プロローグ
岸壁の上に立つとダイヤモンドは、その手の中にすっぽりとおさまっている小さな小瓶に視線を落とす。長かった。本当に本当に長い戦いだった。しかしその戦いも、諸悪の根源であるダークナイト・メアをこの小瓶に閉じ込めたことで終わりを迎える。あとはただ、この小瓶を海の底へと投げ捨ててしまえば、すべての野望は完全に封じ込められてしまうはずなのだ。
「それじゃあ・・・投げるよ!」
ダイヤモンドの言葉に、仲間たちが無言のまま頷く。メンバーの中で一番活動的で強気なルビー、誰よりも知的で作戦参謀だったサファイア、穏やかでみんなのまとめ役だったエメラルド、お嬢様育ちで戦闘なんてと戸惑いながらも必死に頑張ってくれたオパール。5人全員が疲れ切ってぼろぼろになりながらも、それでも最後まで戦い抜いた大切な仲間たちだった。
「さようなら、ダークナイト・メア!世界はもう誰にも終わらせない!!あたしたちがいる限り!!」
ダイヤモンドがそう叫びながら小瓶を投げると、それは放物線を描きながら海の上に落ち、やがてゆらゆらと揺れる波の狭間に解けるように吸い込まれていった。
「これで・・・もう終わりなんだね」
「あたしたち、頑張ったよね!」
仲間たちが、誰ともなく涙声でつぶやく。そしてそのつぶやきを口にしたことが、決壊を破ったかのように、5人は声をあげて一斉に号泣した。
まだ中学生だった。まだほんの、14歳たちだった。ある日突然「伝説の戦士」という役割を押し付けられ、ただひたすらその正体を隠して戦い続けていた。そんなあまりにも幼い少女たちの細い体にのしかかっていた、世界を守るというプレッシャー。その重責から解放された今、5人の中には達成感だけではない、言い知れない虚しさもこみあげる。
「もう戦わなくていいんだよね!?あたしたち・・・もう普通の女の子に戻っていいんだよね!?」
「世界を守ったんだから、もう・・・もういいよね!?」
みんなの言葉に、最初に涙をぬぐったのはダイヤモンドだった。ドジでおっちょこちょいで、なんでダイヤモンドがリーダー?とからかわれながらも、それでもみんなが彼女を支持していたのは、きっとその芯の強さからくる明るさのためだったに違いない。
「そうだよ!あたしたち、たった5人で世界を守ったんだよ!!でも・・・あたしは、もしもまた世界が危機にさらされたら、またきっと戦うよ!!たったひとりでも戦うよ!!だけど・・・」
目に涙をためながら、ダイヤモンドはまっすぐに海へとその視線を向けた。
「だけどでも、そのときはやっぱりみんなと一緒に戦いたい!だってあたしたち、5人そろってラブリードリーム・ジュエルだもん!!」
ダイヤモンドのその叫びが、みんなの心に火をつけた。
「そうだよね、あたしたち仲間だもん!!」
「世界の平和を守るために、あたしたちが生きてる限り、きっとまたみんなで戦おう!!」
「約束だよ!!」
こうして愛戦士・ラブリードリームジュエルは解散した。
彼女たちはそれぞれがそれぞれの学校へ戻り、それぞれがそれぞれの生活にと帰って行った。そしてそのまま世界を脅かす存在は現れず、平和を維持したまま卒業し、進学し、就職し、あるものは結婚や出産を経て、気が付けば30年の歳月が流れていた。