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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter1 些細な始まり
3/79

第1話 放り出されました

「まてコラアァァァッ!!いったい俺が何したってんだよおぉおぉ!」

異世界にたどり着き、俺が初めてあげた声が――今の一言だった。そのまま俺を今この場所――――お城と思しき場所の門の外まで引きずってきた「甲冑の騎士」につかみかかる。が、さすがに中学生が大人の腕力にかなうはずもなく、「黙れ!」の一言とともに蹴り飛ばされてしまった。

――――チクショウ、なんだよこの仕打ち。

なんで俺が「城から放り出されなきゃならないんだ」!



***



それが数分前の出来事だとは、にわかに信じがたかった。



俺は、期待と憧れに胸を膨らませ、勇者召喚のために出現した(と思われる)魔方陣に飛び込んだ。そこまではいい。

だが、次に視界を埋め尽くした大量の騎士たちと、その前に立っていた大臣と思しき人物から飛んできた言葉はただ一言。「消えろ」という、シンプル極まりない「いらない子宣言」だった。

訳も分からず当惑していると、騎士団長と思しき銀の甲冑の騎士――冒頭で俺をけっ飛ばしたやつのことだ――に首根っこをつかまれ、必死の抗議むなしく城門の前まで引きずり出され、舗装された地べたにポイ捨てされて、冒頭に至る。



「けほっ……オイ、待てよ騎士ナイトさん!なんでこんなことされなきゃいけねぇんだ!」

硬い鎧の靴――確かグリーヴだったっけ――に蹴られたところを痛みで抑えつつ、俺は一つ吼える。いまだ、俺が置かれた境遇がどういうものなのかがわからない。召喚された勇者であるはずなのに、なんでポイ捨てなんて仕打ちを受けなきゃいけないんだよ!?

だが、俺の疑問をぶつけられた騎士はどこ吹く風だ。そのまま門をくぐり、二度と通れぬように門を閉めようとさえした。慌てて門をくぐろうとしたが、門番である二人の男に槍で羽交い絞めにされてしまう。

「うるさいぞ『非選抜者』!わがアレグリア王家に楯突こうものなら、容赦せんぞ!」

「ごうっ……!?」

そのまま身動きの取れない状態から、鋼鉄でできたと思しき籠手こて――ガントレットが、俺の頬を殴り飛ばした。衝撃で槍の拘束から外れて地面に転がされ、激痛に顔をしかめる。

「ふざ…………けんじゃねぇよッ!何だか知らねぇが、元の世界に返しやがれ!!」

痛む頬を抑えながらも、俺は立ち上がって抗議する。必要ない存在だっていうんなら、せめて元の世界に返せと吼えるが、再度飛んできた門番のガントレットが、今度こそ俺を地面にはいつくばらせた。

「周辺住民の迷惑なんだよ!わかったらとっとと失せろや!」

そのまま、地面に伏した体制から腹をけり上げられ、俺は背後にあった階段から転げ落ちる途中、意識を手放した。

――――なんで、こんな目に合わなきゃいけないんだという、怨嗟えんさの響きを引き連れながら。



***



「…………い……っづ、あぁっ……」

どのくらい気絶していたのだろうか。

俺は、全身をのたうち回る激痛に、半強制的に意識を引きもどされた。痛む全身がただならぬ状態であることをぼんやりと近くしながら、かすむ視界をどうにか見開く。

「…………?」

そこは、俺の想像と180度違う光景だった。

てっきり階段を転がされた状態のまま放置されて、次に視界に移るのはバカ正直な青空だと思っていたのだが、俺の視界を埋め尽くしたのは木でできた天井だった。

誰かに助けられたのだろうか?そうだとしても、王家に「必要ない」と言われて蹴り飛ばされた俺を、どうして助けたのか――。

「……知らない天井だ」

とりあえず、落ち着くためにそんなことを口走ってみた。うん、やっぱり知らない場所で目を覚ましたら言わないとね。

――とかいうのんびりした思考にふけっている場合ではないことを思い出して、ひとつはぁと盛大な溜息を吐いたと同時に、扉の開く音。そちら――足の方向にあった扉が開いた音だったようだ――に顔を向けると、そこにいたのは

いかにも人の好さそうなおばさん。

誇張じゃない。健康的に、豊かに張り出したほお肉――おかめと言ったらいいのか――はうっすら朱が差しており、俺が起きていることに気づいて柔和に細められた眉尻と、顔全体で作られた安堵の笑みが、冗談抜きでいい人なのを強調していた。

そんな柔和なおばさん、改め奥さんは、俺に向けてやさしい笑みを浮かべる。

「気が付いたんですねぇ。もしかしたらと思いましたが……なにかあったんですか?」

ああよかった、見た目に騙されるバカに成り下がってはなかったらしい。安堵のため息を胸中ではきつつ、ともかくは疑問を解消するために、自己紹介といきさつを話し始めた。





「……やはり、そうでしたか」

俺の話を聞き終えた奥さんこと、ミリアと名乗った女性は、しかし沈痛な面持ちで考え込み始めた。――――まるで、伝えることを避けるかのように。

「何か知ってるなら聞かせてほしいです。……傷つくだろうとか、そんな遠慮しなくてもいいんで」

けり落とされたことで、俺の頭はすっかり冷めていた。ここが異世界だということでさえ、ただの現実だというくらいにしか感じていないあたり、さっきの出来事がよっぽどショックだったんだろう。

自己分析して苦笑を漏らしていると、ミリアが閉ざしていた口を開いた。

「……いつからかしらねぇ。実は、貴方のような目にあった人間は、あなた以外にもたくさんいるのよ」

冒頭から語られたのは、俺の予想からはるかに外れたものだった。てっきり俺が最初に捨てられた勇者もどきだと思っていたので、仲間がいたのかと無意識にほっとしてしまう。

「この『アレグリア王国』はね、いつか復活すると予見されていた魔王を倒すため、勇者召喚のための術式を組み立てていたの。

でも勇者召喚のための術式は完成にはいたらず、術式ができる前に結局魔王は復活。やむなく召喚の儀式をり行うけど、不完全な術式では不完全な勇者……こう言ってしまってはアレだけど、勇者ではない人間しか呼び起さなかったの」

「…………」

沈黙だけを返していると、ミリアがすこし申し訳なさそうな表情になる。慌てて続けてくださいと促すと、苦笑気味にミリアの話は再開された。

「そうして、何人かの不完全な勇者……王家の人や街付きの騎士さんは『非選抜者プリテンダー』って呼んでるわね。その人たちを召喚した後、あることに気が付いたの。……それに気づかなければどれだけよかったか」

そうやって話すミリアの表情は、まるで召喚された勇者たち全員を見てきたかのような、悲壮な顔だった。

「……王家の人々は、召喚を行えば行うほど、召喚の術式が完成していくことに気が付いたの、といえば、貴方はわかってしまうかしら」

「…………――――まさ、か」

呆然とする俺のつぶやきに、ミリアは申し訳なさそうに目をそらした。そのまま、再度口を開く。

「ええ、王家の人たちは術式を完成させるため、ひと月に一度は勇者候補として人を召喚しているわ。……あなたも、おそらくはそれに巻き込まれたらしいわ」

ミリアの宣言に、宣告に、俺はひそかに絶望した。

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