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いつもの朝から始まる物語




私は朝が一番苦手だ。

それは夜寝るのが遅いからなんだけど。

じゃあ早く寝ればって思うでしょうけど、並々ならぬ事情があったりするんですよ………


「紅葉っいい加減起きなっ!」

「………うむう」


毎朝布団をひっぺがしに来てくれるのは姉の楓姉(かえでねえ)

社会人だから毎朝きっちり起きる。

ありがたいこっちゃ。


「もーみーじー!?」

「起きる、起きます、起きますよう………」


モソモソとベッドから降りて着替え始める。

薄緑の七分丈のシャツに白のカーディガン、ジーパンにベルトを通して踝の靴下をはく。

全ての教科のレジュメが入ったファイルとルーズリーフその他もろもろが入った大きめの鞄と髪ゴムを持って階下に降りた。

リビングに鞄を置くと、父・エドガーはソファーに座って英字新聞を読んでて、楓姉は天気予報を見ていた。


「おはよう」

「おはよう、紅葉。またなの?」

「またなの」


母の蓮が言う『また』とは、私の元に成仏したい幽霊がやってくるのでその相談にのっていることを指す。

この世にいても、いいことなんかひとっつもないからさ、成仏の手助けをしてるってわけ。

だけど、大学の授業には関係のないことだ。

こんな理由で遅刻欠席なんてできない。

できない、んだけど…………眠いもんは眠いんだよね。


「行ってきます」


それでも何だかんだ言って行くのは、こんな理由は理解されないことを知っているからだ。





※※※※※






《おはよ、紅葉》

「ん」


半透明の女が挨拶をしてくる。

彼女は堂崎(どうざき) 桃代(ももよ)、言わずもがな幽霊だ。

しかも珍しい幽霊だったりする。

未練がないことが未練なんだとさ。

程ほどに真面目で、程ほどに不真面目で、流されるまま生きてきて、ポックリ死んだ。

この学校の窓から落ちて。

古い校舎の、窓枠がボロくてなっていた窓は周囲に侵入禁止のテープが張ってあったにも関わらず、何とはなしに近づいて、何となく寄りかかってみたら案の定、落下してしまった。


馬鹿じゃないの、って死んだ理由を教えてもらったときにそう思った。


でも、今は自由気ままな幽霊ライフを楽しんでいる。

生きていたときより楽しいとも言っていた。

山の神様的なモノにも気に入られているみたいで、負の感情が溜まりやすい学校でも、悪霊化しないでいる。

ただ、唯一の欠点が、所構わず話しかけてきて返答を望むこと。

通常なにもいないところに話しかけたら変人扱いされるってーのに。


《相変わらず素っ気なーい》

「…………」


だからこういう沢山の人がいるところでは無視するのが一番。

やれやれ。


《まぁいいけどぉ〜。ねーねーそれよりさぁ》


しかも気にしないから有難い。


春日井(かすがい) 風斗(かざと)くん、また見てるよぉ》


指差す方は見ない。

面倒事になりそうだからだ。


春日井風斗――――

同学年で同じ心理学専攻の彼は、とても有名人。

性格も顔も身長も、ついでに金銭も、全てにおいて好ましくレベルが高い。

去年と一昨年とミス・ミスターコンテストで二連覇をはたした。

まるで漫画みたいな爽やか〜な王子様。

ファンクラブまである。(ここまでが桃代情報)

ただし、顔は甘いんじゃなくて武人みたいだなと思うけど。

そんな彼がことある事に私を見つめている………らしい。

気のせいだとも思いたいけれどいかんせん、視線がバリバリ感じるわけ。

同じ授業なんか悲惨だ。

良くて三個後ろ、最悪真後ろに座ってくるのだ、奴は!

普段から数人の男友達としか一緒にいない彼が、偶然には出来すぎなくらい一人の女の子の近くにいくって噂まで立つ始末。

目立ちたくない私としてははた迷惑なわけで………


《いっそ思い切って話しかけなよ》

「嫌だなぁ、迷惑だわ」


ちょうどギャイギャイふざけあいながら歩いてきた女軍団に重ねて言った。

睨んできたから睨み返す。

腕が思いっきり当たったんですけど。


「邪魔よ根暗女!!」

《嫌ぁね、ブサイクのくせに。きったなく塗りたくって重ねただけのケバい化粧に、日本人顔には似合わないキンキラキンの金髪なんかしてるのに。髪も阿呆みたく盛ってホステスみたいなくせに。って言って》


誰が、んな煽ること言うか。

そう思ったのは確かだけど。






「人にぶつかっといて随分な言い方だな」

「かっ春日井くん!」


アゲ嬢達が黄色い声を上げだす。

っつーか、よくこの学校入れたなって思うよ。

あれかな、頭がいい馬鹿なのかな。

うん、きっとそうだ。


「おい、お前ら」

「なぁに?」




「根性悪な馬鹿は不愉快だ。失せろ」






わーお






※※※※※






女の子達は慌てて去っていった。

私はというと、呆然。

あれ、聞き間違えじゃ………


「マヌケみてぇにいつまでもボケッとしてんな」


………なかったか。

性格は好ましいとかじゃないのか?

口がかなり悪いんだけど。


「言っておくが、これが標準装備(デフォルト)だからな」


誰だ性格良いって言ったの。

責任者出てこい。


「おい、お前まで現実逃避すんなよ」

「噂ってホントに当てにならないのねって思っただけよ。大体、現実逃避って」

「さっきの奴ら、今頃あれは何かの見間違いで聞き間違いだと錯覚してまた妙な幻想抱いてるだろうな」

「ああ、イケメンはトイレいかない、みたいな?」

「そう」


ふーん、イケメン君も大変ね。

というかそんな現実逃避しちゃいたいくらい、ギャップがあるか?

むしろ私的には顔と中身が今、ぴったりマッチングしたんだけど。

ま、いらん情報だわな。


「追い払ってくれてありがとう。じゃあ」


さよなら、多分もう関わることはないわ。


「まさか、見てたことに気づいてねぇの?」




そうは問屋が卸さなかったか。




気づいてたわよ、でも全力でスルーさせてよ、面倒事に関わりたくないのよ!


「幸い一限目は同じ講義取ってる知り合いがいる――――よかったな」


全然よくない。


《こっちに穴場があるよ〜》


案内すなっ!

………って、あれ?






※※※※※






腕を引っ張られて延々と連れてこられたところは立ち入り禁止の教室。

校舎が古くなって新しい校舎も出来たってことで使用禁止になったエリアが沢山ある。

潰さずに残しているのは経費削減とか言われてるみたいだけど、桃代いわく、っていうか桃代自身が原因だったりする。

校舎の取り壊し作業が始まるたびに色々と脅かして幾度も中止に追い込み………結局経営者たちは可哀想に、そのまま残すことに決めたのだ。

今では一階の廊下部分だけ解放され、夏場は日陰を通りながら、突然の雨には雨避けとして生徒や教授陣に使われている。

ちなみに、桃代が落ちた窓もこのエリアのどこからしい。(詳しい場所は教えてくれなかった)


「かす、春日井さん」

「なに」

「はっはや、い。うでも、いたいし」


なんとか呼び止めて腕を離してもらった。

ふぅ、やっと一息つける。

軽く(でもないくらい)息が上がっちゃって、もー。

競歩選手じゃないんだこっちは!


「このくらいで。運動不足」

「足のリーチを考えなさいよね」


ああ、もう本当に性格が好ましいって?!

世界中の性格が好ましい人に謝れってんだ。





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