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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter4 襲いくる脅威
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第28話 猛き騎士との戦い 前編

ひとつルゥが天へといなないて、直後に急発進した。俺はルゥの手綱に、後ろのサラは俺の服をつかみ、振り落とされないように踏ん張る。

後ろからは、俺たちを叩き落とさんと騎乗ゴブリンたちが迫ってきていた。だが、数にして4匹ほどのその軍勢は、まったくもって恐れるに足らない。なぜならば、こちらには射撃の名手が同伴しているからだ。

期待通り、背中のほうから矢を放った風切り音が鳴る。ちらりと後ろを確認してみると、まさかの二枚抜きを達成していた。冒険者になったのは俺よりも後なのに、なんなんだろうかこの差は。ちょっとヘコんでもいいかな。

だが、そうする暇は迫ってきた騎士、ことノルンが許さない。その手には騎兵用の大槍を携え、ルゥの横腹を貫かんと突撃してくる。

「ちっ!」

刹那、俺はとっさに素手で衝撃波を放った。騎手である俺にも遠距離攻撃手段があったとは考えていなかったらしく、舌打ちしたようなそぶりを見せるとゆるやかに反転、攻撃を軽くかわしてさらに騎乗ゴブリンをけしかけてきた。だが、後ろにいた4匹はすでに全滅している。サラが片づけてくれたのだ。ありがたいと思いながら、俺はルゥに指示を飛ばす。

「ゴブリンたちの真横につけてくれ!」

指令を受け取ったルゥが、返答代わりに緩やかなカーブでゴブリンたちへと迫る。この分だとすれ違う形になるが、逆に好都合だ。

「――イーリスブレイド!」

瞬間、俺の手には幾何学きかがく模様とともに切り札、イーリスブレイドが握られる。普段から風の宝珠ばかり使っているのだが、今回は火力と範囲、どちらも必要だ。そう考え――後の話だが、そもそも風でも十二分に火力があったんじゃないかと思った――、今回は新たに追加されていた深紅色に輝く宝玉――炎の宝珠をはめ込み、展開の念を送る。すぐにイーリスブレイドは形を成し、その先端からは燃え盛るような紅蓮の刃が形成された。驚いたことに、風の剣を出したときと同じようにわずかながら熱が放出されている。これなら!

「どりゃあぁッ!!」

咆哮一発、俺はイーリスブレイドを横なぎに振りぬいた。その一瞬で刀身は無数の糸へとほどけ、ふわりと舞い、そして風の時と違い、その糸たちが再度収束。直後に膨張して、刀身は揺らめく巨大な炎の塊と化した。その炎は瞬時に突撃を開始し、向かってきていた騎乗ゴブリンを触れたそばから燃やし、焼き尽くし、すべてを灰燼かいじんに帰していく。

何匹か切り倒せればいいと思っていたのだが、想像を軽く凌駕した威力だった。自分でやったことに唖然としつつも、気を取り直してノルンへと接近する。

「ち……スターメ・バトク=ワルクー、『広き風の砲弾ワイド・ストームバスター』!」

先ほどの攻撃を危惧したのか、ノルンの掌中からは無数の風の砲弾が飛来する。あたるのはまずいと本能的に知っているらしいルゥが右へ左へ跳躍、疾駆を繰り返し、指示もしないうちに気づけばノルンの真横につけていた。普段からただの馬ではないとは考えていたが、まさかここまでの機動力と判断力を持っているとは。しかも、それだけ派手に動いても俺たちを振り落とすなどという事態は起こらなかった。体表の文様といい、本当に謎だ。だが、今はそれについて考えている場合ではない。

「おおぉぉっ!!」

裂帛の気合いとともに放った突きは、しかしノルンが持つ騎兵槍ランスにはじかれた。続けざまに二度、三度突きを繰り出すが、さすがというべきか一発もノルンにとおることはなかった。舌打ちとともに少し離れると、今度は向こうから騎兵槍の鋭い切っ先が飛来する。慌てつつもイーリスブレイドを盾にしてはじき、これ以上の接近戦は無意味と踏んで俺はすばやく、ノルンはゆっくりと、互いに距離を取り合う。

「だぁっ!」

直後、眼前に飛来していた風の砲弾を、イーリスブレイドの代わりに引き抜いていた剣で相殺ブレイクする。ゴーシュから教わった素子コーティングだ。だが、いまだにその成功率は安定していない。今でこそたまたま成功し、風の砲弾を眼前で相殺ブレイクさせることができたが、二度三度同じ幸運が続くかどうか――ならば、先手を打つ!

「ブルセイ・ワズル=ファトナ!」

突き出した剣の切っ先から、お返しと言わんばかりに光の砲弾ブライトバスターを発射する。が、さすがにこちらが魔法を使えることは読めていたらしい。わずかに上体を前に倒し、後頭部すれすれを砲弾にかすめさせるという高等技術を披露したのだ。さすがに、四天王とか名乗ることはあるな――なんて考えていると、騎乗ゴブリンたちの第二陣がやってきていたのを確認する。

ノルン自身の攻撃はなかなかに苛烈だ。その証拠に、先刻の風の砲弾をよけきったルゥはわずかに息を荒げている。このまま問答を続けていれば、いずれ体力的にも数的にも劣るこちらが不利になるのは自明の理。ならば、できるだけ短時間で勝負を決めたい。できることならばこのゴブリンたちを掃討したのち、すぐにでもケリをつけられるのが理想的だ。だが、相手はそれを許してくれるほど甘くはないはず。

考えろ。遠くに逃れてしまった敵を討つには、どうすれば――!

「ギキィィッ!」

「ち――!」

思考する暇は与えてくれないようだ。やむなく思考を切り上げて、接近していた騎乗ゴブリンの腹を薙ぎ戦力を削ぐ。反対側にいたやつにはもう一本の剣の柄頭を打ち込みイノシシから落としてやり、その勢いのまま衝撃波を発動、レンジ外にいたゴブリンを切り伏せる。

ちらりとサラのほうを見ると、後続のゴブリンどもをスキルか何かでまとめて粉砕していた。つくづく恐ろしい威力だ――なんてことを考えていると、いつの間にか周囲のゴブリンたちは全滅していた。もともと数が少なかったのもあるかもしれないが、それでも接近のチャンスはできた。

見ると、ノルンが仮面の下からこちらを睨みつけているのがわかる。その眼力を真正面から受け止めてやり、俺はルゥを加速させた――瞬間。

ズパァン!という炸裂音とともに、ルゥの真横の地面が浅く抉れた。何事かとそちらに目を向けた直後、動かした後頭部に重い衝撃が走る。

「ぐぅっ……!?」

危うくルゥから落ちそうになるところを、手綱をひっつかんでどうにかこらえる。不可視の一撃と、間合いが離れていることを鑑みるに、ノルンから風属性のスキル、ないしは無属性魔法アビリティを撃ち込まれたとみるのが妥当か。だが、風系の魔力素子には発光を隠ぺいするような力はないはずだ。ならばアビリティかと考えるが、あれを発動するにもそもそも詠唱が必要だ。消去法で考えるならばスキル技というのが妥当なはずだが――考えても答えは浮かばない。直接殴って確かめるのが手っ取り早い!

「ルゥ、再接近!今度はよける必要はない!」

いなないたルゥから肯定の意を受け取り、俺は再度イーリスブレイドを展開。今度は風の宝珠をセットし、念を込めて刀身を生み出す。その刀身をすぐに糸状にほどき、ルゥと俺たちの周りにまとわせれば、風の障壁の完成だ。イメージ次第で何でもできるこの剣、便利すぎる。いっそそのまま大砲みたいにして使おうかと思ったが、あの素早さだとよけられるのが落ちだ。それに、今は障壁を作って相手の攻撃をいなすほうが効率がいい。

事実、ノルンは自信が放った風の砲弾が思うようにヒットせず、忌々しげにこちらを睨んでいる。この分ならばじきに近接戦闘にもつれ込めるだろう――と考えている間に、ゆっくりとカーブしたノルンの馬が蹄鉄を鳴らしてこちらへと突撃してきていた。風障壁を解除してこちらも抜刀し、突撃する。

「だああぁぁぁッ!!」

「ぜええぇぇぇい!!」

剣士と騎士の方向が、平野に重なってこだました。直後にギィィン!という甲高い金属音を打ち鳴らしながら、ノルンの騎兵槍と俺の剣が交錯する。火花を散らしながら互いの得物は停止し、わずかに焦げたような匂いが鼻につく。重い金属槍を片腕で受け止めるのは結構難儀なので、そそくさとその槍を滑り落とした。あちらも力を入れていたらしく、面白いように体勢を崩してくれた――いまだ!

音高くイーリスブレイドを振り上げるのと同時に、ノルンが嗤う。何事かと思ったが、すでに遅かった。気づいた時には――イーリスブレイドが、俺の手中から離れていたのだから。

「な――――!?」

驚愕に目を見開き、そちらを振り向くと、魔力素子の奔流となって消滅していくイーリスブレイドが見えた。俺の体内に戻ってくるのだが、今はそれを再び展開している暇はない。なにせ、ノルンの大槍が俺の体を貫かんと迫ってきていたのだ。が――

「グレイラ・バトク=ファトナ!」

その大槍は、あわやというところで飛来した土の砲弾アースバスターによってはじかれ、俺の肩口の布を切り裂くだけに終わった。大槍をつかんで相手からひっぺがしつつ、土の弾丸が飛来した方角を見ると、出所は真後ろで叫んだサラだったらしい。しょうがないなぁ、とでも言いたげな顔で肩を

竦めつつ、背後から迫っていた騎乗ゴブリンに向き直る。よくもまぁ後ろを気にしながら俺の援護をできたな、なんて悠長に考えていると、いつの間にかノルンが遠くへと対比していた。その手に握られていた槍は俺が奪い取ったのでフリーハンドかと思ったのだが、馬の胴に取り付けられていた武器ハンガーから細身の槍を取り出してきた。形状からすれば歩兵が扱うものだが、簡素な作りに反してその重厚さは俺の手中にある大槍さえも凌駕するやもしれない。おそらくこちらの騎兵槍は囮であり、本命の武器はあのロングスピアなようだ。頭上で風車のようにぐるぐる回転させ、脇に抱えるように構えると同時に相手の馬がいななき、緩やかな弧を描いて接近を図ってきた。何をするつもりかと思いつつ相手の動きを注視している間、ぐんぐんと相手は迫ってくる。もしや、本当の領分は集団戦でも遠距離戦でもなく、あのロングスピアを使った近接攻撃――!?

「ぐっ!」

とっさに、俺は手に収まっていた騎兵槍を装備してルゥを走らせる。槍に関しては、相手が持っているようなロングスピアの扱い方をちっちゃいころに習っていた――父さんに護身術として、剣道と一緒に教えられていたのだ。もっとも、剣道に関しては数週間で音を上げたので基本的には槍のほうが得意なのだが、どうしてこっちで剣を選んだのかは今でも疑問だ――のだが、今持っている槍は俺の知る槍とは勝手が違う。騎兵による突撃ランスチャージのために作られたともいえる円錐形の刀身は、薙ぐことこそできるがロングスピアのように振り回すことはかなわない。そもそもの用途が違うので当たり前なのかもしれないが、それを今言っても詮無きことだ。今は、使えるものを使う!

「だあぁっ!!」

気合を迸らせながら突き出したランスの切っ先は空を切ったが、相手の軌道をそらすことができた。それて旋回するノルンの背後を取り、そこから今度は魔法を放って追撃を仕掛ける。さきほどとは逆の立場だ。俺が追いかけて、ノルンがその攻撃をいなす。

――先ほどからのぶつかり合いで、俺の頭の中には一つだけ、勝てる方法が浮かんでいた。だがそれは、一度しかないチャンスで決め手となる攻撃を回避されれば、疲労、集中力、士気、その他もろもろを欠き、敗北の決定打ともなる危険な賭けだ。それでも、つばぜり合いしながらジリ貧するよりはいくらかましだろう。最悪、そこからイーリスブレイドでごり押したらどうにか勝てるかもしれないが、それをするのは仲間たちの安全を考慮しない時だ。だから、今は封印する。

「……サラ、ゴブリンたちのほうはいい。あいつの攻撃か、馬の足を止められないか?」

ちらりと後ろを見やり、サラに向けて確認をとる。今回の作戦はサラの協力が不可欠なので要請をしたのだが、うまくいくか――。

「何か作戦があるのね。……わかったわ、拘束時間は短いけど、いいかしら?」

「ああ、3秒止まれば御の字だ。……いいか、あいつに向けて正面を向いたところで、俺がしゃがんで射線を作る。できるなら馬を頼む」

それだけ言い、今度は俺がゴブリンたちを引き付ける作業に入った。サラは攻撃のために準備があるので、必然的に俺が攻撃をさばき、反撃のチャンスを生み出さなければならない。再度抜刀した両手の剣で衝撃波を次々繰り出しながら、俺はノルンの方角をうかがって攻撃のチャンスを待つ。慎重に、慎重に。相手の一挙一動を子細漏らさず、すべてを推し量るように観察する。狙うは、防ぐことのできない真横!

はたして、そのチャンスがやってきた。ノルンがこちらに腹を見せ、反転しようとしたのだ。

「ルゥ!」

瞬間、俺は無意識にルゥへと言葉を飛ばす。同時に体をかがめてサラの射線を作り、続く動作への準備をしておく。

「――『バリケード・アロー』!」

直後、サラの弓から高速で放たれた弓が、ノルンの進路目の前に着弾。そこから土を隆起させ、巨大な壁となってノルンの行く手を遮る。

「むっ……!?」

くぐもった声を出して馬を停止させるが、壁ができたのはまさに目と鼻の先だ。当然よけられるはずもなく、馬はその壁に頭から突っ込んで盛大にのけぞった。衝撃と慣性によってノルンが投げ出された直後、俺は右手に握るランスを――投げる。

「だああぁぁぁぁぁっ!!」

槍投げの要領で投げられたランスは、回転することも軌道をそれることもなく、まっすぐに馬の横腹に突き刺さった。

どうにか成功したらしい。先ほどからノルンの動きは早かったのだが、一瞬――すなわちカーブの時のみ、慣性制御を行っていないのかほかに比べて緩慢な動作を行っていた。そこを狙ったのである。

一つ天高くいなないたノルンの馬が、その横腹に刺さった大槍を赤く染めながら大地に伏した。結果的に殺してしまうことになったが、それでも敗北よりはましな結末だ。そっと瞑目しつつ、俺はノルンのほうを見る。

「……あれ?」

いない。先ほど馬から振り落とされて、強かに背中を打ち付けて倒れていたはずのノルンの姿が、そこになかったのだ。慌てて周囲を見回すと、ノルンの姿ははるか遠く――大地の神殿への入り口である洞窟の前にあった。いつの間にあの距離を駆け抜けたんだ?!

こちらを見据えるノルンは、ふんと一つ大仰なしぐさを見せると、神殿の中へと消えていった。まさか精霊を倒しに行くようなことはしないだろうし、おそらくはこちらの妨害のために立てこもるつもりなのだろう。ならば、相手の準備が整う前に叩くのが得策だ。

周囲を見回してゴーシュとカノンの無事を確認し、そちらへと向かう。二人は二人で大量の騎乗ゴブリンを駆逐していたようで、その周りにはボロ雑巾のように転がるゴブリンの死体が乱雑に散らばっていた。いつかの森の中の風景のおかげで耐性はついているが、やっぱり見ていて気持ちいいものではない。早めに目をそらそうと思いながら、ゴーシュたちのもとに駆け付ける。

「見てたぜタクト、なかなかいい判断だった」

「ん……あぁ、ありがと。けど、まだノルンそのものを倒したわけじゃない」

軽いほめ言葉に会釈しつつ、俺は大地の神殿に続く洞窟を見やる。今頃、ノルンは最深部までたどり着いているのだろうか。

だが、負けるわけにはいかない。ここで負けるようじゃ、魔王なんて存在を倒すことはかなわない――!

「行こう。ノルンを倒すんだ!」

声高く宣言し、俺たちは洞窟へと歩を進める。

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