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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter2 旅路の仲間たち
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第9話 魔法を勉強しよう

「……というわけで、君の護衛をすることになった。改めて、よろしく」

リラさんから依頼――カノンの護衛という任務を受けた俺は、部屋の前で待機していたカノンにあらましを説明していた。最初は彼女も少し不安げな顔だったが、やはり心労が取り除かれるということは精神的にも楽になれるのだろう、説明を終えるころにはカノンもどこか安心した――憑き物が落ちたような表情でうなずいてくれた。

「で、まぁ……カノンはどこかに行くのか?外に出るんなら、護衛するけど」

「うーん……明日は用事がありますけど、今日はありませんね」

用事、という単語が気になったが、今日は外出しないということなら安心だろう。そうかとだけ言い、やることをなくした俺に、カノンが面白い提案を行ってくれた。

「タクトさん、もしいいなら、魔法の練習に付き合ってくれませんか?」

「練習……構わないけど、俺魔法っていうのさえ知らないぞ……?」

告げると、カノンは少し考え込む素振りを見せる。しかしそれも一瞬で、すぐに明るい表情で俺の手を取った。

「でしたら、復習がてら教えますよ!さぁ行きましょう!」

「ちょ、おっ、っとととぉ?!」

アレグリアのクソ王家といいゼックといいカノンといい、俺はどうしてこうも他人に振り回されるんだろうか――と考えながら、俺は腕を引っ張るカノンの歩調に合わせて、練習場である学校の中庭へと歩き出す。



***



「では、説明しますね。準備はいいですか?」

「お、おうっ」

休校日ということもあって、中庭の人影はかなり少なかった。ちらほら見かける人間もケープを羽織っていない一般人で、生徒であるカノンと俺――冒険者装である俺をめずらしがっているのかもしれないが――に目線がちらほらと向かっている。そんな様子をカノンは気にせずに、少し得意げになって説明を始めた。

「それでは行きます。……まず魔法というのは、世界に満ちている『魔力』を固めて作り出すものです。基本的に魔法は才能……というか適性ですね、それがないと行使することは不可能だとされています」

説明を終えたカノンはそこでいったん口を閉じて、両手を左右に広げて再び口を開く。

「ファセロ、グレイラ、ウォトム、スターメ、ブルセイ、シャマト!」

意味の分からない言語を唱えた彼女の両手に、連続した炸裂音とともに――六色の球体が現れた。驚きの声を上げることもできないまま、俺は口を半開きにしたままカノンの両手で滞空する球体を見つめる。

「今唱えたのは、魔力の元である『属性』を、魔法言語に翻訳したものです。……魔法言語というのは古代アレグリア人が発明したとされる、魔力を操る際に使用する特別な言語と言われています。この辺はおいおい説明するとして……まずは、魔法を学ぶ上で大切なことです」

「大切なこと?」

「魔法を操れるかどうかの『適性』ですよ。……簡単です、一つ魔法言語を教えますので、口に出してください」

そういうと、カノンはポケットから紙を取り出して字を書き、俺に手渡した。書かれていた言葉は読めなかったが、文字の上には丁寧な字で振り仮名が振ってあった。それを確認した俺は手を突き出し、何もない場所へ向けてその言葉を唱える。

「……レバンタ!」

瞬間、バシュ!という炸裂音が周囲に響いた。同時に俺の手のひらで、何かが――――ザクロが放った衝撃波に似た燐光がはじけ、中央に小さな桃色の球体が現れる。

「……複合属性!タクトさん、珍しい属性もちですね!」

それを見たカノンが、感心したような声を上げた。先ほどカノンに見せてもらった球体の色とはどれも当てはまらなかったので、少し困惑しながらカノンに問いかける。

「ふ、複合属性?」

「あ、はい。複合属性というのは、その名の通り二つの属性を同時に体に宿す人間のことです。……えぇと、タクトさんは桃色の球体が出てきたので、『炎』と『光』の属性がありますね」

属性というものに何があるのかは知らないが、ともかく俺は炎と光の複合属性を宿した人間らしい――というか。

「……えっと、俺って魔法に適正あるの?」

そこが気がかりだった。先ほど聞いた「適性を調べるため」の魔法をおこなった以上、それだけは聞いておきたかった。

そもそも、どうなったら適性があるかがわかるかということも聞いていない。魔法を使いたいと考えていた手前、使えるのならば覚えておいて損はないはずだ。

「はい、ありますよ。さっきの魔法が発動できたということは、すなわち魔法を発動できるということですから」

「……そうなのか。んじゃ、どこまでが使えるとかってあるのか?」

俺の問いかけに、カノンは小さくうなずく。

「そうですね……基本は鍛錬を積めば誰でも使えるんですが、制御が効くかどうかは本人の才能によりますね。ちなみに私は全属性もちで、五つある段階のうちすべてを使用可能です」

そういうと、今度はカノンの手が上に掲げられる――その前に。

「――――全属性もちィ?!」

俺の驚愕の絶叫が、周囲にこだました。びっくりした数人がこちらを振り向くが、我に返った俺はなんでもないと周囲をたしなめる。その勢いのままカノンにも謝ると、彼女も苦笑した。

「あはは、ふつうは驚きますよね。……でも、師匠が私を合格させたいって躍起になってるのはそれが理由なんです」

そう口にすると、カノンは空を見ながら語り始めた。

「全属性を操れる人って、世界に数人しかいないんです。そのうちの一人が私で、しかもその私が捨てられたということに対して、師匠はすごく怒ってました。世界を見返してやれと、師匠は口癖のように私に告げました」

独り言をつぶやくような彼女の顔は、感謝と憎しみが混じったような複雑なもので。

「……本当はそんなことしたくないんですけどね。私を救ってくれた師匠がいて、救われた私がいて。それでいいと思うんです。でも、師匠はずっと見返せ、見返せと言っています」

ふぅ、とため息をついたカノンの瞳には、迷いが揺らいでいた。

「……私は、どうすればいいんでしょうか。師匠の言う通り、世界を見返すのが最良なんでしょうか?」

――まさか、それを相談するために俺を連れ出したのだろうか?一瞬考えるが、それを詮索するのは野暮なのかもしれない。

おそらくカノンは、答えを求めているのだろう。学校という、ある意味での閉鎖環境で育てられた彼女は、外の存在である俺の答えを欲している。

なら。

「…………別に、自分の自由でいいんじゃないかな」

「え?」

「そのままの意味さ。……自分の生き方を人に決められる義理なんてないし、そんな権利もそれに従う義務もない。カノンさえそう思うなら、それでいいと思うんだ、俺」

正直、それで答えになっているかは微妙だろう。たかだか15年しか生きていない俺に、そんなことを説く権利が、言葉があるわけもないけど、この言葉が少しでもカノンの支えになるなら、俺はそれでも良いと考えていた。

そんな思いは、カノンにも届いてくれたらしい。

「……そう、ですね。ありがとうタクトさん、話を聞いてくれて」

「いや、お礼言われるほどじゃないよ。……がんばれよ」

にこやかにうなずくカノンは立ち上がり、さてと一つ咳払いする。

「それじゃ、続きと行きましょう。……どこまで話しましたっけ?」

「えーと……使用できる段階の部分だったと思うな」

俺の言葉に頷いたカノンが、先ほどとは少し違う――もっと明るくなった笑顔で説明を始めた。

「魔法の段階は全部で5つ。形で換算すると、順番に『射撃』『放散』『魔壁』『爆発』『流星』の五段階があり、並に適性がある人なら『放散』までが使用可能ですね」

実践して見せます、と言った彼女は、傍らに置いてあった棒状の物体――先端に金属部品がついた、いわゆる「杖」を持ち、杖の先端を天空に掲げて、高々と詠唱を行う。

「ファセロ・バトク=ファトナ!」

単語が一つ紡がれるごとに、杖の先端にともった光が炎の形に変わり、丸まり、杖から離れて――振られた杖の先端から離れた炎の球体が、ゴッ!という音を立てて天空へと飛んでいった。その速度たるや、もしかしたら現実世界の新幹線さえも軽く凌駕していたかもしれない。唖然とする俺に苦笑しつつ、カノンは説明する。

「今のが基本魔法『ファイアボール』です……もっとも、速度強化も施したので、射出の速度も上がってますけどね。炎属性が基盤なので、タクトさんもできると思います。試してみますか?」

「え……お、おう」

いわれるまま、カノンの指示通りに天空に手をかざして、俺は魔法を発動するための詠唱を口に出す。

「――ファセロ・バトク!」

ギュンッ、という縮こまるような音が一瞬なったかと思うと、次の瞬間には腕を何かで弾かれたような衝撃が襲い、それにひかれるように俺も背中から地面に倒れこんだ。

「うわっ、だ、大丈夫ですか!?」

慌ててカノンが駆け寄ってくるが、大丈夫だと手で制して上体を起こす。――いくらなんでもそれ以上近づいたらロングスカートでも危ないぞ、と心の中だけで注意しておきながら、「立てます?」と言ったカノンの手をつかんで立ち上がる。

「ありがと」

「いえ。……しかし、すごい威力ですね」

立ち上がった後、感動したようなカノンの言葉を聞いて、俺は首をかしげる。

「そんなにすごいものなのか?」と聞いた理由は、先ほどの反動は「杖を介していないから」と理由づけていたからだ。

だが、どうも実際は違ったらしい。少し興奮気味なカノンが、まくしたてるような口調で説明する。

「はいっ!ふつう初めて魔法を行使するときは、もっと威力は弱いはずなんですけど……もしかしてタクトさん、なにか魔力に関係した技とか持ってますか?」

と聞かれ、少し考えた後で一つ思い浮かんだ。本当に魔力でできた技だったのかは疑問だが、ともかくは見せてみることにして俺はカノンに離れるよう指示する。彼女が数歩離れたことを確認すると、左の腰に吊った剣――ゼックを護衛した報酬としていただいた、初心者脱却用の剣を音高く引き抜いた。そのまま肩の上に剣を持ち上げて、構える姿勢で一度ぴたりと制止する。

俺が繰り出そうとしているのは、ザクロとの戦いの途中で偶然編み出したあの「衝撃波攻撃」だ。あの時繰り出せたのは完全なまぐれであり、まだこの衝撃波攻撃は完成していない都合上、こうして精神を集中してエネルギーの流れを感じる必要がある。

数秒静止していると、剣にほんのわずかな重みを感じた。その一瞬を見計らって、俺は構えた剣を一直線に振り下ろす。

瞬間、バシィッ!という炸裂音がとどろいたかと思うと、振りぬかれた剣から発生した粒子が――花火のようにはじけた。そのままちらちらと周囲を舞い散りながら消えていく粒子を見つつ、俺はため息をつく。うん、普通に失敗だ。

――――が、カノンのほうは失敗などと思っていなかったようだ。それどころか、先ほどの減少にキラキラと目を輝かせている。

「……すごい、剣に魔力素子を集束させるなんて初めて見ました!あのっ、できればやり方を教えてくれませんか?」

「え……えーと、教えたいのは山々なんだけど……俺もまだ、これを完璧に使えてるわけじゃないんだ」

俺の言葉にカノンは少し不服そうな顔をしたが、すぐに表情を明るくして問いかけてきた。

「なら、どうやって発動したのか教えてくれませんか?もしかしたら私にもできるかも……」

「……うーん、方法って言ってもなぁ。魔力がたまった!っていうカンで繰り出したから、明確にタイミングはわからないんだよなぁ」

正直なところ、どういう原理で発動しているかさえわかっていないのだ。もっとも、魔力に関するものだとわかっている以外は何の手がかりもない状況で、すぐにものにできるとは到底思っていないのだが。

一方のカノンは俺の思惑を気にせず、しきりに独り言をつぶやいては様々な方向に杖を振って、自分にもできないかを試している。

前向きな子だなぁ、と思いつつ、ふと先ほどの会話の中で出てきた知らない単語について聞いてみることにした。

「カノン、魔力素子ってのは何だ?」

俺の質問に、カノンは動きを止めてひとつ首をかしげてから話し始める。

「えーっと、魔力素子っていうのは、いうなれば魔法の元である魔力、その魔力のさらにもとになるものですね。自然界に存在する炎、土、水、風、光、闇からそれぞれの素子が発生して、それが複数集まって一つの塊になったものが魔力と呼ばれているんです」

つまりパンを作る前の小麦粉みたいなものかと辺りをつけて、俺は改めてカノンに聞く。

「さっき俺が使った技に、その魔力素子が使われてるとか言ってたけど……あれは?」

俺の質問に、しかしカノンはなぜか苦笑で返した。

「……タクトさんは魔法についてほんとに何も知らないんですねぇ」という言葉が、妙に心に突き刺さる。

「悪かったなぁ」といじけつつ小さくつぶやきながら、カノンの説明に耳を傾ける。

「使用したタクトさんにもみえたと思うんですが、魔力素子というのはつまり、魔力が球体ではなく粒子として顕現した状態のことを言うんです。魔法に関して高い関心と知識を持っている人……私の師匠みたいな人には魔力を魔力素子として使う力が備わるものなんですが、魔法を使ったこともないタクトさんが使えるのは、こう言ったらアレですけどすごく興味深いです」

――それを自分の腕のように使いこなすザクロはどんだけ強いんだ?……というかよくそんな奴に勝てたな、俺。

勝手に自画自賛していると、不意に時計塔からリンゴーン……という涼やかな鐘の音が鳴り響いた。その音を聞いたカノンが、周囲を確認してひとつうなずく。

「……寮の門限10分前です。私はそろそろ帰りますね」

「ん、わかった。……明日はどうする?」

どうする、という俺の言葉の意味を、カノンはきちんと理解してくれたようだ。おとがいに指をあてて、少し思案してから口を開く。

「それじゃ、明日は朝の9時あたりにここの正門前でお願いします」

「OK。……じゃあ、まあ。また明日」

「はい、よろしくお願いしますね」

丁寧にお辞儀をして去っていくカノンの背中を見つめながら、襲ってきた眠気に大あくびをかました。

――そういえば、ゼック護衛の予定を繰り上げたおかげで機能は寝てなかったんだ。どうりでさっきから妙に思考にもやがかかっているはずだ。

昼飯も食べていないのを今更思い出した腹も鳴っている。宿に行ったら食事してさっさと寝よう。

ひとつ大きく伸びをしながら、俺は学校を後にした。

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