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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter3 真実は精霊のみぞ知る
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第16話 潮風の港町

「おーい、見えてきたぞタクト、カノン。あれがセルビスだ!」

「「おぉーっ!」」

あの後、霧の中を脱出した俺は、はるか先で停止していたゼックとカノンを見つけた。霧を吹き飛ばしておいたおかげか二人とも幻から逃れることができていたらしく、突然襲い掛かられるようなことは起こらなかったのは幸いである。

むろん、二人に背負っているもの――幻の中で大精霊から頂戴した「精霊の大剣」についても言及された。されたのだが、この武器がどういう経緯で俺の手に渡ったのか以外は、まったくわからないというのが現状だ。ひとつ確証を持って言えることは、この武器はとんでもない力を秘めている、という事実。強烈な切れ味と、繰り手の意思に合わせて柔軟に変わる姿。ふたつの要素を持って、今の俺ではかないそうになかったミストレックスをあっさり切り伏せたのも、また事実だ。

そんなことを二人に話すと、事情を理解してくれたらしくそれ以上は追及しないでいてくれた。根掘り葉掘り聞かれるのが嫌いなので感謝しつつ、ともかくはゼック――と同じく脱出していたディモルフォセカの護衛にあたっている。

ちなみに、森に突入する前に俺に突っかかってきた冒険者の戦士はただいま意気消沈中だ。当人にはとても聞けたものじゃないのでディモルフォセカに聞いてみると、どうやらあっさり幻に騙されたことがよっぽど悔しかったようだ。護衛業もほったらかして、馬車のなかで一人ふてくされている。本業どうしたと言ってやりたいが、相手の現状と性格を鑑みるに確実に小競り合いが起きそうなのでとりあえず自粛しておいた。いらぬ争いで疲れるのも嫌だし、そこまでする義理は俺にない。せめてもの追い討ちにディモルフォセカへと減給を提案したら速攻で了承されたので、そっちは放っておくことにした。



なんやかんやありつつも、俺たちとディモルフォセカの一行は一人の犠牲者を出すこともなく、セラ森林を抜けて目的地である「セルビス」へと到着したのだった。



***



「よーし、ここまで来たら後は船に乗って出ていくだけだな。お疲れさん、二人とも!」

セルビスの港にほど近いところで、俺とカノンはゼックから報酬をいただいていた。俺にははした金だったが、カノンには気前よく新入荷した短杖をプレゼントしているあたり無性にムカつく。主に優遇度的な意味で。

「……まぁ、こっちこそありがと。おかげで道中退屈しなかったし」

主に目線的な意味でな、と軽く軽蔑の目線を込めてゼックを見つめるが、当の本人はどこ吹く風だ。

「気にするなってもんよ!んじゃお二人さん、旅を楽しめよーっ」

その言葉を最後に、ゼックは馬車に乗って港のほうに歩いて行った。

彼から聞いた話では、今日の夕方に出る便で対岸の大陸へと渡るそうだ。そうなると、これから先再開することはないかもしれない。そもそも、俺とゼックの道は違う。やろうと思えば彼についていくこともできるのだが、俺には俺の――精一杯旅を楽しむという一つの目的がある。ゆえに、行商を重視する彼と道が被ることは少ないだろう。

もう少し何か話してから別れるべきかと考えつつ、俺はゼックが去った方角を見つめていた。

――よく考えたら、あのエロ親父に話もちかけたら何があるかわかったもんじゃないな。ならあれくらいで正解か。カノンのためにも。



「さて、と。これからどうするかー」

ゼックと別れて数分後、俺とカノンはつれ立って町の大通りを歩いていた。何かめぼしいものがあるかと思ったが、特に何もないのは驚きだった。珍しいものといえば、ここではだいたい毎日開催しているらしい魚市場くらいかもしれない。そろそろ冒険者ギルドに到着するかという頃合いに、ようやくカノンが口を開く。

「ねぇ、タクト君。もし迷惑じゃなかったら、腕試しに付き合ってほしいんだけど……いいかな?」

「腕試し?」

おうむ返しに聞き返した俺に、カノンは丁寧に説明してくれる。

いわく、彼女にとってはまだまだ魔法も技術も未熟であり、この辺一帯の魔物でどのくらい自分の力が通用するか調べたいということらしい。

そういえば、この辺の魔物に関しては俺もまだ知識を持ち合わせていない。彼女の特訓と俺の情報収集が一度に行われるならば一石二鳥だと考えて、快く了承した。どのみちギルドは目の前だし、ついでだから金策も兼ねておこうと考えつつ、俺はギルドの扉を開ける。

内部のつくりは、やはりというかなんというか、アレグリアやレブルクのギルドとは趣が違った。丸テーブルとそれを囲む背もたれつきの椅子は、どことなく創作小説に出てくるような酒場を連想させてくれる。

これまたアレグリアの閑散とした雰囲気とは違い――レブルクの町のギルドはカノンに付き合うためだけに行ったので正直内装を覚えていない――、昼間にもかかわらず内部は随分とにぎわっていた。まるで宴会のごとくどんちゃん騒いでる連中もいるが、あれは特別なものだろう。とりあえず無視しておいて、俺と香音はクエストが張り出されている「依頼掲示板」に向かった。

この依頼掲示板は、依頼を出したい人がギルドのカウンターに依頼を申し込んで張られた、いわゆる「クエスト」が張り出されている。内容に関しては実にギルド――傭兵らしく、行方不明になった子犬の捜索から強力な魔物の討伐、ゼックなどをはじめとした旅路の護衛に、はては盗賊団の撲滅以来など、かなり多岐にわたっていることが多い。

むろん、普通の冒険者のための依頼もあまた寄せられている。めぼしいものを見つけて、俺はその紙を掲示板から引き抜いた。依頼内容は「セルビス郊外に出没する『ベースインプ』の討伐」。これならカノンの練習になるだろうと考え、踵を返してカウンターに歩く。

「兄ちゃん、ちょっといいか?」

何者かが肩に手を置いたのは、その時だった。若干身をすくませつつも、声からしておそらく男性であろう、その手の主を視界に収める。

そこにいたのは予想通り、中年の男性であった。照明で輝くオールバックの髪は、ややくすんだ鋼鉄のような銀色。好奇心にあふれる少年のような瞳は、コハクのように透き通った茶色をしており、その精悍な顔立ちにすこしの幼さを与えている。身を包む防具は、白いプレートと黄色い装飾で彩られた、ファンタジー臭あふれる代物だ。正直中年なこの人には似合わないと感じるが、どうにもうまいこと収まっているような気がしてならない。背中に背負われた斧槍ハルバードの傷み具合は、この男性をベテランの冒険者と裏付けていた。

「……なんですか?」

とはいえ、この人が俺に話しかけてきた目的はいまだ不明だ。見た目の印象からして絶対に悪い人ではないだろうが、疑うに越したことはない。若干訝しんで向き直りつつ、男性に向けて一言問いかける。疑われた当の本人は、印象通りいたって快活に笑っていた。

「いやぁ、お前さんに取ろうと思ってたクエストを取られちまってな。少し、交渉を持ち掛けようと思ったんだよ」

とられた、ということは、彼はこのクエスト――ベースインプの討伐依頼を狙っていたのだろうか。それにしては掲示板に張り付いていた様子もなく、かといって内容を知っていたかのようなそぶりもない。変な人だと思いつつも、彼に言われた一言が気になって聞き返す。

「交渉、ってなんですか?一応、このクエストは俺らが先にとったんですけど……」

「あぁ、百も承知さ。ただ、ちょっとばかり突き合わせてほしいと思ってるんだ」

付き合う、というのはいったいどういうことだろうかと理解が遅れ、数秒してようやく「クエストに同行させてほしい」という意味だと悟った。

しかし、どういう風の吹き回しだろうか。このクエストはDランクのクエスト――つまり新米を脱却し、初心者になった冒険者のためのクエストだ。だが、目の前に立つ男性はどう見てもCランクはくだらなさそうな様相を見せている。明らかに裏があると思って若干身構えていると、こちらの様子に気づいたらしいカノンが近寄ってきた。ある意味助け舟になった彼女の来訪を利用して、こちらの意図を伝える。

「俺たちは、情報収集と特訓を兼ねてこの依頼を受けるんです。こういうのは失礼かもですが、あなたが受けるにはこのクエストは割に合わないかと」

すこしだけとげのある言い方で相手を引き下がらせようと思ったが、男性はからからと笑うだけだ。

「だったらちょうどいい。……おいサラ、兄ちゃんたちが誤解してるんだ。早く顔見せてやれ」

「でも……」

「ほらほら、挨拶は基本だって教えたろ?」

俺の疑問は、男性が背後から出した人影で霧散する。

出てきたのは、俺とはすこし年の差がありそうな女性だった。新緑色をしたつやのある髪の毛はポニーテールにしてまとめられ、その下の顔におさまった瞳はあざやかな空色。緑の糸で編まれたらしい服の上に、簡素なブレストアーマーと肩当てを装着しているその服装から、彼女はおそらく弓使いかそのあたりだろう。黄土色のスカートから延びる足は華奢で、とてもではないが肉弾戦に長けているような風貌ではなかった。怯えたような、沈んでいるような表情から、彼女が新米の冒険者であることは容易にわかる。つまりこの男性は、彼女の特訓のためにこのクエストを受けようとしていたのだろう。納得していると、見計らったように男性が口を開く。

「兄ちゃんは察してくれたみたいだな。……つーわけで、譲れとは言わない。こいつのために、同行させてくれないか?」

その提案を、断ろうかどうか一瞬悩んだ。お世辞にも魅力的だとはいいがたい提案である以上、応じる義理はない。

はずだったが。

「……わかりました。俺らと一緒でいいなら」

その時どうして了承したのかは、わからない。だが、相手が笑ってくれたので、それでいいと感じていたのは、事実だ。

「助かる!……っと、自己紹介がまだだったな。俺は『ゴーシュ・ヴァイスハイト』。見ての通り重戦士ベルセルクさ。で、こっちが相棒の『サラ・サージティリス』。職業はアーチャーだ。よろしくな兄ちゃん!」

にかっと、親友に笑いかけるような明るい笑みが、少し残っていた不安を跡形もなく消し飛ばしてくれた。差し出された手を握り返し、こちらも名乗る。

「俺はタクト・カドミヤで、こっちは仲間のカノン・プリム。……えーっと、よろしく、ゴーシュさん」

「呼び捨てで構わないさ。よろしく頼んだぞタクト!」

男二人、がっちりと握手を交わす。

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