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パワーの源

 そのとき、広場中に響き渡る叫び声がした。とっさに二人は立ち上がり、騒がしい方へと顔を向けると、案の定というべきだろうか。声の主はルビーだった。ルビーは怪人によって壁に叩きつけられ、そのままその場に崩れて倒れこんだ。

「ルビー!!」

 離れた場所にいて、すぐに駆けつけられないもどかしさから、ダイヤモンドが大声でルビーの名前を呼ぶ。が、それが彼女の耳に届くには、あまりにもルビーの意識は朦朧としていた。

「みんなは・・・!?」

 サファイアとオパールは無事なのだろうか?二人の状況を確かめるため、すぐに視線を走らせる。ダイヤモンドとエメラルドの不安は的中し、サファイアとオパールは怪人に捕獲され、文字通り締め上げられていた。

「サファイア!!オパール!!」

「助けに行かなきゃ・・・!!」

 が、いかんせん人が多かった。この野次馬の前に三段腹を揺らしながら登場し、正義の味方だの愛の戦士だのと名乗り上げる勇気はない。どうしても最後の一押しが足りない二人の、その存在に気づいていないダークナイト・メアが、高笑いしながらラブリードリーム・ジュエルを侮辱する。


「あーはっはっは!!これが私を封印したラブリードリーム・ジュエルとはな!!人間とはなんと脆いものよ。30年を経てここまで衰えるとはな。すっかり老いて、もはや私の敵ではないではないか!!しかも5人そろっての伝説の戦士が、こんな半端な人数で私に逆らうとは。ああ、片腹痛い。愚かであることもここまで来るとなんと哀れな!」


「なんですって!!」

 その瞬間、ダイヤモンドとエメラルドのためらいが消滅する。二人は怒りにかられ、それまでの戸惑いも羞恥心もかなぐり捨てて立ち上がった。

「行くよ、エメラルド!!」

「もちろんよ!!」

 そのままつま先に力を込めると、踏み込むエネルギーが全身に伝わる。ルビーの語っていた通り、30年のブランクを感じさせない、いや、それ以上に途方もない未知の力が湧き上がってくる気がした。

「二人を放せえええ!!」

 ダイヤモンドが宙を舞い、怪人へと突進して体当たりする。バランスを崩した怪人が二人を放り投げると、メタボとは思えない素早さでエメラルドがキャッチした。

「ダイヤモンド・・・エメラルドも!」

 壁際でよろよろと身を起こしたルビーが、かすかに笑みを浮かべて名前を呼んだ。その声に、観衆の間にざわめきが走る。

「ダイヤモンドとエメラルドだって!?」

「あの伝説の戦士が・・・ついに全員そろった!」

「ルビーとサファイアとオパールだけでなく、残りの二人も現れたぞ!!」

「あれがあの、ラブリードリーム・ジュエル!?すごい、マジで本物見たの初めて!!」

「すごい、この前歴史の授業でやったばっか!」

 そうよ、私たちはあの伝説の戦士・ラブリードリーム・ジュエル。5人そろえば何も怖くない、どんな敵にも負けないわと、ダイヤモンドが怪人とその背後に浮かぶダークナイト・メアのをにらみつけた。

 が、観衆の無責任な声はにまだ続きがあった。

「最初の3人はおばさんになったとはいえ、そんなに劣化してなかったのに・・・」

「すげえメタボってる・・・」

「なんかミシュランのムッシュ・ビバンダムみてえ。腹が段々になってる」

 その声に、ダイヤモンドとエメラルドの顔色が変わったのを、ルビーをはじめとする3人は見逃さなかった。やばい、余計なことを言うな。ただでさえその声を恐れて尻込みしていた二人が、劣勢に勇気を奮わせて来てくれたというのに、そのせいで戦意を喪失したらどうしてくれるのだと心で叫ぶ。

「ゴーストバスターズのマシュマロマンみたい」

「ボンレスハム食いたくなってこねえ?あれ見てると」

「それであのコスはきっついわ~」

「やだあれ、受けるんだけど。スマホで撮ってブログにアップしたらまずいかな」

「正義の味方なう~。メタボ警報絶賛発令中なり~」

 やめて、それ以上言わないで。守られてる立場なんだから、おとなしく黙っていなさいよ。3人はダイヤモンドとエメラルドのために、彼らにそう怒鳴りつけたい気持ちになる。いや、実際に怒鳴りつけてやろうとした。

 が、そんなものはすべて杞憂に過ぎなかった。

「むかつく・・・何でここまで言われなきゃいけないのよ・・・ねえ、エメラルド」

「そうよ・・・しょうがないじゃない。私たちだって普通に暮らしてたんだから。それじゃあなたたちは絶対に太らないって言いきれるのか、聞いてやりたいわよ!」

「それもこれもみんなあいつらのせいだよ」

「そうよ、全部あいつらが復活したから悪いのよ!!」

 そう恨み言を言い合うや、二人の全身から炎が燃え上がる。エメラルドの体を緑の炎が、ダイヤモンドの体を七色の炎が包み込む。

「全部あんたのせいよー!!」

「ぶち倒す!!」

 そう叫ぶや否や、ダイヤモンドとエメラルドが手と手を組み、二人の必殺技を掛け合わせてより強い攻撃を放った。その名も、「ダブルスターダスト」である。

「うがががががっ!!」

 攻撃をまともにくらった怪人は、そのままグラングランと揺れてから倒れこんだ。三人がかりで戦ってもダメージを与えられなかったというのに、それより一人少ない二人の、たった一撃でダウンさせるなんて。メタボを晒し者にせざるを得ない羽目になった怒りは、こんなにも計り知れないエネルギーを生み出すのだろうか。

 ルビーたちの驚愕を証明するように、ダイヤモンドとエメラルドのターンはまだ終わっていなかった。

「私たちにここまでさせたのよ!!さあ、心を入れ替えなさい!!」

「他人を羨んでいないで、あなたのできることを頑張ると誓いなさい!!」

「ヒィイイイイイイイイ!!」

 どうやら宿主となった人間は、二人への恐怖心から反省できたらしい。怯えながら叫んだかと思うと、そのまま元の人間の姿へと戻る。

「ああ・・・俺の体が!!やったあ、元に戻れたあ!!」

 が、自分のやらかした騒ぎを棚に上げ、無邪気に喜ぶのは、またそれはそれでいただけない。

「ちょっと!!」

「え?」

「謝罪くらいしたらどうなの!?」

 怒りのあまりダイヤモンドは、その眼を座らせつつそう詰め寄った。



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