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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter3 真実は精霊のみぞ知る
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第13話 濃霧注意報

カノンを仲間に加えた俺たちは、港町「セルビス」に向けて旅を開始した。

この先は俺たちにとって未開の地であり、敵襲の危険がある以上、周囲の状況に警戒しなければならない。カノンにもそれを告げて、二人で交代交代に周囲の警戒を行うことにしている。

最初の数日は何事もなく過ぎ去り、目前にうっそうと生い茂る森林――セラ森林が見えてきた、その時だった。

「……ん?」

森林地帯への入り口に設立されていた野営地に、複数台の馬車が係留されているのが見える。ゼックにもその旨を伝えて、ともかくはその野営地に向けて歩を進めた。



「おぉ、ゼックじゃないか!お前もここを抜けるのか?」

「ディモか!久しぶりだなぁ。お前もここを?」

十数分後にゼックと俺たちがであったのは、どことなく貴族的な雰囲気を漂わせる男性だった。恰幅のいい体に、柔和な瞳――いわゆる恵比寿様のような目と、さっそうとした立ち振る舞いは、なんとなくザクロのことを思い出す。

「……ゼック、この人は?」

「あぁ、紹介する。こいつは自称『ディモルフォセカ』。俺の古い行商仲間さ」

自称、と言われたこととその語呂は、その名前が本名ではないことを物語っている。紹介された当の本人は快活に笑い、わしわしと俺の頭をなでてきた。どうしてこう行商人は人の頭をなでたがるのか。というかやめれ。

「……んで、なんでまたこんなところで足止めを食らってるんだ?」

改めてゼックが聞くと、ディモと呼ばれた男性は頭をかきながら説明を始める。

「それなんだ。……この先の森で人が行方不明になる事件が頻発しててな、皆が皆逃げ腰になっちまったせいで、抜けるに抜けられなくなっちまっているんだよ。深くもない森なのに、どうしたもんかなぁ」

ゼックとディモがそろって首をかしげてしまう。旅のベテランである彼らにも、その異常の正体はわからないらしい。

「……カノン、やっぱり魔障霧の仕業なのか?」

「ええ、たぶん。……でも、魔障霧はだいたい高山地帯に生息する魔物が生成するか、人の手で作り出されるかのふたつしか発生することがないはずよ。それがどうしてこんな森に……」

森で起きている現象――魔障霧に関しては、数日前にカノンから教わっていた。

いわく、魔障霧というものは特殊な現象であり、自然発生することはほぼない存在だという。高山地帯に生息する「ミストレックス」がその体内から生成し、周囲の生命体に錯覚を起こして迷っているスキに捕食する、もしくは人の手で生み出され、貴族や王宮を警護するために使用されるかの二つらしい。そう考えると、人里から離れたこの森林に魔障霧が発生するのはかなりイレギュラーなケースだろう。

「ゼック、セルビスに行くにはほかのルートしかないんじゃないか?」

とりあえずは迂回を提案するが、続くディモの言葉であっさりとその望みは打ち砕かれた。

「坊主、セルビスに行くにはこの森を抜けるしかないんだ。レビー山脈とカイゼラ山は、ここら辺にくると危険な魔物がうようよと出てくるんだよ」

つまり、二つの山に挟まれたこの場所にのみ街道が整備されているということらしい。そうなると、少しばかり困ったことになる。

そもそもセルビスに行くのは、ゼックが海外へと行商に繰り出すからという理由によるものだ。俺とカノンの二人でゼックを護衛するという依頼を引き受けている以上、ゼックから離れることができない俺たちは彼ともども立ち往生することになってしまうのだ。備蓄の食糧にも限りはあるし、なによりここで旅を終わらせるのは癪である。レブルクからなら道はありそうだが、数日前に起きた事件のおかげでカノンと戻るのははばかられるし、アレグリアまで戻るのはもってのほかだ。ゼックは俺たちの事情を知っているので、彼も引き返すことは考えないと言っている。

どうしたものかとうなっていると、意外な人物から光明がもたらされた。

「……面白れぇ、突っ切ってやろうじゃないか!ディモ、お前も付き合ってくれるんだろう?」

「おうともさ!俺たち行商人の底力を見せつけてやろうじゃねぇか!」

……なんという体育会系思考。呆れたいけど、そうでもしないとどの道八方塞がりなのがちょっと悔しい。



***



数時間後、ディモの隊商が同行することになったおかげか、ちょっとだけ周囲がにぎやかになっていた。

「新米冒険者!お前、ちゃんと護衛はできるんだろうな?」と男性冒険者――服装的には戦士のような人だろうか――が、あからさまに挑発するような口調で問いかけてくる。

「ちょっと興奮した魔物がいても、魔物鎮圧は駆け出し時代のクエストで慣れてます!心配なく!」

とりあえず不敵に微笑んで返しておいたけど、本当ならもうちょっと穏便に返すのが普通だろうか。そんなことを考えつつ、俺はゼックの馬車のそばに付き添って周囲を警戒する。

すでに、周囲には白い霧が立ち込め始めていた。口の中がほんのり甘いのはこの霧のせいだろうか?

「……気を付けてねタクトくん。一度周囲の人を見失ったら絶対に見つけられないって聞いたから」

半ば脅しのような忠告を受けて萎縮していると、前方を見据えるゼックが声をかけてきた。

「そろそろ霧の深いところに入る。タクト、カノンちゃんと一緒に馬車の中に入っておけ」

「わかった。俺は馬車の上で警戒しておく」

「頼むぞ」

短いやり取りを交わし、カノンを馬車に避難させて自分は馬車の上に上る。陣取る場所は、ゼックの体が見えるところだ。

ここなら、すくなくともゼックを見失う心配はない。そう考えていると、不意に後ろに人の気配。

「――――っ!」

「ひゃっ。……ごめん、驚かせちゃったかな」

振り向きざまに抜刀の態勢に入ると、そこにいたのはカノンだった。なんで上がってきたのかと注意する前に、カノンが呟く。

「一人を見失って全員が散るよりは、固まって行動していたほうがリスクは低いの。だから、ここにいさせてほしい」

その提案は合理的だった。一つ溜息をはき、ゼックに了承を取って二人で背中合わせに座り、周囲を警戒する。



意図せず意識が飛んだのは、それから数分もしないうちだった。

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