嗤う者
ダイヤモンドの言葉に、宿主は意味が分からないといった表情で彼女を見返す。その態度が、怒りにさらに火をつけ油を注ぐ。
「あのねー!!ああいう怪人の種に憑りつかれるっていうことは、あんたが自分を過大評価してるってことなの!!自分がうまくいかない、できないのを世の中のせいにして逃げ回って、現実を見ないからそんなもんに取り込まれるのよ!!」
「ちょ・・・ダイヤモンド!!」
いくらなんでも宿主は人間である。そこまで言ってはまずいと、ルビーが慌てて止めに入った。が、こんな三段腹を世間に披露させられた身としては、一言どころか5時間でも6時間でも文句を言い続けてやりたいところなのだ。
「何で止めるの、ルビー?こういう甘えたやつにはびしっと言ったほうがいいのよ。そもそもそんなの親の仕事なんだけど、こいつを野放しにしてるんだから、ほかの人間が教えてやるしかないでしょ!!私はうちの子が人様に迷惑かけたら、ガツンと怒るわ。そして謝らせる。子供の学校にもいるわよ、謝らない子。それどころかそういう子の親もまた、謝らないわよ。いやそれ以前に来ないわね、学校に」
「ダイヤモンド・・・そんなPTA的な愚痴まで・・・」
「とにかく、ダークナイト・メアなんかの言いなりになるってことは、自分にふさわしくない夢を見てる、あるいは追っかけてるってことよ!!そんなのはあなたの人生にとってただの悪夢!!自分の力量を考えて、就職活動でも受験勉強でもしなさい!!」
「よくいった!!ビバンダム!!」
「伊達に年食って肥えてるわけじゃねーよな」
「っていうか、子持ちかよ」
そしてその責めと歓声が、確実に宿主の心を貫いた。いや、正確にいうとダイヤモンドの責めと野次馬の同意に対して宿主が、そして野次馬の同意の表現方法に関してダイヤモンドが傷ついていた。
「ひ・・・ひどい・・・そこまで言わなくてもいいじゃないか・・・。くそ、俺ばっかり責めやがって。俺があんたに何かしたかよ?俺がいったい何したっていうんだよ!」
「街を壊したでしょーが!!」
とはいえ、その発言を落ち込みのために看過できるダイヤモンドではない。それどころかダイヤモンドだけではなく、ルビーもサファイアもオパールも、普段はめったに暴言を吐かないエメラルドまでが突っ込んだ。何しろ5人は昔の中学生ではない、家で子供に、会社で部下に、教室で教え子に文句をため込んでいる「おばちゃん」たちなのだ。
「あんた全然反省してないわね!!うちのこの前入社してきた新人に似てるわ!!」
「そんな甘ったれた根性じゃ、また何か事あるごとにこういう事を引き起こす羽目になるわよ!うちの小学生だって、もうちょっときちんと反省できているわ。あなたはそれ以下なの?」
「え?エメラルドのとこ、そんなにちゃんと反省する?うちの子反抗期なのかなあ」
「ダイヤモンドのところは娘さんでしょ。女の子って早熟っていうじゃない」
同時に、「おばちゃん」なので若干脱線もする。
「結局さっきの悪夢からの解放だって、ダイヤモンドとエメラルドにビビッて後悔しただけで、自分が悪いなんて思っちゃいなかったんだよ。こういう甘ったれたやつは、私が一から根性を叩き直してやるから、うちの教室に通ってきなさい!!駅前の・・・」
「ルビー!!個人情報、個人情報!!」
そしてうっかり余計なことまで口にしてしまうのだった。
ダークナイト・メアの悪夢から解放され、ラブリードリーム・ジュエルと野次馬に説教という名の罵倒をされた宿主は、すっかり落ち込んで帰宅していった。昔から不思議に感じてはいたが、あれほど破壊された街も彼が正気に返ったため、すべてが夢だったかのごとく元通りになっていた。
また、宿主に悪夢を吹き込んだダークナイト・メアは、彼が目を覚ました時点ですでにどこにもいなくなっていた。ダークナイト・メアが再び姿を現し、そのまま消えてしまったことで、このような事件がまた頻発する可能性は高い。5人は否応なしに全身が熱く緊張していくのを感じた。
敵を倒したことで、野次馬たちは大いに盛り上がり熱狂した。が、いつまでもそれに付き合っているわけにはいかない。5人もまた野次馬の目から逃れ、一度バラバラに分かれてから人気のない場所にひっそりと集結する。そして誰もいないのを再確認して変身を解こうとしたその時、頭上の遥か高みから笑い声が響き渡った。ダークナイト・メアの、あの忌まわしき声が。
「あーはっはっは!!それで終わりかね、ラブリードリーム・ジュエルの諸君!」
「あの声は!!」
「ダークナイト・メア!!」
見上げるとそこに、予想通りの姿を認める。封印されていた30年間の月日を感じさせず、昔のままの姿と声だった。
「なんかむかつくわ」
その変化のなさに嫉妬し、声にならない声でエメラルドがつぶやく。が、しかし彼女の狙い通り誰もそれに気づいていなかった。
「やっと全員そろったと思えば、私を放置して解散かね。なるほど、その衰えた姿。もはや私にはかなわないと悟ったようだね」
「はぁ?そもそもあなたが逃げ出してたんでしょ?」
「私たちならお相手できるわよ!!」
その言葉に嘘はない。確かに自分たちは年齢を重ねたし、体も昔のような軽やかさには欠ける。が、返身している状態では、それらすべてを自由自在に操れる。すでに失い、もう再び手に入れることはできないはずの若さ・・・では決してないのだが、とにかく若いころの力が復活するのは確かなのだ。彼女たちにとって、恐れる理由などなかった。
「馬鹿にしないで!!っていうか、あんたこそなんで封印から抜け出せたのよ!?あんなにしっかり蓋して、念のために海の底に沈めてやったっていうのに!!」
そうそう、そうだよねと、サファイアの問いにみんながうなずく。彼女が代表者のごとくダークナイト・メアにつきつけたそれは、誰もが漠然と胸に抱いていた疑問だった。
「私がなぜここに現れたか、知りたいか?知りたいのか?ひゃっはっはっは!!そうだろうそうだろう、教えてほしいだろう、ひょっほっほっほ!!」
癇に障る上からの声に、サファイアが苛立ちを顔に浮かべる。
「一応、ちょっと気になったから聞いてみただけで、別にそこまでして絶対知りたいわけじゃないわ」
「え?」
そしてその苛立ちは、ほかの4人もまた抱いていた。
「そうね。私たち、あなたを倒すことに関心があるだけで、別にあなたに対してはそんなに興味ないものね。絶対教えてほしいってほどではないわ」
オパールが同意すると、ルビーもまたそれに続いた。
「確かに、封印してからのこの30年、全然思い出してなかったわ。ラブドリのことは考えることもあったけど、何に入れてどこら辺に捨てて封印したかはおろか、ダークナイト・メアの名前も存在もすっかり記憶から消えてた」
「ええ!?ちょ・・・おおおおまえらの敵だぞ!!気にならないのか!?」
「言いたかったら勝手に言えばいいじゃない。私たち、聞いてあげるくらいの優しさはあるわよ」
ダークナイト・メアの30年間の孤独を逆手に取り、ダイヤモンドが上から目線で言い返した。




