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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter3 真実は精霊のみぞ知る
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第18話 燃え盛る地へ

「急患だ、道をあけてくれー!」

ベースインプとその親玉たちを倒し、無事に討伐を証明するためのパーツ――ベースインプは小さいので腕か足が好ましい――を回収した俺たちは、現在セルビスの冒険者ギルドへとやってきていた。

丸テーブルに座ってゴーシュたちと健闘をたたえあい、軽食を終えて談笑をしているとき、その声は突然響き渡ったのだ。

ギルドの入り口がにわかに騒がしくなり、次いで大柄な男性に抱えられた冒険者らしき人間が担ぎ込まれてくる。人だかりが左右に割れて見えた担がれた冒険者は、ひどいありさまだった。

右目、右腕、無くなった左手、腹、左足。いたるところに、冒険者を蝕むかのように包帯が巻かれている。一部からは、いまだに赤いシミが広がってきているのが遠目でも確認できた。

様相から見れば、包帯だらけの冒険者は俺よりも一回り上のランクにいそうな格好だった。が、彼の身を守っていたはずのプレートメイルは、今やめちゃくちゃに四散するただの鉄くずと化している。いったい、どれほどの攻撃を食らったらあんなことになるのか――と戦慄する。

息をつめてその光景を見ていると、不意に隣に座っていたゴーシュが立ち上がって一人の冒険者に声をかけた。

「シエロ、あれは何があったんだ?」

「ん……あぁゴーシュさん。実はね、あいつは最近よく噂になる『ヴォルケス火山』に調査に行っていた奴らしいんだ」

「――ヴォルケス火山?」と、聞こえない程度に小さくつぶやいたのは俺だった。どこかで聞いたことのある名前だと考えて、すぐに思い出す。記憶が正しいなら、ヴォルケス火山はウィン――風の大精霊から聞いた、炎の大精霊が住んでいると言われている場所だ。同時に、行く当てもない俺の次の目的地でもあるそこで何があったのかは、ゴーシュと話している男性から聞くことができた。

「ヴォルケス火山って言ったら、中堅用の実戦訓練のスポットだろう?あいつ、Cランクはくだらなさそうだが……」

「それが、最近はおかしいんだとさ。なんでも、大精霊さまの場所に通じる道で、えらい強い山賊が表れているらしいんだよ。オレも参拝に行こうと思ったのに、特別警戒令が出されてるせいで近づけやしねぇ」

つまり、瀕死の大けがを負った彼は、その山賊と戦った結果あの怪我を負ったのだろう。横でカノンやサラが軽く戦慄しているが、俺にはなぜか闘志が満ち溢れていた。

どうして、怖いと感じないのだろうか。それとも、これはただの慢心であり、増長した結果なのだろうか。考えてみるが、理由はわからない。

――確かなのは、俺がヴォルケス火山に向かわなければならないこと。そして、その山賊と相対し、討ち倒さねばならないこと。

「ゴーシュ」

ひとつ決意を込めて、俺は話し込んでいたゴーシュに声をかけた。直後、どこから悟ったのかゴーシュの真剣な表情が、声が、俺に帰ってくる。

「……正気の沙汰じゃあない。さっき担ぎ込まれたあいつはBランクの冒険者。お前さんに目的があって行くんだとしても、危険すぎる」

わかりきっていた返答だ。というかそもそも、勝てる気なんて元からしていない。

だが、秘策はある。精霊の大剣を使用すれば、撃退まではいかなくとも死ぬまでに傷を与えることはできるだろう。結局死ぬこと前提だが、誰もいかずにあのまま放置されるよりは、はるかにいい。

「――――カノンを頼みます」

それだけ告げて、俺はゴーシュにつかまる前にギルドから飛び出た。後ろからゴーシュの叫ぶ声が聞こえるが、気にしない。カノンを置いて行ってしまうのは心残りだが、それでも俺の勝手な都合に巻き込むよりは遥かにマシだ。

この街に来た時に、ヴォルケス火山の場所は不穏な噂――近づかないほうがいいという忠告とともに聞いている。その言葉通りに、俺は町の東――レビー山脈が続く場所の一角にある、ひときわ高い山を目指して歩き始めた。



***



ヴォルケス火山まではそう遠い道のりではなく、一時間ほど歩き続けているとすぐに到着した。火山そのものは休火山であるらしく、噴火などの心配はないもののその中では灼熱のマグマが煮えたぎっている危険地帯だ。同時に、この過酷な環境に適応した魔物はどいつも屈強で、ギルドで聞いた言葉通り、中堅の冒険者にとっていい練習場所であるらしい。

そんなところに現れた、場違いな強さを誇る謎の山賊。心当たりはなくもなかったが、あいつがこんなところに足を運んでいるとは考えにくい。そもそもあいつは集団戦が得意なので、ここにいるたった一人の盗賊とは違うはずだ。そう考えて、参拝道と示された洞窟へと足を向ける。



何が待ち構えていようと、やることは変わらない。

全力を出して、戦うだけだ。


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