三毛猫を見ていたら
三毛猫を見ていたら彼女は急に僕の目の前にうちわを出した。僕は春始めのまだコートが取れないこの時期になぜそう季節感の無いものを軽々と出してきたのか理解に苦しんだ。
「なあ。僕が寒いの嫌いだって知っててそれを出しているのか」
「もちろん」
儚く即答された。三毛猫は僕に寄ってくるなり僕の膝に乗り丸くなって暖をとった。そう。僕が求めているのはそう言うものだ。
と、言葉で言わなければならないのかまだ目の前にうちわが存在していた。
「寒いの嫌いだって……」
「もちろん」
「話は最後……」
「もちろん」
「聞く気……」
「もちろん」
僕は負けた。折れた。きっとこうやって春始めの春一番が吹いているなか僕は三毛猫を撫でながらうちわを持っているという、もう浴衣だったらキンキンに冷えたスイカでも食べながらのこの状態が至福の時と言えるだろうが、だがしかし春始めの寒い一日だ。おかしいだろ。
「なぁ、なんでうちわなんか持ってきたんだ? 寒くするという悪意をもった行動をするのであれば、扇風機、エアコン、古典的に氷でもよかったのでは?」
「なにをバカなこと言っているのだ馬鹿。お前は馬鹿なのかバカ」
いや、既にうちわが出てきた時点で馬鹿になりそうだ。と喉まで出かかったが、如何せん三毛猫が寝返りをうった。
三毛猫を見ていたら思った。
「やっとわかった顔をしたな」
夏でうちわを使うと、使わなくなったときに熱くなる。人はこう説くだろう。扇いでたから暑いんだよ、と。動くことによる運動で熱が生まれ体温が上がったのだ、と。
「なら僕は一生懸命扇げば暖かくなるんだな!」
僕は必死に自分を扇ぐ。しかし三秒でやめた。意味がないと。
三毛猫は僕から離れチラッと僕を見てから彼女の膝の上で丸まった。彼女はそんな三毛猫を撫でながら微笑んだ。そして幸せそうに呟いた。
「温かい」
三毛猫を見ていたら思った。寝返りをうったのではなく寝返ったのだと。
読んでいただいてありがとうございました!
単に三毛猫の奪い合いでしたがなかなか訳のわからない取り合いでした。三毛猫で暖をとる感じはほのぼのしますね。そんな妄想を広げましたが、今回はこの辺で。