春には桜が咲き、桜が散ります
桜が散り始めたから明日のお花見は中止になった。
もともと集まりもあんまり良くなかったらしいよ。連絡をくれたアキが誰となく文句を言うように教えてくれた。
卒業してから会える最初で最後のチャンスだったのに。ベットの上で小さく膝を抱えてケータイを握りしめる。思った以上に落胆した自分を自覚した。次会うときはお酒なんかの見ながら思い出話に花を咲かせるのかな。あの時、高校生の時ね、私吉田のこと好きだったんだよ。信じる?バレバレだったよって笑われるかもしれない。自分も好きだったなんてキセキみたいなことを言われるなんて思ってない、そんな期待はしてない。でも知らなかった、ってそう言われるただの想像が今の私の気分を一層重くさせた。
手持ち無沙汰に着信履歴を見返して、辿り着いた11ケタの数字を目で追う。忘れてほしくない。たまに、高校時代を思い出した時にふと一緒に頭に浮かぶだけでもいい。そういえばあんな奴いたなって、それだけで十分。高校時代最後の思い出に自分を刻みつけたいなんてとんでもない贅沢だった、そんなの後になってから思えばいい。
夜の空気に静かに響くバイクの音が静かに家の前を去っていく。唸り声をあげ、窓を揺らす春風が今も尚、絶えず桜の花びらを吹き飛ばしていることを考えると自然と目が細まった。
スケジュール帳に大きく書かれたお花見の文字。嬉々として記したそれを消そうと修正機を手にとったがふと考え直して筆箱に戻した。かわりに大きくバッテン印をつけた30日の枠を指先でなぞり、その指先をそのままタッチパネルでスライドさせた。
このコール中にも君のケータイ画面には私の名前が表示されているのだろうか。
心臓が激しく暴れた。ケータイを支えられないほどに手が震えた。
午前0時の3秒前、このコールがきれると同時に私は君との最初の思い出を歩む。