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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter4 襲いくる脅威
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第22話 ゆったり港町

「ついたーっ!」

レヴァンテとの決戦、炎の大精霊フレイとの邂逅など、色々あった日から早くも一週間が過ぎていた。

その間俺は渡航手段を見つけ、渡航費用を稼いで船に乗り込み、4日間の長旅の末にようやく海の向こうの港町「ハーメルン」へと到着したのである。

船旅では海賊に襲われたり、クラーケンに襲われるようなこともなく、実に平和に過ぎていったので暇でしょうがなかった。いやまぁ、そんな頻繁に襲撃やらされても困るんだけど。

ともかくは一つ目の目的である渡海を終えた俺たちは、数日ほどハーメルンで休息をとることになったのだった。



「……ほぉー、でかいなここは」

そんな俺たちは現在、町のメインストリートで開催されている市場へとやってきていた。理由は、新しい武器の調達である。

船旅に出る前、とあるクエストを受けていたところ、場違いに強いやつ――具体的に言えば出るはずないアラクネだった――に遭遇してしまい、重なった戦闘の末に俺の剣が二本とも折れてしまうという非常事態に陥ってしまったのだ。その時はイーリスブレイドで事なきを得たものの、今後あの強力な武器を乱用するのもどうかと思って新しく武器を買おう、という結論に至った――のはよかったのだが、あいにくとセルビスにはめったに武器商人が訪れないらしく――言われてみれば街中で出会った商人もゼックぐらいしかいなかった――、調達ができないままの渡航となってしまい、今に至る。

セルビスで武器が売られていなかった分、このハーメルンではそちら方面の品ぞろえが充実しているらしく、そこかしこで武具屋の看板が立っていた。その中から手頃そうな店を見つけて、品ぞろえを確認してみる。

「……兄ちゃん、得物は何だい?」

と、入ってすぐに店主らしき寡黙そうな男性に声をかけられた。二刀流使いであり、道中で武器を破壊されたことを告げると、ふむとうなった男性がワゴンの奥から長剣を二つとりだし、俺に見せてくれる。

「……オーレという鉱物から作られた剣だ。鉄より多少切れ味は落ちるが、強度だけならミスリルに比肩するぞ」

ファンタジーでも有名なミスリルと並ぶ強度となるとかなりのものだろう。事実、見せてもらったその剣には不思議な光沢が備わっており、いかにも硬そうな感じを醸し出していた。言うまでもなく、実用に耐えうる剣。

「頂きます。いくらですか?」

「……二本合わせて3800Gだ。多少はまけてやれるが、どうする」

ふむ、この世界の商人はたくましい。冒険者に味を占めさせるのがうまい、というべきか。

結局3500Gまでおまけしてもらい店を出ると、すぐ近くにカノンたちの姿が見えた。なにやらその方向に人だかりができている。

「ゴーシュ、何があったんだ?」

手でひさしを作って覗き込んでいるゴーシュは、そちらの方向を見ながら俺に状況を教えてくれた。

「何だか知らんが、有名な踊り子が来てるらしくってな。男連中が皆してこっちに来るせいで、この先の防具屋にいけなくて困ってるんだ」

「そりゃ災難だな……ゴーシュはその踊り子っての、知ってるのか?」

「いや、知らんな。だからさっさとどいてほしいところなんだが」

「ごもっとも」

男二人、やれやれと肩を落として苦笑しあう。

ちなみにカノンとサラはこういう噂に弱いらしく、先ほどからあちらこちらで見れないかと探していたらしい。



ようやく波が引いて買い物を再開させることができ、俺たちはつれ立って商店街をぶらぶらしていた。用事は済んだので宿でゆっくりしようとしていたが、暇つぶしの手段がなかったことから現在は散歩中がてら店の見物中である。その間、カノンとサラはガールズトークを盛り上がらせて、その辺にあるアクセサリーショップを物色していた。構わずにすむのはいい――元の世界でで面倒くさい女子が友人だったのでさんざっぱら振り回された記憶がある――のだが、男二人ではいささかトークの内容にもかける。

「……そういや、ゴーシュってどうして旅に出たんだ?」

そんなことを考えていると、ふいに隣を歩いている銀髪オールバックの男のことが気になってきた。相手も暇しているようだったので、ここぞと言わんばかりに聞いてみる。

「俺か?……うーん、なんて言えばいいかなぁ」

そのままうんうんとうなっていたゴーシュだったが、やがて整理ができたらしく小さくうなずいて話を始めた。

「俺はな、じいちゃんに憧れて冒険者になったんだ。じいちゃんは有名な冒険者でな、強力なドラゴンだとかデビルだとかもぶっとばして、巷で黄色い声援を浴びてたってよく自慢されてたんだよ」

「……やっぱ憧れるんだな、そういうのに」

「当たり前だ。冒険談が嫌いな男なんて、この世界にはほとんどいねぇよ。……でまぁ、じいちゃんの背中を格好よく思った俺は、じいちゃんを真似して近くのブタやらイノシシやらを狩ってきてたんだ。今思えば、あの時の動きのひどさったらなかったぜ」

そうだ。今でこそ俺を軽く捻れる腕前を持つこの男だって、昔はまだまだよわっちい時代があったんだ。そこから努力を重ねて、彼は実力を身に着けた。それは簡単なことではないけど、誰にでもできること。

「――俺もなれるかな、勇者に」

正直、あのとき――フレイと出会ったあの時に言われた、魔王討伐に協力できるかという自信はまだない。確かに力をもらって、少しずつだけど着実に強くなってきているのは事実だ。だが、本当に――

「ああ、なれると思うぞ。……誰だって最初はヒヨっ子さ。これからじっくり経験を積んで力を磨いて、強くなっていけばいいんだ」

俺が聞きたいことを言ってくれた。聞きたかった答えを、言ってくれた。

――そう、誰だって最初は素人。どこまで伸びるかは、自分次第。

「ゴーシュー、ちょっと見てー?」

「……悪い、行ってくる」

「ああ」

サラに呼ばれて歩いていく男の背中を見つめながら、静かに決意する。やれることをやるだけだ。



三人と別れた直後、すぐ横で開いていた露店の中にいた、髭もじゃの中年男性が声をかけてくる。

「おい兄ちゃん、あんた旅人かい?」

「え?あ、はいそうですけど……」

反応した以上無視するわけにはいかない。店に近づいて看板を見てみると、そこに書いてあったのは「馬売ります」の文字。

「そうかそうかぁ。この先に行くんなら徒歩じゃあきつい。よかったら、うちで馬を買っていかないかい?」

なるほど、足を求めている冒険者のためにここで馬を売っているわけだ。確かにこの先の砂漠を抜けるためには、早い足を持つに越したことはない。乗らないにしても荷物を積み込むこともできるし、移動手段としても運搬手段としても役に立ってくれるのはうれしいはずだ。

俺もちょうど、砂漠の移動手段として馬を欲していた。都合がいいので、テントの中に入って馬を見る。売られていたのは、よくあるサラブレッド――競馬なんかに用いられるような、しっかりした体躯の馬だ。隅のほうでは小さな子供の馬も販売されているので、用途に合わせて購入方法を変えることができるらしい。

そういえば、この世界の馬は俺の世界のものと少々勝手が違うようで、なんでも何かを運ぶことが大好きなのだという。しかも人の言葉を理解し、ある程度の意思疎通が可能なのだという。となると接し方も違うのかなぁ……なんてことを考えながら一匹一匹見ていると、不意に不思議な光景が目に留まった。「んぁ?」というすっとんきょうな声を出してしまいながら、視線を戻して確認する。

一瞬、龍の鱗らしきものが見えたのだ。だがよくよく見てみると、どうやら龍みたいな模様を持った馬だったらしい。小屋の隅っこで座り込み、おびえたような表情でこちらを見ている。何かあったのだろうかと考える前に、一緒に小屋に入ってきていた男性が解説してくれた。

「兄ちゃん、あいつが気になるのかい。……あいつはあんな派手な模様のおかげで、群れの仲間から追放されちまったみたいでな。しょうがなくうちで引き取ったんだが、あの模様のせいで買い手がつかないんだよ」

いわゆるいじめや差別の類だろう。他者と少し違う部分があるだけで仲間と認識されないというのは、どんな種族にもあるのだろう。

自分のことではないのに、無性に悲しくなるのはなぜだろうか。あのおびえた瞳が、俺の心にそういう感情を持たせてくれるのだろうか――。

「……あの子、いくらですか?」

無意識に、そんな言葉が出ていた。放っておきたくないという感情が、俺の心を動かす。

「そうだなぁ……かれこれ半年は買い手がついてないからな、うちも引き取ってくれるならまけさせてもらうよ。12000Gでどうだ」

「いっ……」

予想よりも一桁高かった。いや、セルビスでの小遣い稼ぎのおかげで買うことはできるのだが、何分全財産ギリギリを消費してしまうことになる。そんなことになったらこの町の宿に滞在することもできないし、食事にも困ることになる。まけてもらおうにも向こうだって商売なんだし、かといってあの馬を放置しておきたくはないし――悩みどころだ。

「まぁ、あと少しくらいならまけてやれる。10000Gならどうだ?」

まだ行けたのか。先に言ってほしかったが、こっちのほうが太っ腹だと思い込ませられるあたりこの人もしたたかである。

「なら、それでお願いします」

「毎度!先払いでお願いするよー」

2000G残っていれば、切り詰めていけば2週間ほどの滞在が可能なはずだ。資金面の問題は解決できたので、快く購入することを決めた。

「それじゃ、こいつに名前を付けてやってくれ。そのあとに所有権を移譲する」

「名前、かぁ……うーん」

馬に名前って言ったらディープインパクトとかそのあたりしか思いつかないんだけどなぁ。競馬関連の知識は俺にはないし。

いや、というかそもそもそういう名前じゃなくてもいいんじゃなかろうか。そうなると、あの外見に似合った名前を付けてやりたい。

でも龍模様の馬ってどんな名前付ければいいんだ?ドラグーン……は竜騎兵だし、ナイツロード……は呼びにくいなぁ。もうちょっとシンプルな名前はないか?龍模様、龍、リュー……。

「――じゃあ、そいつの名前は『ルゥ』でお願いします」

自分で考えておいてなんだけど、安直だなぁ。まぁ、呼びやすいしかわいげのある顔――模様はともかくとして――なんだから似合うだろう。ちょうどその龍模様の馬――ルゥを連れてきた男性が、どうしたのか面白いものを見つけたような顔をしていた。

「兄ちゃん、いいネーミングセンスしてるねぇ。……そんじゃ、所有権を移譲する。左腕を出してくれ」

いわれるまま左手を出すと、男性がどこからか筆のようなものを取り出し、手の甲に模様を描き始めた。くすぐったい感触をこらえつつ、男性の話に聞き入る。

「知ってると思うが、馬は賢い生き物でな。飼い主の命令やお願い事を、律儀に聞いてくれるんだ。そりゃまあ最初は警戒されるかもしれないが、そのうちがっちりとかたーい絆で結ばれるから安心しな。……あぁそれと、これも常識だけど馬は人や物を運ぶのが大好きだ。なるべく運搬役をやらせてやれば、こいつも喜ぶかもな」

その話が終わると同時に、筆が手の甲から離れた。描かれた魔法陣のような紋章が一度強く瞬くと、次の瞬間には何事もなかったように魔方陣は消滅していた。おそらく、見えないだけでちゃんと存在しているのだろう。そうじゃないとこんなことをする意味がない。

「そんじゃ、こいつはお前さんのものだ。仲良くしてやれよ!」

にかっと笑う男性に背中を押されながら、俺はルゥの正面に立つ。

――よくよく考えたら馬と触れ合うなんて初めてだ。嫌われないかなと考えつつも、俺はおそるおそる手を伸ばす。

ルゥは、まだおびえたような表情をしていた。もしかすると俺のこわばった笑みが原因なのかと思うが、どうしようもないんだからしょうがない。何事も初体験の時は緊張するものだ。戦闘にしろ初対面同士の会話にしろ、それは変わらないのである――と自分に言い聞かせながら、そっと、壊れ物に触れるかのように、俺の手がルゥに触れた。びくり、とルゥが体をこわばらせるが、暴れたりパニックになるようなことは起こらない。第一段階はクリアしたと考えながら、今度は両手をルゥの顔に添える。こちらに敵意がないことを認識してくれたのか、今度はこわばることもなく目を閉じて受け入れてくれた。

「……これからよろしくな、ルゥ」

フルル、とルゥが小さくいななく。意思の疎通ができたことを、改めて実感した。そのままかっぽかっぽと歩いてきたかと思うと、ルゥがその鮮やかな模様に包まれた体を俺に擦り付けてきた。一瞬びっくりしてしまったが、一種のスキンシップなのだろう。素直に受け入れる。甘えたいのかなぁと考えながら馬屋の男性に目を向けると――口を開けてこちらを凝視していた。何かおかしいところでもあったのかと聞く前に、感心した声色で男性が話しかけてくる。

「……いやぁー、こいつぁたまげた。今まで何十人と蹴っ飛ばしてきたその馬が、まさか自分からなつくとはね。兄ちゃん、なんか才能でももってるんじゃないか?」

「え……いやいや、そんなことないです。ただ、ルゥが甘えてきてくれただけですよ」

とはいうが、確かにルゥは警戒心が高そうなきらいはあるな。カノンたちに合わせても大丈夫かなぁと思いつつも店を出ようとしたとき、男性に呼び止められる。何事かと振り向くと同時に、小さな袋が放り投げられた。慌ててキャッチすると、じゃらりという感触が中身を知らせてくれる。

「いいもん見せてくれたお礼だ。はした金だけど、とっときな」

それだけ言うと、男性は笑いながら店の奥へと引っ込んでしまった。お礼も言わせてくれないのか。



結局、連れて帰ったルゥにカノンたちも驚いていたが、最終的にはルゥもカノンたちも、まとめて仲良くなっていた。



***



宿に帰ってきたのはとっぷり日が暮れてからだった。もう少しいろいろ見て回りたかったのだが、踊り子の見物人連中のせいで大幅に遅れたのはなかなか痛い。まぁ、あちらは俺たちの邪魔をしている気なんてないのだろうが。

「あー、疲れたぁ……人だかりってのはどうも苦手だ」

こきこきと肩を鳴らしながらベッドに座り込むゴーシュが、疲れからか同室の俺にぼやく。俺も疲れたので早く寝たい。

「そうだタクト、もう少し後で温泉に行かないか?」

「え、温泉?」

唐突にゴーシュの口から出てきた、懐かしい言葉の響きに思わず俺は身を乗り出す。

「ああ。この辺は『ハウトストーン』っていう熱を持った石がよく取れるらしくってな。そいつの熱を利用して湯を沸かしているらしいんだ。その辺の宿屋よりもよっぽど大きいらしくってな、すこーしばかり気になるんだよ。どうだ、こないか?」

「ん……行きたいけど、なぁー」

正直、なにかイヤなフラグが立っているような気がしないでもない。例えば、手違いでゴーシュが女湯のとこに入ったりとか、いっそ混浴で気まずい雰囲気になったりとか。いや、混浴ならそれはそれでうれしいんだけど。

「よーし決まった、善は急げだ!」

ちょい、俺はまだ行くとは言ってない。というかこの世界の人はなんでこう強引な人が多いんだろう――なんてことを言う猶予もなく、ずるずると引きずられながら部屋を出ていく俺だった。



「ふぁー……」

「うぃー……」

数十分後、何事もなく平和に湯船につかっている俺とゴーシュがいた。ちょうど夕食時であるからか人もおらず、静かな空間で男二人のくつろぐ声がこだまする。尻が少し熱い気もするが、それ以外は日本の温泉と全く同じようなものだ。

頭上に浮かぶ月を見ながら、温かい湯船で羽を伸ばす。澄んだ空に浮かぶ月がエネルギーを暮れているような、不思議な気分だ。

父さんと二人暮らしだった俺は、多くわがままを言わなかったせいかこういうところには来たことがなかった。新鮮な気分になりつつ、ふとあちらの世界を思う。

俺の親友は、浩介こうすけは受験に備えて勉強中だろうか。いつかまた会って、くだらないことで笑いあいたい。

俺の父さんはなにをしているんだろう。仕事で疲れているだろうから、こんな場所に連れて行ってあげたいな。

――向こうの世界で会いたい人は、たくさんいる。だから、俺は――。

帰りたい、のか?

帰らなくても、いいんじゃないのか?

誰かの役に立てるこの世界で、一生を人のためにささげるのも、悪くないんじゃないかと、ふと思った。

けれど、向こうの世界では心配してくれる人たちがいるんだ。せめて一言、無事を伝えたい。けど――。

「……はぁ」

わからない。帰るべきなのか、残るべきなのか。どうしようもできないモヤモヤを吐き出すように、俺は深くため息をついてまた月を見上げる。



どのくらい使っているのかわからなくなったころ、そろそろ頃合いかと思って月から視線を戻す――と同時に、異常に気付いた。

ゴーシュがいないのだ。声をかけられてもいないのに、いつの間にかゴーシュが湯船から消えている。置いて行かれた?それとも本当は声をかけられていて、すでに彼は脱衣所を出た後なのか。あるいは――

嫌な予感がする、とても嫌な予感がする。俺の本能が、全力でこの場から逃げろと警告してくる。だが、うかつに動いてはどんなフラグに巻き込まれるかわかったものではない。タイミングを見計らうのだ!

なんて一人押し問答をやっていたので、背後から接近する腕に気付かなかった。がっしりとホールドされ、一瞬出しかけた声を思わずくぐもらせてしまう。何者だと振り向くと――。

「……タクト、いいもん見つけたんだ。来てくれよ!」

ゴーシュだった。案の定ゴーシュだった。大事なことなのでもう一回言う。ゴーシュだったのである。

割とマジで心臓が飛び出るかと思った。度胸はあると自覚しているけど、こういう不意打ちにはめっぽう弱いのだ。勘弁してほしい。

――いや、それよりも警戒するべきは新しく突っ立ってくれたフラグだ。風呂場で見つけた「いいもの」なんて、数えるほどしかない。

「わ、悪い。俺はそろそろ上がるよ」

「ンなこと言うなよタクトぉー。男のたしなみってやつだ、付き合えよーぉ」

「ヤだよ俺!こんなとこで社会的に死にたくない!」

「つれねぇなぁ!ほら来いよー、一緒に地獄に落ちようぜー……?」

「いーやーだっつってんだろーが!堕ちるんなら一人で落ちろってのォ!」

確かに興味ないわけではないけど――なんて言ったらフルパワーで引きずり込まれるのは目に見えている。俺だって男だけど、その前に良識をわきまえることくらいわかってるのに――つーか、このエロ親父はやたらパワーあるなオイ!

誰もいない露天風呂で、男二人の取っ組み合いは続く。はたから見たらただの力比べだが、俺からしたら社会的な生死の境に立たされていると言っても過言ではない状況なのだ。どうにかして逃れなければならないのだが、気を抜いたら即刻拘束される。かといって増援が来ないのもどうしたものか――

「……何やってんだ、あんたら」

いや、来てくれた。腰にタオルを巻いて、金髪の下に輝く空色の瞳を呆れたように細める青年が、こちらを見ていた。むろん、あきれ顔で。

この際だ、他人でも何でもいいので助けてほしい。そう思いつつ、叫ぶ――その前に。

「よー兄ちゃん、ちょっといいもん見つけたんだ。よかったら……どうだい?」

「ん……なんだよ、いいものって?」

――あぁ神よ。どうしてあなたは俺を見離すのですか。どうして俺を魔道に落とそうとするのですか?



結局、ゴーシュとそれにノッた男性に俺も引きずり込まれることになり、「いいもの」の洗礼を受ける羽目になった。

後日、普通にバレて女性陣――カノンとサラは洗礼の場に居合わせていなかったらしいが――から制裁を頂戴したのは言うまでもない。

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