表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter5 旅路はたゆたう水のように
37/79

第31話 お嬢様は冒険者

ちっちゃい身体――と言っても背丈は15ながら低身長な俺とほとんど変わらないが――で手を腰に当てて胸を張り、銀色の髪の少女はまっすぐな瞳で俺を見つめる。本当、面倒なことに巻き込まれたもんだ。

「……えっと、いくらくらいになりますかね」

いや、俺じゃないんだろうきっと。そう考えながらカウンターに向き直り、戻ってきたギルドの職員さんと会話を始めた。まぁ、そんな期待ははかなくも砕け散るわけであり。

「無視しないでよ黒い髪のあなた!今アタシのほう向いたんだから気づいてるでしょうがッ!」

「あぅ、ぐぇ、ふぉ、むぐっ」

えらい速度で詰め寄ってきたかと思うと、そのまま背中越しに肩をつかまれてがっくんがっくんと揺さぶられる。ああ、本当にこれは面倒くさいことになりそうだ。

「ちょ、おいっ、はなっ、してぇっ!?」

とりあえず目下の問題は、この少女にゆすられるのをやめさせることである。割とマジで話ができない。



「……で、まぁ俺にお願いごとをするのは構わない。けど、その前にせめて名乗ってくれないか」

数分後、ギルドの報酬を受け取った後、カノンたちを呼びに行ったゴーシュと別れて、俺と銀髪の少女はつれ立って酒場のテーブルについていた。その間、周囲からはひっきりなしにざわめき声が聞こえてくる。反応を見るに、この少女はいい意味か悪い意味、どちらかの意味で有名な人物だと推測する。

そんな周囲の喧騒の元凶である少女は、しまったとでも言いたそうな顔を作った後にニコッと微笑む。その笑みはこちらに来て出会った女性陣のものとは違う、例えれば太陽のようにまぶしいものだった。

「そういえばすっかり忘れてたわね。アタシは『アリア・グローレイ』。ここに住んでるグローレイ家の一人娘ってやつよ」

「グローレイ家……わざわざそんな言い方するってことは、君は貴族なのか?」

「ええ、その通り。あーでも、アタシのことはアリアで構わないわ。この名字、あんまり好きじゃないの」

そういって、少女ことアリアは口をとがらせて不満げな表情をのぞかせる。この態度で類推するに、頼みごとの内容はお家絡みの事情なのだろう。現代で嗜んでいた小説でもこんな子がよく出てきた。

まぁ、憶測でものを語ったところで詮無きことだ。真相を聞き出すなら、アリア本人に問えばいい。

「名字が好きじゃない、ってのは、もしかして家が嫌いとかなのか?」

「あれ、よくわかったわね?……そうよ、アタシは自分の家が大っ嫌いなの。ちっちゃいころから家に閉じ込められて、やることと言ったら何のためにもならない政治の勉強。アタシがやりたいのは、人を助けるために戦うことなのに……お父様はそれをわかってくれないのよ」

華奢な見た目に反して、ずいぶんと武闘派のようだ。俺と同い年くらいだというのに、ひそかに感心してしまう。

「……まぁ、言いたいことはわかる。でも、それがなんで水の神殿に行く、ってこととつながるんだ?家が嫌いなんだったら、家出なりなんなりして旅に出ればいいのに」

俺が知りたいのはその部分だった。この少女ならば親に反対されようとも強引に押し切って旅に出そうなものなんだが、という俺の予想は、残念ながらはずれだったらしい。

「残念ながら、そうじゃないのよ。家のほうはどうにか説き伏せたんだけど、条件を出されたの。それが水の神殿に行く理由ってわけ。……後はまぁ、うるっさい奴がアタシを追っかけまわしてくれるおかげで出るに出られないの」

水の神殿にいくのは、アリアが冒険者として通用するかどうかを見極めるための試練なのだろう。そう当たりをつけて納得しておき、俺はもうひとつ言われた問題について問いかける。

「うるさい奴?」

「そ。……グローレイ家はもともと有名な家柄でね、娘をぜひうちにって、いろんなところから言われるのよ。まぁ、その辺のちょっと偉い奴だったらこっちから突っぱねることができるんだけど、どぉーしても避けられない家があるの。……それがいい奴だったらよかったんだけど」

あぁなるほど。つまりこの少女は、婚約を迫ってくる相手から逃げるために冒険者という身分をほしがっているのか。

たしかに土地や国を持っている貴族なら、その管轄外に逃げてしまえば追っかけられることは少なくなるが――。

「そこまでして婚約破棄したいとは、そのイヤな奴ってのは相当なんだな」

あきれ気味につぶやくと、さも当たり前と言わんばかりに立ち上がったアリアが、バンと机をたたいて抗議する。

「当ったり前よ!何が悲しくてあの勘違い脳筋クソマッチョゴリラにとつがなくちゃなんないのよ?あんなのに嫁ぐくらいだったら、今であったばかりだけどあなたのほうがよっぽどマシよ!」

なんだかすごい剣幕で褒められた。いや今のは褒められたのか?……にしても、そこまで言うとはどんだけ酷いんだろうか。不謹慎だろうが、逆に興味がわいてくる。

「……そんなに嫌がられると、逆にどんな奴か見たくなるな。どんな奴なんだ?」

口に出すことについては特に嫌がるそぶりは見せず、椅子に座りなおしたアリアは心底面倒くさそうに肩をすくめて口を開いた。

「そうね、まずは死ぬほどウザい。自分が強いなんて勘違いして、強いからお前が従うのは当然~だなんてエラそうな口きいてくるのよ」

うわぁ、それはウザい。絶対友達になりたくないタイプだな。

「あとは脳筋なところ。なんでもかんでも暴力で解決しようとするのよ。一回それで襲われかけて、ぶん殴って気絶させたら逆上された」

「げ……そりゃまた面倒な」

同情するしかない。脳筋といえば昔の俺の友達にもいたが、あいつはそんな理不尽働かなかったような気がする。というか働いてたら速効縁切ってるか。

「あとは汗臭くてむさい。ゴリラみたいな体系して、汗だらけの体で引っ付いて来ようとするんだからたまったもんじゃないわよ」

それは男でもいやだ。というか、そんな奴に婚約迫られてるとか本当にアリアがいたたまれなくなる。他人の愚痴を聞いてやるような性分じゃないが、今回ばかりは聞いてあげたくもなるというものだ。

心の底からアリアに同情していると、不意にギルドの入り口を見やったアリアが「げっ」と表情をこわばらせた。何事かと体を傾けてそちらを見やると同時に、アリアがはぁーとため息をつく。

「……あいつよ、あいつ。あなたも冒険者なら、知ってるんじゃない?」

その言葉の通り、俺は視界に入った大男のことを知っていた。いや、知っていたなんてもんじゃない。この街に来た初日にケンカを売られた相手だ、忘れないわけがない。

「――――ここにいたのかアリアアァ!!このケイン様から逃げるとはどういう了見だ、えぇ?」

そう、あの鉄槌のケインザコキャラが、ギルドの入り口で仁王立ちをしてアリアを見据えていた。その瞳は怒りに燃え、額には青筋が浮き立っている。

なるほど、あいつがアリアの婚約者だったわけか。あれが相手じゃ、確かに嫌になるのもうなずける。実際面倒極まりない性格してるからなぁ、あいつは。

そんな俺の軽蔑の目線に、闖入者であるケインは気づくそぶりも見せずにのしのしとアリアへつめよる。椅子から立ち上がりつつ、アリアもケインをにらみつけた。

「誰がついてきてほしいなんて言ったかしら?アタシがどこに行こうが勝手じゃないの」

「黙りな!お前は俺の物なんだから、おとなしく従っておけばいいんだよ。おら、行くぞ!」

言うが先か、ケインのごっつい手がアリアの細い腕を乱暴につかんで引っ張りよせる。体格的にも全くかなわないアリアも抵抗するが、さすがに焼け石に水だろう。そう考えて、俺はケインのプレートメイルの首元を引っ張って静止させる。

「っ……ンだよテメェ!」と、烈火のごとき燃える怒りに満ちた目でケインがにらみつけてくるが、個人的には全く怖くない。というか頑張って威圧感を出しているように見えてむしろ微笑ましい。もっとも、周りの人間はその威圧感にたじろいでいるらしいが。

「離してやれよ、嫌がってるだろうが!」

こちらもガンを飛ばして応戦する。が、ケインは一度負けた相手だということを忘れているかのように俺を怒鳴りつける。というか実際忘れてるんじゃなかろうか。

「うっせぇんだよ!お前みたいな部外者がくちをだすんじゃねえっつの!」

「この子は俺と話をしてたんだ!それこそお前には関係ないことだし、まず用事があるんならそれが終わってからにしろっての!」

相手に話が通用しないのはすでに分かっているので、今回はこちらも初めからけんか腰だ。相手も見事に突っかかってきてくれたので、今回は早く終わりそうな気がする。

「黙ってろ!こいつは俺の持ち物なんだよ、用事がどうこうなんて問題じゃねぇ!」

「なっ……あんた、人を道具にしないでちょうだい!誰がいつあんたの持ち物になったのよ!」

「最初っからだろうが!お前は俺に言ったよな、『生涯をかけてあなたに尽くします』だのなんだの!」

「バッカじゃないの!?いうわけないでしょうがこの勘違い自己中バカ低能脳筋糞マッチョゴリラ型湯沸かし器!!」

頭から湯気が出るんじゃないかと思うぐらいの勢いで、アリアがすごい剣幕でケインに罵倒を浴びせかけるが、当のケインはどこ吹く風だ。腕を組んでアリアに詰め寄り、血走った眼で睨みつける。

「うるさいんだよチビ!俺が言ってるんだからお前も言ってるんだよ、頭イカレてんのか!」

なんという超理論。こりゃもう絡むのも面倒くさくなってきた。手早く決めるとしようかな。そう考えて、俺の背に逃げ込んできたアリアにアイコンタクトをとる。案の定「やっちまえ」のジェスチャーが返ってきたので、快く吹っ飛ばさせてもらうとしようかな。

いまだ文句を垂れ続ける――もう面倒くさいので内容は聞いてないけど、たぶんアリアに関することだろう――ケインの腹に、おもむろに開いた手を軽く押し当てる。何をしているのかを怪訝な目で見つめるケインは放っておいて、俺は目を閉じてぐっと力を込めた。

瞬間、魔力素子が周辺から一気に集められ、凝縮し、ベクトルを合わせて手のひらから放出される。ボッ!というえらい音が響いたかと思うと、次の一瞬にはケインの体が遠く――ギルドの入り口を突き抜けて、向かいの家の塀あたりまで吹っ飛んでいた。静かに目を開けて深呼吸し、一言口ずさむ。

「必殺――『魔弾発勁マダンハッケイ』」

この技は、中国武術である「発勁はっけい」に着想を得て俺が編み出した技だ。はっけいの「一転に力を集めて、そこから相手に気の力を伝える」という技術――といっても本で読んだだけのにわか知識だが――を魔力素子で実践し、結果として今のような高い威力を発揮させることに成功させたのだ。もっとも、本当に魔力素子を放出してその衝撃でぶっとばしているので、厳密には発勁そのものとは違うわけだが。

とにもかくにも、ケインは退散させることができたのだった。いや、退散というよりは強制排除というほうが適切かもしれないが。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ