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第0話 異世界への扉

「まったなー!」

「めるしー」

「また明日ー」

 その日。

 三々五々にあいさつする友人が、それぞれの家がある方向へと去っていく。夕暮れの空とともにその光景を見守っていたその人影は、俺は、少しばかり感傷に浸りながら振り向いて歩き始めた。



 俺はその時、いつも通りの帰り道である商店街の、ショートカットになる裏道をすたすたと歩き続けていた。見慣れた光景に目を取られることもなく、ただ目の前に続く無味乾燥むみかんそうな灰色の世界を、ただ歩く。

 コンクリートに彩られた世界を歩く俺は、はたと足を止めた。

「…………は?」

 幼き日の俺の目の前には、異様な光景が広がっていた。

 無理もないだろう。歩いて五歩もない場所に――普段はないはずの、薄らぼんやりと光る「魔方陣」が浮かんでいたのだから。



***



 突然だが、画面の前のアナタ。異世界召喚という言葉はご存じだろうか?――いや、皆まで言わなくていい。

 たいていの人は、小説の中でしか聞かない言葉だろう。事実、この問いかけを行っている俺も、つい数分前までそんなものは小説の中でしか知らなかった。

 ――――なら、目の前にあるこれはいったい何だ?




 突然に、唐突に、目の前に現れた光る魔方陣を見て、俺――角宮拓斗かどみやたくとはそんなことを考えていた。いや、だってそうだろう?突然目の前に魔法陣が出てきて、あっけにとられないやつがいたら見てみたい。むしろ連れてこい。

 普段から通り慣れているその道に現れた、謎の魔法陣――もういいか、いくらなんでもしつこいな。

 ともかく、そんな異様ともいえる光景に、俺は現在進行形で絶句している。たっぷり数分思案する間、俺の脳内で去来したのは、先ほどの誰に対してでもない問いかけだった、が、数分間の思考は、いい具合に俺の頭を冷やしてくれたらしい。ストップモーションみたいな体制から直れたからな。

 ――しかし、これはいったいどういうことなのだろうか。誰かの悪ふざけで、こうしてホログラムが置かれているだけならどれだけマシなことか。むしろ投影装置をけっ飛ばして笑ってやりたいくらいだ。だが、生憎とそんなものが見当たるわけもなく、俺はどうしたものかと立ち尽くすほかない。

 そんな時だった。俺の頭の中に、一つの考えがよぎったのだ。



「…………ふ、ふふふ……そうだ、そういうことさ」

 で。そんな考えがよぎっ(てしまっ)たせいか、俺の言動と思惑はあらぬ方向へと振り切れ始める。

 ――今思えば、そんな行動に走った俺をぶん殴りたいなぁ。

 そう、俺はいわゆる中二病だったのだ。この頃は自らの力を行使していないな、とか考えていた気がする。……思い出したら余計な思い出が蘇って死にたくなってきた。

 ともかく、そんな持病を発症してしまった在りし日の俺は――――確か。

「フゥーハハハ!良い、実に良いぞ異世界の民よ!……よかろう、この俺の力を必要とするならば、わが身をその地へと誘えよッ!!!」

 とか言ってたなぁ。懐かしいけど猛烈に死にたい。いっそだれか殺してくれ。

 そんなことをのたまいながら、俺は数歩下がると助走をつけてその魔方陣へと突っ込んだ。俺の独り言に呼応していたかのように、魔法陣が光り輝くと、次の瞬間にはそこから魔方陣も、在りし日の俺も消えていた。




 その選択が、俺の持つ価値観や生き方を、丸ごと覆してしまうとも知らずに。

 俺は、異世界につながる魔方陣の中へと消えた。

OP:いきものがかり「虹」

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