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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter3 真実は精霊のみぞ知る
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第14話 夢か現か

「……ん?」

気が付くと、俺は椅子に座っていた。目の前には、仕事に行くためにスーツ姿になって食事を始めている父さんがいる。

「どうした、拓斗?早く食べないと、全部片づけてしまうぞ」

「あ……あぁっ、それは勘弁!」

子供のように無邪気に笑う父さんにせかされつつ、俺は慌てて箸をとる。そこで、ふと何かに気が付いた。

――俺は、何をしている?

確か俺は今、カノンやゼックとともに森を――――。

「ほら、手が止まってるぞ。腹減ってないのか?」

「い、いやそんなこと……」

だが、話しかけてきた父さんの言葉でその思考は打ち切られて霧散した。小さく首をかしげつつも、とりあえずは鳴いてる腹を黙らせるために皿の上のおかずを口に運ぶ。



俺、こと角宮拓斗の家は、いわゆる父子家庭だ。母親は物心がつく前、交通事故によって他界し、しばらくは父さんの両親のもとで住ませてもらい、3年前――俺が中学に進学すると同時に、父さんの仕事の都合で引っ越してきた。

貧乏でもなければ裕福でもない、どこにでもある当り前な家庭だったが、俺はそれが気に入っていた。父さんはなんだかんだと俺にやさしくしてくれるし、時々祖父母――父さんの両親が遊びに来てくれるので、退屈しない。

仕事のせいで父さんとはあまり長い時間を過ごせないが、それでも俺は満足だった。

「ごちそーさま」

「お粗末様。洗い物は頼むぞ」

「へーい」

父さんの分の食器もまとめて台所へ運び、スポンジに洗剤をつけて洗う。二人暮らしになった時から、家の洗い物は俺が一手に引き受けているのだ。ほかにも風呂場、トイレの掃除など洗浄系は俺の、洗濯やゴミ出しなどは父さんの仕事だ。

二人分の食器はそこまでかさばるほどの量ではなく、洗い物はすぐに終わる。いまどきは食器洗い乾燥機があって当たり前なのだが、電気代がもったいないという父さんの持論からうちでは使っていない。

洗い物を済ませてリビングに戻った俺は、ふとテレビを見やった。

≪……次のニュースです。先月22日に失踪した少年の行方はいまだつかめておらず、警察は捜索範囲を拡大するとの方針を発表しました。

行方不明になった少年は当時下校中とみられており、失踪時の服装は北原中学校の制服だったと思われます……≫

北原中といえば、俺が通っている中学のことだ。最近は近くで何も起きていないと思っていたら、まさか一か月前から行方不明者が出ているとは。

物騒なこともあるなと考えていると、不意に後ろのほうで物音がした。衣擦れの音からして、父さんだろう。

「もう行くの?」

「ああ、今日は早めに帰ってこれると思うから、久しぶりに鍋でもしよう」

「わかった。気を付けてね」

カレンダーを見ると、今日は土曜日だ。学校に行かなくてもいいことを思い出しつつ父さんを見送りながら、一日をどう過ごそうか考える。



***



「暇だー」

意味もなく自室のベッドでごろごろと転がりつつ、意味もなく独り言をつぶやく。人は暇になると意味のない行動をとるとかどこかで聞いた気がするが、あながち間違いでもないのかもしれない――なんてことを考えていると、不意に携帯が着信音を鳴らした。

手に取ってみてみると、どうやら友人からの着信だったようだ。そういえば最近遊んでないなと考えつつ、通話を開始する。

「ちーっす、どしたまことー?」

≪久しぶりぃー。拓斗、今日の午後から遊べるか?≫

「ん、おーいけるぞー。誰か来るのか?」

ゆう義一よしかずならくるぞー。拓斗も来る?≫

「いくいくー。んじゃ、一時からでいい?」

≪OKー。んじゃまた昼に≫

「またなー」

短い会話を終えて、通話を切る。人付き合いも決して多いほうでない俺は、電話をする時もSNSをする時もいつだって短い話だけだ。これが俺らしいんだと思う反面、もうちょっと人付き合い増やしたほうがいいのかなと思いつつベッドに寝転がる。

――人、付き合い?そういえば、俺はだれかに付き合ってどこかを進んでいたような……。

「――――っ!?」

突然、何かに射抜かれるような感覚を覚えて、素早くベッドの上で構える。とっさに周囲を見回すが、怪しいものは存在しなかった。

……思い違いか。そう思って座ろうとしたその時、ふと違和感を覚える。

今の俺の行動は、なんだ?この反射神経は、いったいどこで培った?

疑問を覚えつつもベッドに寝転んで、とりあえずは仮眠でもとることにする。変なことを考えた時は、横になって眠るのが一番だ。



***




「……?」

ふと目が覚めて、何かがいる気配がする。

反射的に目を開けると、目の前に――――真っ白い馬がいた。

白い毛並みの馬、と形容するには、その馬は白すぎる。雪よりも真っ白い毛並みと、生気を感じさせない黒い瞳は、どことなく浮世離れした美しさを、俺に感じさせた。

――――いやまて、というか何こいつ?

ようやくそこまで思考して体を起こすと、妨げにならないように馬がバックした。上体を起こしてまじまじと見つめていると、その馬が不意に「語りかけてきた」。

「……タクト。導かれし存在、タクト・カドミヤ」

「は――な、何を……って、なんでお前しゃべってるんだよ!?」

驚愕とともにとっさに飛び出た突込みは軽くスルーされながら、馬は語り続ける。

「あなたは、この幻の中で果てることは許されない。ゆえに、私はあなたを解放するため、ここにきた」

こいつは、何を言っているんだろうか。幻って、なんのことだ。解放……どこから?

頭の中に湧き出た疑問符に疑問符をつけていると、俺のすぐそばで馬が座り込んだ。

「乗ってください。あなたに、再び戻る術を」

こいつは何がしたいのだろう。疑念を感じつつも、俺はどこか安心するような感覚に包まれていた。

なぜだろうか。この馬からあふれ出している力は、つい最近慣れ親しんだ感覚と、似ている気がする。この感覚は、何のものだったか――。



***



白い馬の背中に乗った俺は、人のいない道を進んでいた。普通ならこの辺りは小学生やら保護者やらがいるのだが、今日は不思議と静かだ。今日は家から出ないつもりだったことも合わせて、この静けさでは逆に何かあったのかと勘ぐってしまう。

そんなことを考えていると、馬は俺が通学路として使っている商店街にやってきた。ここも休日はにぎわっているのだが、今はどの店もシャッターを締め切っている。もう昼前だというのに、空いていないのは不自然だ。

そういえば、この馬は俺の通学路を道なりに進んできている。このまま裏路地もとおって学校に行くつもりじゃ――――。

「……裏、路地?」

何か、引っかかる。裏路地は、なにか目立つようなものはあっただろうか。あったものといえば、ごみ箱とマンホールと、灰色の壁と――。

「つきましたよ、タクト」

馬に促されて、俺は思考の中から引き戻された。同時に、示される方向に向けて勢いよく顔を振り上げ――



どきん、と、心臓が高鳴る音がする。

「――――これ、は」

そうだ。

あの日、この場所には、通常ならあり得ないはずの――あり得るわけがないはずの、「魔方陣」があったのだから。

そして俺の目の前には今、まさしくあの日あの時と同じ魔法陣が、所在なさげに浮かんでいる。まるで、口を開けて俺が入るのを待つかのように。

この魔方陣は、どこにつながっているかを。

俺はこの先で、何をしたかを。

すべて。

「……思い出しましたね」

「ああ。……お前は、助けてくれたんだよな。ありがと」

この世界から――魔障霧が見せる幻覚の中から、俺を引き上げてくれたのは、間違いなく目の前の白い馬だ。礼を言われた馬は、どことなく照れたような雰囲気になりつつも語る。

「お前、ではありません。私は風の大精霊『ウィン』。訳あって、あなたを助けにここへ参りました」

その言葉とともに、馬――精霊ウィンの鼻先で、緑色のライトエフェクトを伴った風が渦を巻く。

「あなたは、自ら望んでこの魔方陣に入り、あの世界……『カイ・ドレクス』にいざなわれたと思っているでしょうが、それは語弊があります」

「は?」

素っ頓狂な俺の言葉はまたしてもスルーされつつ、ウィンは同じように淡々と語り続ける。

「あなたがカイ・ドレクスへと降り立ったのは、必然なのです。古の英雄の血を引くあなたが、そのルーツとなる地へと舞い戻るのは、必然なのです」

古の英雄の血?必然?ルーツとなる地?どういうことだ?

俺は角宮拓斗であり、その生まれは日本。すでにいない祖父母も、同じように日本人だったはずだ。

「あなたの先祖は昔、巨大な剣を携えて迫りくる魔物を両断し続けた豪傑『カルマ・コーナーシュライン』その人です……と言っても、今のあなたにはわからないと思いますが」

わかんねーよ、誰そいつってレベルだし。

とはいうが、つまるところ俺の先祖――祖父母だか曽祖父母だかもっと前だか知らないけど――はあの剣と魔法の世界……カイ・ドレクスの出身で、どうやってか俺たちの世界にわたって子作りして、俺まで代を継いできたということになるということはとりあえず理解した。

ってか、一応帰る方法あるんだな。今も残ってるのかは別として、てっきり二度と戻れないものだと思ってた。

一人納得していると、ウィンが再度口を開いた。同時に鼻先で収束していた風が、バシュンと荘厳な音を立ててはじける。その中から現れたのは、剣の柄みたいな変なアイテムだった。よく見ると、中央に六つの穴が開いている。

「あなたに、われら六精霊の力を結集させた『戦う力』を授けます。この剣は、あなたの闘志と強い意志によって、はじめてその力を顕現させます」

あぁこれ剣なんだ。微妙な反応を返しつつ剣を受け取ると、それは思った以上に重量があった。なにか機械でも積んでるのだろうか?

ともかく、この重量だといつものように二刀流として扱うことは困難だろう。それを察したのか、ウィンがくすと笑う。

「あなたの得意分野は知っていますが、結集させた力の莫大さの都合上、大剣として運用するのが望ましいと思います」

「だろうな。……っと、こりゃ重い」

使えるだろうかと思ったが、いざ構えてみるとその重さが心地よかった。むしろ、遠心力を利用すれば期待以上の威力をたたき出すことも可能なのかもしれない。試し切りしてみたいと思っていると、不意に横にあった魔方陣がちかりと輝いた。

「そろそろ、戻るときです。あなたはあなたの力で、この先の道を開いてください」

ウィンが数歩下がると、再びその鼻先で風が炸裂する。続けて出てきたのは、深い緑色の宝玉のような物体だった。

「この『風の宝珠』を持って行ってください。これを『ヴォルケス火山』に住む炎の大精霊に見せるのです」

ひとつ軽くいななくと、風の宝珠は音もなく空中を滑り、俺の手に収まっていた大剣のくぼみのうち、一つにパチリとはめ込まれた。

「……わかった。ありがとな、精霊さん」

すでに俺の服は、荒々しい自然の中を駆け抜けるための、冒険者としての服装に変わっていた。

ひとつひらりと手を振って、俺は魔法陣の中へと進んでいく。



視界いっぱいに、光がはじける。

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