。衝撃で甲殻が割れ、中からは透明な体液と思しきものがあふれ出す。

物理的には考えられない伸び方だ。何せ俺たちとソイルワームの距離は、少なく見積もっても30mはあるのだから。その長距離をものともせず、アリアの持つ槍は駆け抜けて、ソイルワームへと到達したのである。それが何事もなく戻ってきて元の長さに戻ったのも、再度同じ動きをしてまた伸びるのもおかしい。というか魔装すげぇ。

そのまま同じ攻撃を4,5回ほど繰り返すと、すぐにソイルワームは息絶えた。バチン、と快音を立てて元の長さへと戻った槍をひと振りして、アリアは俺に向けてVサインを送る。どうだ、とでも言わんばかりの笑顔だ。

正直魔装のおかげじゃないかなという言葉を直前で飲み込みながら、俺たちはサラとルゥが待機する場所へと戻っていった。


ちなみにサラはというと、のたうち回るソイルワームを見たくなくてずっとしゃがんで俯いていたらしい。これから先虫系が出ないとも限らないのに、と言ったら、涙目のサラに一発殴られたのはまた別の話。

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