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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter3 真実は精霊のみぞ知る
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第21話 目的

2014/03/26…「~お主ならこの先を』」から「フレイの言葉に~」内の文章を差し替えました。

お見苦しい文章をお見せしたこと、お詫びいたします。

疲労でけだるい体に鞭打ち、俺と仲間の三人は石橋の先にあった神殿へとやってきていた。ここには普通の人もよく参拝にくるらしく、簡単な立札には「帰還用」と書いてあり、その下には魔法陣が置かれている。まぁ、この山を往復しろというのも酷な話だし、あの細い道では往来が不便なはずだ。そう考えれば、妥当な処置だといえる。

目当ての場所はここで間違いないらしい。念のため二人――ゴーシュとサラに確認したが、ちゃんと合っていた。ここまで来て炎の大精霊がいないとか言われたら冗談抜きでここブッ壊してやりたい。

『――しばらくぶりの客人だな。こちらへ来い』

まぁ、そんな推測も杞憂に終わってくれたようだ。目の前では、夢の中で見た影と同じ形をした龍が、こちらを見据えている。

「……あんたが炎の大精霊か」

『そうだ。名は「フレイ」と言う。遠路はるばるご苦労だったな、タクト・カドミヤ。風の大精霊から話は聞いているぞ』

あの馬――じゃない、ウィンが話を通していてくれたのはありがたかった。まぁ、準備がなければないで風の宝珠を見せればよかったのだが、手間が省けてくれて助かる。いつか再開したらお礼言わないと。

『……炎の宝珠を渡す前に、お主たちに話したいことがある。付き合ってはくれまいか』

おや、てっきりすぐに渡してくれるかと思ったら違うのか。まぁ急ぐ旅路でもないので、聞くことにしようかな。了承の意を示すと、フレイはかたじけないと苦笑していた。

『どこから話すべきかな。まずは――うむ』と少しの間ぶつぶつ呟いて――すごくオッサンくさい――、フレイは話を始める。

『お主たち、今この世界の現状についてはどこまで知っている?』

この質問には、最年長らしくゴーシュが応えてくれた。

「たしか今、勇者が封印したはずの魔王が復活して暴れてるって聞いています。それ以外には、特に何も」

ふむ、と呟き、次にフレイから飛び出た言葉は、にわかにここにいるメンバー(俺除く)を驚愕させた。

『……彼奴は封印から脱出し、この世界の最南端に存在する「封呪の島」に立て籠もっている。奴は、世界征服を再開するつもりだ』

三人が口々に、信じられないといった声色で声を上げた。俺に関しては事情が呑み込めなかったが、一応「魔王が復活して世界征服しようとしてる」

と脳内で要約し、どうにか納得しておいた。

「どういうことですか?!魔王は確か、およそ100年前に勇者カインによって封印されたって……」

そう反応したのはカノンだ。本から得た知識なのか一般常識かは知らないが、ともかく彼女はその勇者――カインという人物について知っているらしい。

『確かに、奴はカインによって封印された。およそ100年前…正確には94年前か。奴が力を取り戻したとは思えんが、万一の可能性がある』

俺を除く仲間たちは、みなその言葉が信じられないという風な表情だった。無理もない、絶対出てこないはずの奴が、何らかの方法で出てきたのだから。それも、鍵をかけたドアなんて生易しいものじゃなく、何重にも重ねた鋼鉄の壁に大穴を開けて出てきたぐらいのレベルだろう。

改めて考えると、その魔王がこの世界にとっての脅威なら、つまるところ平穏に冒険したいという俺の脅威にもなる。それを誰かが倒しに行けば世界は平和になるわけで――――。

「……え、まさか」

『ほう、察しがいいな。……その通りだタクト・カドミヤ。お前にはわれら六精霊と共に、魔王討滅に協力してほしいのだ』

やっぱり来たかこういうパターン。異世界トリップの物語ではもはや王道な展開だが、俺にはひとつ引っかかる部分があった。

「なら、アレグリアのクソ王家が呼び出した勇者を使えばいいじゃないですか。以前の勇者が使った剣を使えば、再封印もできるんじゃ?」

俺の提案を、しかし龍は首を振って否定する。

『「封印」では、いつまた結界を破って出てくるかもわからない。完全に危険の芽を摘むためには、やつを「討滅」する必要があるのだ。そのための逸材を探し始めていたのだが……ウィンの奴は、目ざといようだな』

その言葉は、俺の中に眠る過去の英雄の血に対していっていることなのだろうか?

――それなら。

「……残念だけど、俺はあんたたちが期待してるほどすごい奴じゃない。今でも油断すりゃ森イノシシに尻つつかれて跳ね回ってるのに、そんな奴に世界の問題任せるなんてどうかしてるよ」

半分は、願望だった。どうして俺がそんなことに巻き込まれなきゃならないんだ。俺は、ただどさくさに紛れてこっちにきただけの凡人だ。

もう半分は、理屈。こんなに弱い奴に世界を任せるなんて、本当にどうかしている。

――どうして。

『……これは推測になるが』というフレイの言葉は、先ほどまでの威厳ある言葉とは打って変わって、申し訳なさそうな、悲壮な声色だった。

『我ら六精霊は、大精霊の力をその身に宿してなお耐えられる人材を探していた。その際に、探知のための特殊なエネルギーを作動させていた。そのエネルギーが、何らかの力を介して「外の世界」に漏れていた、といえば……分かるだろう、お主ならこの先を』

「…………つまり、俺は……『戦うために』呼び出された……?」

いや。

いや、考えてみれば妥当な答えだ。たとえあのクソ王家が引き起こした偶然だったとしても、この事象はまさしく、六精霊たちにはチャンス。

自分たちの力を受け止めて、なお戦えるだけの人材を探すのは、この世界だけでは骨が折れるはずだ。だがあの王家が執り行った勇者召喚の儀で、

捜索できる範囲は異世界までことになる。

――そしてその中から、俺という器が選ばれた。

「……なんで俺なんだ」

『それは我らにもわからない。ただ、お主が我らの力を受け止め切ることができる存在であることは確かだ』

事実だから。戦えるから。俺はここにいる。現に俺は、自分でも不可能と思えた戦いを――レヴァンテとの決闘を、勝ち抜くことができた。

むろん、それがただの偶然であり、次にであった敵にあっさり負けてしまう、ということも否定はできない。すべては、俺の技量次第なのだから。

というか、そんなずぶの素人に才能が備わっているということがすでにイレギュラーなんじゃなかろうか。訓練すればいいと言われてしまえば

それまでだが、それでも微妙な疑問が残る。

「……ほんと、なんで俺なんだよ」

『さぁ、な。だが少なくとも――我らはお主に期待している。それだけは、忘れないでくれ』

大精霊に期待されてしまうとは心苦しい。

だが、よくよく考えてみれば、今現在この世界は復活した魔王との戦いを控えているのだ。そう考えると、技量不足で器量不足な俺を

頼りたくなるのもわかる気がする。するのだが……本当に、戦えるのだろうか。

一般的に考えてみれば、魔王という存在は冒険者のはるか上をいく強さを持っているのが普通だ。そしてそれに対抗するには、勇者――あるいは

それに比肩する力を持った人間が必要なのがお約束である。

「――あ、そういえばこれって……」

ふと思い出し、俺はイーリスブレイドを掌中から取り出した。ウィンのおかげですんなり話が通ったので、すっかり見せるのを忘れていたのである。

ちらりと確認したフレイが、満足げにうなずいた。

『うむ。間違いなくわれらの力の結晶だな。……お主、なんと名づけていたかな?』

「えと、イーリスブレイド。……やっぱりこれも、魔王に対抗するための?」

帰ってきた答えは、肯定だった。

『そうなるな。闇の大精霊の話では、使い方によれば勇者の剣を凌駕する、とも言われている』

マジか。そうなると俺って、結構どころかえらいレベルで幸運なんじゃなかろうか。いやでも、本物の大精霊様から加護をもらった剣と

本物かすらわからない勇者の剣を比べるのが無粋なのか?うーん、悩みどこだ。

しかし、そうなるといよいよもって俺の存在理由は「魔王を討伐すること」となってくる。むろん居場所があるのはうれしいのだが、もう少し

のんびりしていたかった。

「――――わかった。やれるだけのことはやってみせる」

断る理由は存在しなかった。もともと勇者召喚でこっちに来たんだから、本懐を成し遂げられるならそれもまた本望ってやつだ。

『感謝するぞ。……おぬしには、われら六精霊が加護を与えることになっている。こちらへ来い』

フレイの言葉に従って一歩前に進み出ると、俺の周囲を魔力素子が吹き荒れる。さながら、星の海の中にいるような幻想的な光景が、ひと時俺の目に映りこんでいた。

やがて俺を取り巻く魔力素子の風が吹き止んだかと思うと、魔力素子が再び一転に集まり、はじける。そこから現れたのは、新円の形をとって紅蓮色に輝く宝玉――「炎の宝珠」だった。俺がイーリスブレイドをかざすと、宝珠は音もなく空中を滑りくぼみの一つ――刀身に一番近いところにはめ込まれる。

『ここからならば、一番近いのは大地の大精霊の住処だ。南の海の向こうになるが、それでも北のアーテミス大山脈を越えるよりははるかにマシなはずだ』

フレイの言葉とともに、どこからか紙切れ――地図が飛んできた。手に取って確かめてみると、セルビスの町から海を通り、南の大陸に向かって光が伸びていく。光が到達した先は――「ハーメルン」という町だった。規模からみるに、セルビスと同じような港の小さな町なのだろう。

そしてそこを貫いて、広大な地域を光が貫いていく。書いていた文字は――砂漠。

砂漠を渡ることになるのか。そう考えてちらりと北の山脈――アーテミス大山脈を見て、さっさとあきらめた。砂漠並にでかい山脈とかアリかよ。

光はまだ続き、砂漠を超えたところにある町「アルネイト公国」という場所を通って、その先の平原地帯で停止した。

『その平原にたたずんでいる神殿が、大地の大精霊の居城だ。話は私とウィンから通しておく、気兼ねなく尋ねるがいい』

「ありがと」

短く返事を返し、俺は地図に食い入る。海を渡ることはともかくとして、目下の問題は砂漠の移動手段だ。

ラクダか馬がいるならばそれに頼るに越したことはないのだが――いや、ここで考えても詮無きことか。

『燃ゆる炎が、お主を守らんことを』という言葉とともに、その場は締めくくられた。

――正直、まだ実感はわかない。

けどそれが俺のやるべきことなら、

俺にできることなら、

やるだけだ。



***



「……はい、確認いたしました。それでは特別支給金となります。お受け取りください」

四苦八苦してセルビスまで帰ってきた俺たちは、ギルドにて山賊を撃退したことを知らせていた。確認が取れたらしく、ギルドの受付さんが特別手当の小袋をもって戻ってくる。

「それと、間接的ながらギルドからの依頼を達成した扱いになりますので、ギルドよりランクアップの手続きを行わせていただきます。皆様のカードを交換しますので、提出をお願いします」

が、こちらは予想外だった。三人とともにカードを出すと、受付の人が引っ込んですぐに戻ってくる。帰ってきたカードに書かれていた文字は、DからCに変わっていた。同じように、カノンとサラはEからD、ゴーシュはBからAへとランクアップしている。

というかゴーシュはCどころの話じゃなかったのか。Bっていうとレヴァンテに負けてきたあの人と同じランクだったのだから、彼に任せればそのうち解決していたのかもしれない。

ともかくは用事を終えて、現在俺たちは祝勝会という名の食事を行っていた。テーブルに並べられた料理にありがたくありついている間、ふとゴーシュが話しかけてくる。

「タクト、出発はいつにする予定なんだ?」

「ん……まだわからない。渡航費用もどのくらいかかるかわからないし、しばらくはここで資金集めかな」

そうか、とつぶやいて、ゴーシュは考えるような態勢に入った。なんとなく、飛んでくる言葉がわかるのは気のせいだろうか。

「……よし、タクト。俺たちにも手伝わせてくれないか?」

「一応理由を聞きたい」

ほーらやっぱり仲間入りフラグだった。その言葉を見越していた俺は、念のために二人に理由の説明を求める。

この戦いは、ほとんど俺個人に押し付けられたものであり、俺が望んだものだ。ゆえに、むやみに人を巻き込むわけにはいかない。

「強いて言えば、成り行きだ。……あの場所に居合わせて、あの話を聞いたのは偶然だ。けど、聞いちまった以上は俺たちにも戦う権利があるはずだ。それに、お前を見ているとどうも危なっかしく思えて、な」

ゴーシュは、俺の心配をしてくれているのだろうか。たしかに今日の行いを見られて、心配にならないほうがおかしいだろう。

――もし嫌気がさしたら降りてもらえばいい。そう考えて、こくりとうなずいた。

「……わかった。頼りにさせてもらうよ」

「おう。サラ、お前はどうする?」

話題はサラに移るが、彼女もまた即答する。

「私もついていくわ。まだ、ゴーシュに恩を返してないから」

恩というのがなんなのか気になったが、余計な詮索はしないでおく。



こうして俺の旅に、新しい仲間が増えたのだった。

この時の俺はまだ、これから長い付き合いになることになるとは知らずに。

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