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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter2 旅路の仲間たち
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第7話 魔術の街レブルク

し、知らない間に評価が増えている……だと?

読んでくださっている方々、感謝感激です!稚拙な分しか書けませんが、どうぞこれからもよろしくお願い申し上げます。

「おーいタクト、着いたぞー」

「おっ……おぉー、でけぇすっげぇ!」

ザクロの裏切りと急襲から、丸一日が経過した。

あの後、命からがらザクロを倒した俺は、押し寄せてきた野盗の連中――ザクロを助けるために全員で担ぎ上げようとしたらしい――に突き飛ばされ、気が付いた時にはすでに野盗たちは撤収した後だった。

捕まえ切れなかったのは残念だったが、それでも俺とザックは勝利の喜びを味わいつつ、レビー山脈を足早に下山して予定よりも半日早くレブルクへと到着することとなった。



レブルクの街並みは、全体的に赤レンガが数割を占めていた。どことなく温かみを感じる街の一角で、俺は改めてザックに礼を述べる。

「ここまでありがとうございました」

「いやいや、礼を言うのはこっちさ。タクトがいなけりゃ、今頃ザクロにブッタ切られてたろうからな」

そう言って笑うザックだが、本当は気が気でなかったんだろう。結果的に撃退できたとはいえ、俺が負けてもなんら疑問はない戦いだったのだ。

――もっと強くならなければいけない。少なくとも、誰かを守れるくらいには。

そう決意し、俺はザックと別れてレブルクの街へと歩を進めた。



***



レブルクは魔術の街という別名のとおり、魔法技術の開拓が盛んな国らしい。事実、街を見回す俺の目にはちょくちょくと大きな時計塔が映っており、そこに魔法学校なるものが存在しているという。

暇があれば魔術の勉強もしたいのだが、あいにくと魔法に適性がない人間には魔法は使えないのだそうだ。魔法剣士とかかっこいいのになぁ、という思考を展開しつつぶらぶらと街を歩いていると、不意に後ろから肩を叩かれた。

「……?」

この町に来てそうそうの俺に用がある人間なんているのか。珍しい奴もいたもんだ――という思考の元振り向いた俺の目には、フードを目深にかぶった人間が映る。

背丈から見れば、俺と同い年の15,6程度だろうか。剣と羽が合わさったような紋章がついた短いローブ――ケープについたフードをかぶったその人間が、俺の肩を叩いた張本人だろう。

何者だろうか。まさかとは思うが、ザクロの手下では――ないだろう。そもそもあいつの手下にこんな華奢な奴はいなかった。それに、ケープの紋章はどこかで見たことがある。たしか、この街の魔法学校の紋章だったはずだ――などと、相手の服装から正体を勘ぐってみるが、結局はわからない。

そのケープの人間が数歩下がったかと思うと、手招きをした。ついて来いとでも言っているのだろうか?

口で言ったほうが早いだろうと思いつつも、ともかくはケープの人間についていくことにした。まだ日が暮れるまでは十二分に時間があるし、なにより見るものがなくて困っていたところだ。



ケープの人間が歩く後ろを、すこし早足で俺もついていき、数分がたったころ。

入り組んだ路地のつきあたりで、ようやくケープの人間が立ち止まった。歩きっぱなしだったのですこしだけ息を切らしつつ、俺もケープの人間の数歩手前で停止する。

その場ですこしあたりを見回して、そいつはようやくその頭のケープをはぎ取った。

「――――なっ?!」

そうして現れたその顔に、俺は少なからず驚愕する。

茶色の混じったショートヘアと、先ほどはぎとられて後ろに回されたフードが、吹き込んできた風に撫でられる。その中に納まっていた線の細い顔は、明らかに少女のものだった。

たとえればアーモンドのように丸っこい、可愛らしい瞳は黄金色。日陰なせいか絹のように真っ白い肌が、光ってもいないのに俺の目にじりじりと焼き付く。

「ふぅっ」という吐息に似た溜息をついたケープの少女の瞳が、申し訳なさそうに揺らめいた。

「……いきなりすいません、こんなところに連れてきてしまって」

「え……あぁ、いいよ。なんか用事があったんだろ?」

鈴のなるような声でいきなり謝られ、反射的に慌てて首と手を振る。俺の言葉を聞いた少女が、暗い表情でこくりとうなずいた。

「実は……あの、あなた冒険者の人ですよね?」

「そうだけど……あぁ、相談事があるなら乗るぞ」

その言葉に、少女の表情がいくらか明るくなる。見知らぬ人間である俺に頼むあたり、どうもずいぶんと深刻な悩みなようだ。そこまでの悩みを抱えるような人間ではないと思うのだが……という思考を展開していることに気づかずに、少女は口を開く。

「ありがとうございます。……お願いします、私を守ってほしいんです」

――守ってほしいという言葉と、彼女の態度が、俺の中でカチリと噛み合った。人目の多い場所で顔を隠して、声も出さずに俺を引き連れて、こんな人気のない場所まで連れてくる。おそらく、この少女は何者かに付け狙われているのだろう。その理由が何であれ、ここまで表情が曇っているということはよほどのものに違いない。

「できる限りなら、お礼はなんでもさせていただきます。……どうか、お願いできませんか?」

「――――ん?……今、何でもするって言ったか?」

少女に合わせて深刻になっていた思考が、その言葉を言うために一瞬のうちに霧散した。が、その言葉の裏の意図に気づかないまま、彼女は続ける。

「あ、はい。……といっても少ししかお金は出せませんけど、出してくれと言われるなら喜んで」

その言葉に、俺は一瞬軽いノリでその台詞を使ったことを後悔した。求められれば全財産を出してまで助けてほしいなんて言うほど、彼女は困っているのに。

訪れた微妙な沈黙を、ぽりぽりと頭を掻く音でかき消して、一つえほんと咳払いをする。

「……いや、無償で構わないよ。どうせ、期待されるほど強くはないし」

強くないという言葉に、少女の顔がまた一段と暗くなった。けれど、頼まれた以上は引き受けるのが男っていうものだ。

「けど、できる限りのことはやってみる。……俺はタクトっていう。君は?」

「あ…………ありがとうございます!私は『カノン・プリム』ですっ。よろしくお願いします!」

矢継ぎ早に自己紹介した少女――カノンの顔に、少し影を残していたが、確かな笑顔が戻っていた。



「……それで、具体的には何をすればいいんだ?」

それから少しして大通りに戻った俺たちは、カノンの先導で通りを進んでいた。カノンは人目を避けるため、またフードをかぶっている。

「まずは、協力してくれる人ができたっていうことを『師匠』に報告しに行きます。よければ付き合ってくれます?」

「ああ。……カノンちゃんのお師匠さんって?」

湧き出てきた疑問をそのままぶつけると、不意にカノンが苦笑する。

「カノンでいいですよ。……師匠は魔法学校の教師なんです。私が小さなころから私を魔法学校に入れるために養ってくれて、今もお世話になってるんです」

小さなころ、養う、という単語から、カノンの出自はおおよそ察しがついた。が、関係ないことである以上つっこまないでおく。

「いい人なんだな」

「はいっ。教育は厳しいですけどね」

代わりに率直な感想を述べると、まるで自分がほめられたようにカノンが笑った。――さっきはカノンの暗い表情と深刻そうな内容で全く気付かなかったのだが、そういえばカノンはとんでもない美人だ。

誇張ではない。元の世界にこんな子がいたら、確実にどこかの芸能事務所にでも雇われていると思う。それくらいの美少女である。

――こんな子に守ってほしいなんてことを言わせる奴を、許したくはない。

ひそかに決意しつつ、俺はカノンの小さな背中を追った。

カノンのキャラ絵についてはこちら(http://d.hatena.ne.jp/delta8428/20140110/1389314565)をどうぞー。


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