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戦う理由

 あれほど言葉を尽くして懇願したというのに、なおも拒絶体制のままでいる二人に、ルビーは言い知れない無力感に襲われた。

「ひかる~、翠~・・・」

「だって無理なものは無理なんだもん!!」

 見た目はさておき、中学生だった30年前のままのごねかたをするひかるに、もはや何と言って説得すればいいのか、ルビーには何の手だても思いつけずにいた。

「お願いだから。全員そろわないと、フルパワーでは戦えないんだよ?わかってるでしょ?」

 ルビーの泣き言にも似た訴えに、今度は翠が拒否を示した。

「どうせ30年前に比べたら、全員そろったってフルパワーなんて無理よ。私、あれからほとんど運動らしい運動なんてしてないもの!」

「コスチュームに変身したら、パワーはみなぎってくるって!私だって、実際の変身は30年ぶりだけど、なんていうか・・・こう、力が湧いてくるみたいに体中が熱いよ。こんな感じ、この30年でなかった!変身したらこんなだったなって、すっごい久しぶりに感じてるもの!!」

 が、この主張もまた二人には通じない。ひかると翠はハモる勢いでそれを否定する。

「それはルビーが運動続けてたからでしょ!!」

「だったらいざって時に備えて、何かしてたらよかったじゃない!!」

 そしてその二人の否定を、サファイアがさらなる否定で重ねる。もちろん、そうされたところで納得するわけがないのだが。

「いざって時なんて来ないって思ってたもん!!実際、この30年間は何にもなかったじゃない!!」

「活発なひかるちゃんならまだしも、私はもともと運動なんて苦手だったし、正直戦うのも好きじゃなかったんだもの!!終わってその後までまた、いつあるかも知れないような戦いのための訓練なんてしたくないわ!!」

「私だってやだ!!活発と運動神経は別だもん!!正直、あんまり言いたくないけど・・・この前の健康診断でも、ちょっとメタボにひっかかっちゃったし・・・」

 その言い分に、自分だけ巻き込まれるなんて冗談じゃない。こうなったらみんな変身しなければ気が済まないとばかりに、サファイアが声を荒らげた。

「だったらせめて、食生活のバランスを考えるとか、お菓子ばっかり食べないようにするとか、そういう努力だけでもしていればよかったじゃない!!」

「ひどい!!サファイアだってさっき、娘とお菓子作りなんて素敵って言ってくれたじゃない!!」

「そりゃ・・・自分の子となんかするってうらやましいと思うし、実際そう言ったけど・・・だからってなにも、メタボ検診にひっかかるまで、のんべんだらりとしてるのがどうかって言ってるのよ!!」

 しかしその言い返しは、同時に翠の胸にも突き刺さった。

「ううっ!!私も同じ体型なのよ!!家で仕事してるんだもん、そんなにカロリー消費できないのよ!!家族に迷惑かけることもあるから、収入でおいしいもの食べに行ったりグルメ旅行したりとかしてるのよ!!ごめんなさい!!」

 どうしよう・・・と、すでに変身済みの3人が困惑する。ルビーの主張も、サファイアの叱咤も、ひかると翠の頑なな心を溶かせはしなかった。

 そのとき、ここまでずっと沈黙を守っていたオパールが、同じ主婦の立場で口を開いた。

「ひかるさん、翠さん・・・私もお二人の気持ちは、痛いほどわかるわ」

 変身前はお嬢様口調だったが、すでにオパールの姿だったため、みんなとさほど変わらない話し方になっている。

「オパール!?」

 オパールの意外な切り出しに、ルビーとサファイアが目を大きく見開く。が、オパールは自分の言い分を飲み込もうとしなかった。

「私だってママ友とのお付き合いがあるから、ランチだなんだで外食が多いし、運動だってたいしてしてない。ジムに通おう通おうと思っても、体を動かすのって疲れるし、ついつい楽なエステに流れてしまうもの」

 エステで体型維持できてるんだからいいじゃないと、二人の表情に陰りがさす。が、オパールの話はそれで終わりではなく、その続きこそが本題だった。

「でもね、これは運動じゃない、戦いなんだよ。誰かがやらなくちゃ、この世界が大変なことになっちゃうのよ。それってどういうことかわかる?大切なものを守れないってことなんだよ」

「それは・・・さっきルビーにも言われたし、わかるけど・・・」

「ううん、ひかるさん、本当の意味で分かってない。翠さんもだよ」

 オパールは静かに首を横に振り、まっすぐに二人を見据えて指摘する。

「二人の守りたいものに、二人の家族は入っていないの?」

「それは・・・」

「二人の大事なお子さんはどうなってもいいの?一緒にお菓子を作る日常を、笑って食事に出かける毎日を、この手で、私たちの力で取り戻すのと、自分の体型を隠すのとどっちが大切なの?」

 そこまで言われて、ひかると翠の目つきが変わる。

「もちろん家族だよ!!私の宝物は、娘だよ!!」

「私も間違ってたわ!!自分の体のラインより、夫や子供を守る方が大切よ!!」

 心を決めた二人の、次の動きは素早かった。右手を高々と掲げてその手にスティックをつかむと、そのまま胸の前でクロスの型を作る。スティックは翠を緑色の粒で、ひかりをさまざまな色の粒で包み込み、戦士への変身を覆い隠した。


「夢見るように癒す愛、守護の化身、ラブリードリーム・エメラルド!参上!」


「夢見るように輝く愛、光の化身、ラブリードリーム・ダイヤモンド!参上!」


 光の粒が消滅すると、そこにはエメラルドとダイヤモンドの姿があった。ラブリードリーム・ジュエルが30年ぶりにそろった瞬間だった。


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