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トワイライト・アーム

作者: ゥ〜サン

 

 ――――それは黄昏の武器、「トワイライト・アーム」と呼ばれた伝説の武器。


 ――――争いは人の世の常。


 ――――「トワイライト・アーム」は、そんな下らない世の常を終わらせる事ができる、唯一無二の存在。




 ――――それ即ち、世界を滅亡させる存在――――



     *          *          *



 「放してくれ!僕がやらなきゃいけないんだ!」

 私は、死に物狂いで彼の手を引っ張った。

「イヤ!絶対にイヤ!」

「やらなきゃ世界が滅ぶんだ!」

 それでも彼が死ぬのはイヤだ。だから私は、彼の手を死に物狂いで引っ張っている。




 思えば、あの日あの時から私達の運命は変わってしまった。

 何もない普通の村で生まれ、そこで育ち、幼なじみとして暮らしてきた彼、スフィアと私、サクラ。

 一緒に川で遊んで、一緒に野原を駆け回って、一緒に銃の練習をして、一緒に昼寝して、一緒に夕食を食べて。

 

 一緒に――――将来、結婚することをを誓って――――


 そんな生活が終わりを告げるきっかけになったのは、伝説の武器、古代文明ロストテクノロジーの遺産「トワイライト・アーム」を持った女の人が来たことに始まった。

 その女の人は、経緯は分からないけどこの世に絶望し、この世を壊そうとしているらしい。

 次々と村の人たちが殺されていった。隣のおじさんも、花屋のお婆ちゃんも、私の妹のような存在のノイルも、たった一人の家族のお兄ちゃんも、みんな殺されていった。

 ――そして残ったのは、私とスフィアだけ。



 

 「なぜ村の人々を殺すんだ!答えろ!」

スフィアがガバメントを構えながら言い放った。それに気圧されて、私も手に握っていたリボルバーを女の人に向けた。

 その人の服は、所々が破けて汚れていた。質素にも程がある。そんな生活を送ってきたのだろうか?……いや、今はそんな事、どうでもいい。問題は、この状況をどう打破するかだ。

 二十代後半のその人は、どこかで見たことのある人だった。声も、髪の色も、顔つきも、何かしら見覚えがある。でも、どんなに記憶を探っても、心当たりがない。こんな人、今までに見たことすらない。それでも、なぜか懐かしい感じがする。――厳密に言うなら、懐かしいではなく、哀愁だ。

 その美しい容姿には、殺意に満ちた冷徹な表情しか浮かんでいない。数メートル離れたところで、冷徹に私たちを睨んでいる。そしてその手には、金色の何かを握っている。

 ――金色の目映い光を放つ、40口径のリボルバー。それが、黄昏の武器と呼ばれた伝説の武器、「トワイライト・アーム」なんだと一瞬で察した。


 ――――あれが伝説の武器、トワイライト・アーム?


 ――――ただのリボルバーじゃないか。


 初めはそう思った。そして、その思考は一瞬で消え去った。

 弾倉には弾がないのに、 ダブルコマンド式のリボルバーのトリガーを引くと、自動にハンマーが上がり、銃口から蒼白い光が放たれる。それは人はおろか、家や倉庫、挙句の果てには山までも吹き飛ばしてしまう。弾数は無限大らしく、いくら撃っても弾切れにはならなかった。


 ――――危険だ、危険すぎる。


 ――――いくら村で一、二を争うくらいの銃の腕前を持つ私たちでも、アレには敵わない。


 ――――いや、今の科学力でアレに勝るものなんてあるはずない。


 ――――逃げなきゃ。


 ――――でも何処へ?


 ――――逃げたって世界が壊れる事に変わりはない。どこにも逃げ場なんてないんだ。



 そんな思考が頭の中を過ぎった瞬間、スフィアが、一歩、また一歩と前進を始めた。

「ちょ……スフィア?何してるのよ!殺されちゃうよ!」

「何って、あの人を止めるんだ!もしくは、殺すか……」

何を言っているんだ?――止める?どうやってあの人を。――殺す?先に殺されてしまう。余談だが、彼女の銃の腕前は私たちと同等か、それ以上だった。

 「誰かがやらなきゃ世界が滅ぶんだよ?だったら、僕がやる!僕が世界を救ってやる!」

無茶だ。あんな恐ろしいものにどう立ち向かえと?あんな冷徹な目で尚も睨んでいる人にどう対処すると?

「ダメよ。絶対ダメ!」

「………………」

スフィアは私を無視して、また前進を始めた。無論、私は慌ててスフィアの手を掴んだ。そして力の限り引っ張った。

「放してくれ!僕がやらなきゃいけないんだ!」

 私は、死に物狂いで彼の手を引っ張った。

「イヤ!絶対にイヤ!」

「やらなきゃ世界が滅ぶんだ!」

 それでも彼が死ぬのはイヤだ。だから私は、彼の手を死に物狂いで引っ張っている。

「僕はサクラが好きだ!心から愛してる!だから、ここで大切な人を失いたくないんだ!」

「私だってスフィアが好き!将来は結婚して、幸せな家庭を築きたい!――でも、死んだら元も子もないんだよ?それに残された私の心はどうなるの?」

「――――――ッ!」

言った瞬間、彼の力が弱まった。チャンスだ。

「だから行かないで!今は逃げよう。それしかないよ!」

「………………」

全身の力が抜けて、スフィアが完全に停止した。

 ――――よかった。そう思った瞬間だった。

 

 がはっ!


 溝に、スフィアの拳がめり込んでいた。

「――――スフィ………ア?」

「――――ごめん、サクラ」

そう言って、スフィアは倒れかかっている私にキスをして、一目散に走っていった。

 「うわあああああああああ!」

 スフィアの叫び声だ。きっと、女の人に向かって走ってるんだ。

 

 ――――ダメ。行ってはダメ。


 ――――行ったら、もう会えなくなる。


 ――――お願い、私を、




 ――――ひとりにしないで――――




 そんな想いが届くはずもなく、スフィアは一瞬にして蒼白い光に包まれて、その姿を消した。

 「………………」

地べたにへたり込みながら、スフィアの死の一部始終を見届けた。

 もう、何も考えられない。もう、何が正しいとか、そんな些細な事はどうでもいい。

「――許さない」 

 いま私のすべきこと。

「――――絶対に許さない」

 怒りが胸に込み上げて、それにつれて身体も持ち上がっていく。

「――――――殺してやる!」

 私のすべきこと。それは、


 ――――この殺人鬼を殺すこと――――

  


 「このおおおおおお!」

腰に吊ったもう一丁のリボルバーをとり、私は殺人鬼に向かって走り出した。

 私は二挺拳銃の使い手で、命中度が私の武器だ。使っているリボルバーはいずれもシングルコマンド式。いちいちハンマーを上げてトリガーを引く、手間のかかるやり方だ。更に二挺拳銃だから、弾のリロードが難しい。全て撃ち切れば、負けたも同然。

 ――だけどそれは私には関係ない。撃ち切る前に殺せばいいんだ。

 まず右手に持ったリボルバーのハンマーを親指で上げ、トリガーを人差し指で引き、弾丸を弾き飛ばした。続いて左に持った方も、同じようにして撃った。

 ずどん、ずどんと、立て続けに重たい発砲音。

 狙うは額と胸部。怒りが頂点に達している私だが、それでも落ち着いて、正確に殺しにかかっていた。


 ――――私の銃の腕前には一寸の狂いもない。


 ――――あとは、金属の塊が殺人鬼の額と胸部を貫通するのを待つだけ。


 ――――それで、“復讐”は終わる。


 そう確信した直後だった。

 キンッ!キィンッ!

「――――――!」

二つの弾丸を、瞬時にトワイライト・アームで弾いた。相変わらずの冷徹な仏頂面で、目に見えない速さの弾丸を弾いた。


 ――――有りえない。


 ――――確かに、目線と銃口を見れば弾丸を避けることは可能だ。


 ――――だがそれは決して容易ではない。

 

 ――――むしろ、無理に等しい。


 ――――だけど、それをこの殺人鬼はやってみせた。


 「――ッく、くっそおおおおお!」

 絶望だ。やはり、こんな相手に勝てる訳がない。

 それでもリボルバーを撃ち続けているのは、悪あがきか、それとも――――




 「終わりね、お嬢ちゃん」

感情の籠もっていない、綺麗な声。都会に出れば、間違いなく歌手になれるだろう。

 私は弾を撃ち切り、戦意を失くしてへたれ込んでいた。目からは涙が止まらず、殺人鬼にそれを見せないよう俯いていた。

「……殺しなさいよ」

小鳥のようなささやきで言った。

「殺しなさいよ!さっきのスフィアみたいに、お兄ちゃんみたいに、ノイルみたいに!」

「………………」

「ねえ、聞いてるの?早く殺しなさいよ!もう命なんて惜しくないわ!さあ!」

いくら怒鳴っても、殺人鬼は答えなかった。ただ、軽蔑するような目で私を見下ろしていた。

「――っは!今更になって殺すのが怖くなったの?それとも、慈悲?――まあ何でもいいわ。貴方が殺さないなら、自分で舌を噛みきって――」

「――ふふ、あはははは!」

不意に笑い出した。気違いのように、高々と。ただしそれは、皮肉るとか、そんな笑いじゃなくて、なにか可笑おかしくて笑っているようだった。

「な、何よ……」

「……いえ、過去の自分を見ていると、ほんとに可笑しくって」

は?過去の自分?――――ああ、なるほど。過去の自分を見ているようで、ね。

「私もこの頃は、よく笑ってたんだ。それが一瞬にして終わって、今の私がいて、そして――」

独り言なのか、言い聞かせようとしているのか分からないが、一度間を置いて、

「これからの私がいるのか、それともいないのか――」

「――――ッ!」

言ったあと、トワイライト・アームを私に突きつけた。


 ――――ああ、やっぱり殺すんだ。


 ――――まあいいか、これはこれで。


 ――――これで、みんなの元へ逝ける。


 ――――待っててね、スフィア。これから、この壊れた殺人鬼に殺されて、そっちに逝くから。


 思わず笑みと涙がこぼれて、私は身を捧げるように、両手を胸の前で握って、目を閉じた。

「――――待っててね。今逝くよ――」

「いいえ、まだ逝かないわ、サクラーヌ=ストリアムルさん」


 ――――え?なぜ私の名前を?


 私は思わず目を見開いた。

 “彼女”は優美な笑顔を向けて、

「――向こうに行ったら、貴方と“私”によろしく言ってね」




 ――――その言葉を最後に、私は蒼白い光へと包まれていった――――



   

      *          *          *



 ――――冷たい。凄く冷たい。


 ――――ここは何処?


 ――――天国?それとも、地獄?


 ――――いや、どちらでもない。




 ――――この独特の湿った空気と、遺跡固有の変な匂いは――――




 目を開けると、私は石畳の上にうつ伏せになって倒れていた。

「………………」

意識が朦朧としていて、ゆっくり身体を起こした。私の自慢の長い髪が、下に垂れた。――あれ?こんなに髪が長かったっけ?いや、寝ぼけてるだけだ。きっとそうだ。

 身体を完全に起こして、私はしりもちをついて辺りを見回した。

 石造りの、薄暗い廊下。天井からは滴が垂れてきて、私の頬を濡らした。壁には苔が生えて、よく分からない虫がいたりした。


 ――――そうだ。ここ、村の近くの遺跡だ。


 昔からここでよく遊んだ記憶がある。

 私一人じゃ怖いから、よくスフィアを連れてきた。そして十四のときファーストキスをして…………


 ――――ちょっと待て。


 ――――ここは、村が襲撃された時に一緒に“彼女”に壊されたはずだ。


 ――――それなのになぜ?


 ――――ああ、そっか。そういうことなのか。




 ――――夢だ。すべて夢だったんだ――――




 きっとそうなんだ。現に私は、こうして生きている。あの時殺されたはずの私は、何の問題もなく生きている。――と言っても、なんか身体が重い。ここに来て居眠りでもしたのかな?

 なんか、ここに来た記憶がない。連れてくるはずのスフィアもいない。――なんでだろ?

 ま、いいか。気にすることはない。あれはただの悪夢で、現実じゃない。皆は無事だ。――今は、それ以上に何も望まない。皆が無事でいれば、それでいい。


 私は村に帰ろうとして、重い身体を持ち上げて立ち上がった。そして、自分のあらゆる異変に気づいた。


 ――――あれ?いつもより目線が高い。見上げていた石像が今ではやや見下ろしている。


 ――――ん?やっぱり、髪が長い。腰を越えている。


 ――――え?こ、こんなに胸に膨らみがあったっけ?


 ――――それに、やっぱり身体がいつも以上に重い。


 どう考えてもおかしい。これは寝ぼけているからだとか、そんな次元じゃない。明らかに、私の身体に異変が起こっていた。


 ――――どうしよう。


 ――――そうだ。確か、この先に鏡があったはずだ。


 ――――それで自分の姿を確認しよう。


 期待と不安を抱きながら、私は駆け足で行った。

 迷路のような廊下を右折し、左折し、また右折し――――鏡のある空間にたどり着いた。

 少し息が切れているが、大丈夫だ。


 ――――さあ、このうす汚い鏡で、自分の姿を見よう。


 私は、鏡の前に立った。





 「…………なに、これ。……本当に、私?」

絶望だ。その姿は、悪夢の中で村を襲った“彼女”だった。

 声も、容姿も、髪の色も、全てあの人と一緒だ。

「……どういうこと?」

 そんな思考が頭を過ぎったときだった。

 「こっちだよ、サクラ!早く!」

「待ってよぉ、スフィア!」

聞き覚えのある声。――――私とスフィアの声。

 私はとっさに鏡の後ろに隠れ、廊下の先を見た。そこには、十五歳の頃の、つまり今の私とスフィアがいた。


 ――――過去の、自分?


 二人はそのまま走り去っていき、やがて静寂が訪れた。

「…………これも夢?」

今は、そう考えるしかなかった。





     *          *          *





 「まさか、この遺跡にあったなんてね」

 遺跡を適当に歩いていて、ある隠し扉を見つけて、その奥の部屋まで来て、そこの石の台の上にある金色に光るものを見つけて――


 ――――トワイライト・アーム――――


 ダブルコマンド式リボルバー。それはまさしく、悪夢の中に出てきたそれだ。


 ――――つながった。


 ――――今この瞬間、全てがつながった。



 “彼女”は私だったんだ。

 村の人を殺し、愛するスフィアを殺した張本人は、私だったんだ。


 つまり、私はあの時、“私”に撃たれた。そして何らかの影響で、村が襲われる前の過去に飛ばされた。

 ――――身体が大人になった状態で。

 過去に飛ばされると同時に、私の身体はおよそ十年の月日分を一瞬で成長したんだ。

 そして、今目の前にあるトワイライト・アームで村を襲い、今の“私”を撃つ。そしてその“私”は過去に飛ばされ、同じように村を襲って、また“私”を撃つ――――その繰り返しだ。

 結局私は、何度も“私”を撃ち続け、スフィアを殺し続ける“殺人鬼”なんだ。


 ――――変なの。


 ――――不思議と悲しくならない。


 ――――むしろ、心が晴れるようだ。


 ――――悲しみとか、そういうのを通り越したからかな?


 どっちでもいい。問題は、今、私がやるべきこと。


 ――――ここで自害するか。


 ――――それとも、目の前の銃を手にして、村を襲うか。


 ――――それとも、村の人たちに真実を話すか。


 「……バカね。答えなんて、最初から出てるじゃない」

自分自身を皮肉り、そして言い聞かせた。

 ――そう。私は、同じように“殺人鬼”になる道をとった。

 たとえ、お兄ちゃんを、ノイルを、おじさんを、――スフィアを殺す事になっても構わない。私はやる。


 ――――今となっては、誰が死のうと知ったこっちゃない。


 ――――だって、私の好きだったスフィアは、私の目の前で死んだんだから。


 ――――現在にもスフィアはいるが、そのスフィアを愛してるのは私ではなく“私”。


 ――――それに何より、私は、




 ――――確かめたいし、狂わしたくない――――




 ――確かめたいと言うのは、あの後、“私”を撃った私はどうなるのか、ということ。

 死ぬのか、生きるのか。どちらでもいいが、もし生きるとしたら、どんな人生を歩むのか。

それが知りたくて、妙に胸が躍っている。

 ――狂わしたくないと言うのは、“時間の逆説”を生み出したくないということ。

 もしここで私が自害すれば、その時点で時間の流れが狂ってしまう。そうなると、私も、

“私”も、スフィアも、皆の存在が消えてしまうか、この世になかったことになるかも知れない。むしろ、世界が崩壊してしまうかも……。

 ――それは、私の望むところではない。誰が死のうと知った事ではないが、世界が滅ぶ事とはまた別だ。

 私はこの世界、「ミレーナ」が好きだ。だから壊したくない、ただそれだけのこと。


 ――――ふっ。どうしてしまったんだろう、私は。


 ――――ついさっきまでなら、こんな事は考えもしなかったろうに。


 ――――これが、私の本当の姿なのかもしれない。




 ――――“殺人鬼”を通り越した、“修羅”と言う名の悪魔――――




 「今思えば、あの時“私”の言っていたことも、全部つながるわね」

 私は、伝説の武器と言われたトワイライト・アームに向かって歩き出した。

 「……いいじゃない、やってやるわ」

 私は、金色のトワイライト・アームを掴んだ。

 「地獄に逝こうがどこに行こうが、私は神に与えられた最凶最悪の運命を果たしてみせるわ――」

 言って私は、ぼろぼろの服を身にまとった状態で遺跡を出た――。





     *          *          *       





 「に、逃げろぉ!」「殺される!」「じゅ、銃を持ってこい!」「ぼうや、早くお逃げ!」

「うわ〜ん、お母ちゃ〜ん!」「神よ……お助けを……」

 見苦しい。率直な感想だった。

 人は混乱に陥ると、こんなにも見苦しくなるものなのか。それが生きるためなら、尚更だ。

 

 私は、あの時いきなり“私”が来たように、いきなり自分の村へ来て、破壊を始めた。

 トワイライト・アームを撃てば撃つほど、蒼白い閃光があらゆるものを薙ぎ払い、焼き尽くし、消し去った。それは家であったり、人であったり――。

 よく一緒に銃の練習をした友達や保安隊のおじさん達が撃ってくる弾も、簡単に銃身で弾ける。

  

 ――――十年も身体が成長すると、こんなにも身体能力に差が出るものなのかな?


 皆の動きが、止まっているようだ。これも、やっぱりトワイライト・アームに撃たれた影響なのか、それとも単にトワイライト・アームを所持しているからか――どちらかだろう。

 まあ、そんな事はどうでもいい。今は、あの時と同じ事をするだけ。

 まず“私”とスフィア以外の村人を全滅させる。あの時と同じように。

 「おい!いい加減にしろ!」「そ、そうだ!」


 ――――この声。


 ――――お兄ちゃんと隣のおじさんだ。


 そちらを振り向くと、二人はショットガンを構えて立っていた。強気なのがお兄ちゃんで、少し引き気味なのがおじさん。

「そこまでだ!おとなしく縄につけ!」

「ア、アンタのような美人がそんな事す、するんじゃない!か、彼の言うとおりにしなさい!」


 ――――ふふ、相変わらずだ。相変わらずの保安隊員だ。


 ――――お兄ちゃんは何者をも恐れない、強くて優しい人。


 ――――おじさんは少し弱気な、愉快で面白い人。


 「……さようなら。ハイジお兄ちゃん、ガルベスおじさん」

「な、は?」「え?ま、待ちたま――」

 私は笑顔で、何のためらいもなくトリガーを引いた。



 

 「なぜ村の人々を殺すんだ!答えろ!」

 スフィアが私に向かって怒鳴っている。このときの私は、ただ逃げる事を考えてたっけ。

 やはり私は、あの時と同じように二人を冷徹な目で睨んでいた。

  

 ――――この時は、必死だったんだ。


 ――――必死にスフィアを止めて、必死に“私”を殺そうとして。


 




 ――――そして、私と“私”は、ここにいる――――






 スフィアがこっちに向かってくる。ガバメントで狙いをつけながら、泣きながら必死に叫んで走ってきていた。

 それでも、私はトリガーを引いた。やはり、ためらいはない。


 「………………」

 「――――――殺してやる!」

 必死になって殺しにくる“私”の弾を、私はいとも簡単に弾いていく。どんどん撃ってきて、それをどんどん弾く。

そして、最後の弾を弾いた。

「あ…………」

 彼女は弾を打ち切り、へなへなと座り込んだ。――きっと、絶望の淵に立たされて、何もかも諦めて、死を覚悟しているだろう。

 なぜ分かるかって?


 ――――だって、彼女は“私”なんだから。







 「終わりね、お嬢ちゃん」

 あの時と同じ台詞。

 「……殺しなさいよ」

 あの時と同じ“私”の台詞。

 「殺しなさいよ!さっきのスフィアみたいに、お兄ちゃんみたいに、ノイルみたいに!」

「………………」

「ねえ、聞いてるの?早く殺しなさいよ!もう命なんて惜しくないわ!さあ!」


 ――――可笑しくて、笑ってしまいそうだ。


 ――――これから自分に降りかかる運命を知る由もなく、私を怒鳴りつけている。


 ――――自分自身を怒鳴っているなんて、思ってもいないだろうに。


 「――はっ!今更になって殺すのが怖くなったの?それとも、慈悲?――まあ何でもいいわ。貴方が殺さないなら、自分で舌を噛み切って――」

「――ふふ、あははははは!」


 ――――ああ、やっぱり笑っちゃった。


 ――――これも全て、あの時と同じ。


 ――――やっぱり私は、どうかしてしまったのだろうか。それとも――


 「な、何よ……」

「……いえ、過去の自分を見ていると、ほんとに可笑しくって」

 私は、目の前の“私”を見ながら、

「私も、この頃はよく笑ってたんだ。それが一瞬にして終わって、いまの私がいて、そして――」

一度間を置き、

「これからの私がいるのか、それともいないのか――」

「――――ッ!」

“私”にトワイライト・アームを突きつけた。





 ――――ここからはもう、何が起こるか分からない。


 ――――“私”を撃ったあとの私は、一体どうなるのだろう?


 ――――それを知る者は、誰もいない。


 ――――もしいるとすれば、それは神以外にありえない。


 


 ――――大体、神様はなんで私が憎くてこんな運命を与えたんだ?


 ――――私が前世で何かしたのか?


 ――――こうやって私は、“私”は、時間軸の中で大罪を犯して生きていくのか?


 ――――神よ、答えろ!私は、これからどうなる?




 ――――返事が来るはずもないか。


 ――――まあいい。今は、一刻も早く“私“を撃って、この先の行く末を見届けよう。


 ――――一体どんな未来が待ち受けているのか。




 ――――そう思うと、“私”に微笑まずにはいられない。



 「いいえ、まだ逝かないわ、サクラーヌ=ストリアムルさん」




 ――――最後になるかもしれないから、口に出さないで伝えておこう。




 「――向こうに行ったら、貴方と“私”によろしく言ってね」




 ――――運命のトリガーを引いた。


 ――――これが、最後かもしれない。だからその前に、









 ――――ミンナ、ゴメンナサイ――――








よく内容が掴めない方は、も一度ご覧下さい。

二度読んだほうが分かりやすいように書きましたから♪

あと、感想は絶対ください!

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― 新着の感想 ―
[一言] 改行をもう少し減らしたほうがいいと思った
[一言] ワイルドアームズを思い出させてくれる作品でした。 描写がリアルで良かったです。 これからも頑張って下さい。
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